会社の経営をしていると、社会情勢や経済的状況によって資金繰りが苦しくなってしまうことがありますよね。資金繰りが苦しくなったと感じたら、早急に改善策を検討して資金繰りの悪化を防がなくてはいけません。
資金繰りを改善するときは、現金の用意や経営環境の改善などの施策を打つようにしましょう。会社を維持できる現金を確保しつつ、資金繰りが悪化した根本原因を解消しなければいけないからです。
この記事では、会社の資金繰りを改善するときの方法について解説します。資金繰りを改善したいときは金融機関と返済スケジュールを交渉から始める
金融機関から借入金がある状態で資金繰りが苦しくなったときは、金融機関と返済スケジュールの変更を交渉しましょう。リスケジュールと呼ばれるもので、交渉によって1回の返済額を減額することができれば、資金繰りを改善できるまで経営を持ちこたえさせるのに効果があります。
借入金の返済スケジュールを変更しても、借入金の返済がなされれば金融機関からの信用も傷つきません。むしろ、借入金の返済が1回でも滞ることの方が信用に影響があるため、資金繰りが苦しくなったら、返済スケジュールの見直しを行ってください。
金融機関にリスケジュールを申し込むときは、新しい返済スケジュールで返済が行える根拠を金融機関に説明しなければいけません。論理的な根拠をもとに説明できるように、今後の事業計画や資金繰り表を作成するなどの準備をしましょう。
資金繰りを改善するには現金の用意が必須
会社経営で悪化した資金繰りを改善するには、今後3~6カ月間の営業で得られる現金を確保する必要があります。会社が保有する現金の水準を高めて、資金繰りが完全に回復するまで赤字が続いても会社が持ちこたえられるようにしなくてはいけないからです。
資金繰りが苦しい会社が現金を用意する方法としては、次の4つがあります。
- 金融機関から融資を受ける
- 売掛債権を早急に回収する
- 資産を売却する
- 株式を発行する
上記は資金繰りが苦しい会社でも可能な現金調達の方法ですが、営業利益3~6か月分の現金の用意には時間がかかるため、資金繰りの改善はできるだけ早期に対策を打つことが肝心です。資金繰りが苦しいと思ったら、早めに現金調達ができるように準備してください。
金融機関から融資を受ける
金融機関から融資を受けることは、資金繰りの改善に効果的です。融資を受けると返済の義務が発生しますが、当面の運転資金を得られるので、直近の資金繰りを改善することができるからです。
日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの公的金融機関では、資金繰りが悪化している会社を支援することを目的とした融資制度を設けています。
【資金繰りの改善を目的として利用できる融資制度】
通称マル経融資と呼ばれるもので、商工会議所・商工会等による経営指導を受けた経営者に対して、日本政策金融公庫が融資を行うものです。 | |
セーフティネット貸付は、災害や物価の高騰など社会的・経済的な要因で経営が悪化している経営者を支援することを目的とした融資制度で、日本政策金融公庫で利用できます。 | |
制度融資は地方自治体と金融機関、信用保証協会が連携して、経営が悪化している経営者を支援する取り組みです。地方自治体によって利用できる制度融資は異なるので、利用する際は地域の自治体で確認してみてください。 |
金融機関から融資を受けるときは、返済能力の有無などを見られる融資審査に通過しなければいけません。事業計画書などを作成して、融資を受けた後の経営改善案や返済計画の説明できるようにしておくと、金融機関の融資審査にも通過しやすくなる可能性があります。
売掛債権を早急に回収する
資金繰りを改善したいときは、売掛債権を早急に回収できるように準備を進めましょう。売掛債権を早期回収するということは、将来的に会社が手にする現金を早めに手にいれることなので、会社が抱える現金不足を一時的に解消することができます。
売掛債権は通常、事前に定められた決済日に入金がされます。売掛債権を定められた決済日よりも前に回収するには、手形割引を利用する必要があります。
手形割引は、売掛金や受取手形といった売掛債権を金融機関や手形割引業者で換金することをいいます。決済日に受け取れるはずだった代金から手数料を引かれてしまいますが、決済日よりも早期に現金を得ることができるので、資金繰りの改善のための資金調達の方法として有効です。
売上債権は発生してから実際に回収するまでの期間が長ければ長いほど、資金繰りが悪化してしまうので、資金繰りを改善するときは未回収の売掛債権も把握しましょう。
資産を売却する
資産を売却することも、資金繰りの改善につながります。会社で所有しているのに使われていない設備などを売却して資金に還元すると、資金繰りの改善に効果があるからです。
売却する資産は、機材設備や社用車など形がある固定資産が望ましいでしょう。売却時に価値の算出がしやすく、売りやすいからです。
反対に、特許や営業権のような実体のない無形固定資産は価値の算出が難しいため売りにくいでしょう。ただし、売掛債権などはファクタリング会社などを通じて売却することができます。
しかし、ファクタリング会社を通じて売掛債権を売却すると、手数料として売掛金額の30%ほどが取られるケースがあります。高額な手数料の支払いを避けるためにも、売掛債権を処理したいときはまず手形割引などを検討してみてください。
株式を発行する
株式会社であれば、株式を発行して投資家に購入してもらうことでも資金繰りの改善につながります。株式を発行して得た資金は、融資とは異なり返済を考慮する必要もないので、資金繰りが苦しい会社では改善につながります。
資金調達を目的として株式を発行するときは、発行可能株式総数がいくつになっているのかを確認しましょう。発行可能株式総数は会社が株主総会を通さずに発行できる株式のことで、公開会社の場合は発行株式総数の4倍までと定められています。たとえば、発行株式総数が100株とすると、400株まで自由に発行することができます。
資金繰りを改善するために株式を発行するときは、発行可能株式総数の範囲内では足りないケースも考えられます。発行可能株式総数を変更するには、株主総会を開催して特別決議を行う必要があり時間がかるので、株式を発行して資金調達することが決まったら迅速に株主総会の準備を進めた方がいいでしょう。
悪化した資金繰りを改善するために見直すべき経営体制
資金繰りを改善するには、会社の環境も改善する必要があります。資金繰りが悪化した原因は、会社の経営体制に問題があると考えられるので、根本的な問題を解決できなければ資金繰りは改善されないからです。
資金繰りを改善するために見直すべき会社の経営体制はいくつかありますが、主に見直すべきことは次の6つです。
- 資金繰り表を作成しているか
- 現金が不足しないように入出金を管理できているか
- 会社経営にかかる経費を削減しているか
- 適正な利益率になっているか
- 貸付金と仮払金は可能な限りゼロになっているか
- 投資にはお金をかけすぎていないか
資金繰りが悪化している会社は上記の項目ができていない可能性があります。資金繰りを改善するときは、経営状態を見直し、上記ができているかどうかを確認しましょう。
資金繰り表を作成して予測を立てる
資金繰り表を作成すると、体制改善の糸口を見つけることができ、資金繰りの改善につながります。資金繰り表は会社の現金収入や支出をわかりやすくまとめたもので、会社の現金の流れを把握することがでるからです。
資金繰り表は貸借対照表や損益計算書をもとに作成するもので、過去の現金の流れをもとに、1か月後や2か月後に会社にどれくらい現金が入ってくるのかの予測を立てることができます。会社が抱えている支払いと現金の残りを知ることができるので、資金ショートに陥るリスクを前もって把握できます。
資金繰り表は日頃から作成しておくことで、正確なデータを収集して、経営に反映することができます。資金繰り表の作成については「資金繰り表とは 役割と作り方の基本について解説」で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
現金が不足しないように入出金を管理できているか
資金繰りを改善するときは、入金は早く支払は遅くとなるように現金の流れを管理しましょう。会社の資金繰りが苦しくなる原因の1つとして、将来的に会社に入金があって現金を回収できる予定があっても、その前に発生する支払いで現金が不足してしまうというケースがあるからです。
現金が手元にあれば支払いが滞るということはないので、商品やサービスを販売するときは早めに入金がされるように、施策を打ちましょう。たとえば、製造業の場合は注文を受けてから原材料を仕入れる受注生産に切り替えるなどの方法があります。
また、会社に届いた支払いに優先順位を付けるようにしましょう。会社に請求書が届くタイミングと支払期日の順番は一致していないので、届いた順ではなく、支払期日が早い順に支払いを行っていくと計画的な支払いができ、資金繰りの改善につながります。
売上債権回転率をもとに売上の回収を効率化する
売掛債権回転率を改善すると、売掛債権の入金漏れを無くすことができます。売掛債権回転率は、現金化されていない売掛債権がどのくらいあるのかを示す指標で、入出金の管理に役立つからです。
売掛債権回転率は「売上高÷売上債権」で求めることができ、数値が低いほど現金化していない売掛債権が多いことを意味しています。売掛債権回転率が低いときは「回収が遅れている取引相手に催促する」「回収までの期間を早める契約に変更する」などしてください。
不良在庫を処分して経費を削減する
会社経営にかかる経費を削減するのも、資金繰りを改善するのに効果的です。毎月発生する経費の中には、会社を経営していくうえで必要ではないものもあり、そういった無駄な経費を放置してしまうと経営圧迫につながるからです。
経費を削減するときは、ペーパーレス化や消耗品費の購入数の見直したりなど備品の削減のほかに、自社が抱えている不要な在庫の処分も検討してください。製造業や小売業、卸売業など現物として在庫を抱える業種では、売れ残りや過剰仕入れなどで売れ残ってしまった商品がそのまま不良在庫となり経費負担が増えます。
在庫の中には機械類や衣服類のように、消費期限や賞味期限など明確な基準がないため、一見しただけでは不良在庫とわからないものもあります。そのため、不良在庫を発見して、処分する在庫を見極めるには棚卸資産回転率を確認する必要があります。
棚卸資産回転率とは、一定期間で仕入れた商品が売り切れになった回数を示すもので、仕入れから売り切れまでを1回転として表します。回転数が多ければ多いほど、その商品は売れているということになり、反対に回転数が少ないとずっと在庫が残っていることになるので、不良在庫となっている可能性があります。
不良在庫は、需要が少なくて売れ残っている商品であればアウトレットや割引セールなどで販売すると、在庫を消化すると同時に資金を得ることができます。一方で消費期限や賞味期限が過ぎている商品など、販売が不可能な在庫は破棄が必要になります。破棄には費用が発生するケースもありますが、長期的に見れば会社の資金繰りの改善につながります。
原価を下げて利益率の向上を図る
資金繰りを改善したいときは、利益率も見直してみてください。仕入れ代金は高いのに、販売価格が安いなどの状況になっていると、会社が得られる利益が少なくなってしまい、結果的に会社の資金繰りを圧迫して赤字に陥りやすくなるからです。
利益利率は「利益÷売上高×100(%)」で求めることができ、標準的な利益率は10%前後です。そのため、営業利益率が10%を割り込んでいるときは、改善が必要になります。
利益率を見直すときは、原価と販売価格が適切かどうかを見極めなければいけません。原価が適切で販売価格が相場より安ければ、販売価格を上げる必要がありますし、原価が高くて販売価格が適切な時は、原価を下げる施策が必要になるからです。
原価を下げる施策が必要になったときは、原価の中でも金額が高いものから下げていくようにしましょう。たとえば、飲食店で料理を提供しているときは料理ごと、調味料や材料ごとに発生する金額が異なるので、高額で資金繰りの負担になる原価から下げていった方が成果が出やすいです。
原価を下げるときは仕入れ先を見直さなければいけませんが、品質が悪い業者に妥協してしまうと集客に影響が出てしまう可能性があります。複数の見積もりを取り、品質を維持しつつ、現状よりも原価を低く出来る仕入れ業者の情報を吟味するようにしてください。
自社で提供している商品やサービスの利益率が改善後も低迷している場合は、その事業からの撤退を視野に入れましょう。低利益率の事業に割いていたコストを、利益率が優秀な事業に回すことで、更に利益率のアップが期待でき、資金繰りの改善も期待できます。
貸付金と仮払金を可能な限りゼロにする
貸付金や仮払金は可能な限りゼロにするようにすると、資金繰りの改善が期待できます。貸付金や仮払金があることによって、金融機関から資金調達を行う際の審査に影響する可能性があるからです。
貸付金と仮払金はどちらも現金の出費ですが、特徴は異なります。
【貸付金と仮払金の違い】
貸付金とは、会社が一定期間の間に返済してもらうことを条件に個人や別企業にお金を貸し出した時に発生する出費です。返済されれば、現金は会社の元に戻ってきますが、その間会社の現金は減っているので出費になります。 | |
仮払金とは、交通費や交際費など業務を行う上で発生する経費を、従業員に事前に支払うときに発生する出費です。仮払金は一時的な勘定科目で、経費の金額が確定したら、交通費や交際費など正しい勘定科目に仕訳し直します。 |
貸付金や仮払金は、本来1か月から3か月程度の短期間で解消するべき項目です。しかし、会社の管理体制によっては貸付金の返済の管理ができていなかったり、仮払金の仕訳のし直しができていなかったりするケースがあります。
長期的に貸付金や仮払金が残っていると、会社のお金の私的利用や粉飾決算をしている可能性を疑われ、金融機関からの融資が受けにくくなってしまう可能性があります。
会社の資金繰りが苦しいときは融資を受けるためにも、貸付金や仮払金は短期間で解消できるようにしましょう。福利厚生の一部として、従業員貸付制度を設けているときは、賞与を支払い、そのお金で返済をしてもらって貸付金を相殺するなどの対策を打ちましょう。
投資にお金をかけすぎない
資金繰りを改善するには、投資にお金をかけすぎないようにしましょう。投資はお金をかけすぎると、資金が減少して会社の資金繰りが悪化してしまうケースがあるからです。
投資は会社が成長していくうえで必要で、将来的な利益を見越して、現状では赤字でも投資として資金を投入することはあります。しかし、会社の資金力以上の投資を行ってしまうと、利益が出るまでの間、資金繰りが厳しくなってしまうでしょう。
投資のために融資を受けたりするのではなく、営業キャッシュフローの範囲で投資を行えば、経営が悪化するリスクは低くなります。また、資金繰りの改善が必要なときは、新規事業や設備に対する投資を一時停止して、経営の立て直しに注力しましょう。
節税は資金繰りが苦しいときの改善策にはならない
節税は、資金繰りが苦しいときに会社を立て直すための改善策にはなりません。節税は経費を増やすことで支払う税額を減らす方法ですが、経費を増やすと会社の利益が減ってしまうからです。
資金繰りが苦しい会社が経営を立て直すために節税を行うと、利益を落として結果的にさらに資金繰りが悪化してしまうでしょう。資金繰りを改善したいときは、節税をするよりも利益を増やすことを優先して、会社が保有する現金を確保することに注力してください。