飲食業や美容業など、ビジネスの種類によって、どのぐらいの運転資金が必要でしょうか?
業種業態によって資金需要は大きく変わりますが、「狩猟型」と「農耕型」に分けて考えると、どんな業種業態にも、応用がきき、わかりやすくなります。
「農耕型」ビジネスへの転換
「狩猟型」とは、石器時代のようにヤリを持って必死で獲物を追いかけるスタイルのビジネスです。
空腹になれば武器を持って目の前の獲物を仕留めるというスタイルであり、小さな獲物よりも大きな獲物をより追いかけるのが基本です。
目の前の獲物だけに目がいってしまうこともこのビジネスの特徴です。
保険や携帯電話の代理店営業が、典型的な例です。
現在所有している顧客名簿に全部営業をかけてしまえば、それ以上は拡大のしようがありません。
これに対し「農耕型」は、昔ながらの自然界のルールに沿ったビジネススタイルです。
ただし、現代の農薬・化学肥料に依存した農法のことではなく、土地がダメになったらあとは移動する、というような形ではありません。
「農耕型」では、よい作物をつくるため、まずは土壌をしっかりと耕します。
ふかふかとした柔軟性のあるやわらかい土、生きた土をつくることが大切なのです。
よい土をつくるまでは3~5年ほどかかるかもしれませんが、いったんよい土壌ができあがると、あとは毎年継続して、豊かな実がなり、よい収穫を挙げることができるのです。
これをビジネスの世界に置き換えますと、「土壌」とは「商品」「顧客」、「土壌づくり」とは「商品づくり」「顧客づくり」となります。
つまり「土壌をしっかりと耕す」ということは「顧客をじっくりと開拓していく」、あるいは、「商品をじっくりとつくり出していく」ということになります。
IT業界であれば、出店企業から一定の月額収入を徴収できる楽天市場、NTTドコモや au、ソフトバンクのように毎月通話料を確保できる携帯電話事業も、農耕型事業といえます。
また、日本のベンチャーの先駆けといわれるセキュリティ会社セコムやALSOKなどは、新しいタイプの農耕型事業です。
もし、あなたの会社が狩猟型であるなら、少しでいいので、農耕型に変えていくようにしましょう。
転換の可否は、業種に依存しません。
たとえば、リフォーム業であるなら、新規のお客様だけを狙い、新聞広告をうってばかりいるのではなく、既存のお客様のリピートや紹介狙いにシフトしていくように意識しましょう。
また自社ホームページを運営しているのであれば、できるだけ情報量を増やし、その業界全体のポータルサイト的な役割を担えるように努力しましょう。
狩猟型は、ビジネス自体が不安定であり、運転資金をたくさん持っている必要があります。
農耕型なら、売上と利益の予想がある程度立ちますから、運転資金をたくさん持つ必要がなくなり、経営が安定します。
狩猟型から農耕型への転換に成功できれば、あとは自分の業種の特性を知った上で、余裕の資金を持っておくようにしましょう。
おおよそ「月平均支出額 −月額入金額=差額資金」この差額資金の3ヵ月分以上あれば資金的に余裕があるといえます。
農耕型ビジネスへの転換は、運転資金に余裕を生み出すだけでなく、営業利益を継続的に生み出す、最大のポイントとなるのです。
資金繰り表を作成しよう
起業直後の会社が、お金の循環を正確に把握した上で、正しい経営計画を常に立て、資金ショートを起こさないようになるには、ツールが必要になります。
それは資金繰り表です。
要素は3つです。
どのぐらいの入金があって、どのぐらいの出金があり、会社に残る現金はいくらなのか。
入金は、売上や売掛金の回収です。
出金は、仕入、人件費、家賃、水道光熱費などです。
入金から出金を差し引いたものが、会社に残る現金です。
ですから、資金繰り表は、社長であればほぼ全員が「頭のなか」で、ある程度の計算はできていると思います。
ですが、すべてを漏れなく、正確に計算できている人がいるかというと、なかなかいないのが実状です。
また、銀行に融資を求めるときにも、提出を求められることがありますから、資金繰り表は必要です。
起業直後の経営者は、自分で帳面をつける必要はありませんし、決算書をつくらなくても構いません。
全部外注に出して、OKです。
ですが、資金繰り表だけは、自分でつくるようになっておきましょう。
それぐらい大切なものです。
ではここで簡単な資金繰り表をお見せします。
いかがでしょうか。
7月に現金が不足することがわかります。
同じ計算を頭のなかでしていても、お金がなくなるのが、6月~8月頃というように、漠然としか把握できないものです。
この例では、7月に社員のボーナスを出すのか、新商品発売のため、仕入の量を増やすのでしょうか、出金が大きくなっています。
いつ、どのくらい足りないのかが、正確にわかれば、銀行に追加融資をお願いするのか、それとも固定費を削減して捻出するのかなど、対応できるようになります。
このように「できるだけ早い時期に」「正確な金額を」知るためのツールが資金繰り表なのです。
資金繰り表の必要性は、将棋で考えてみるとよくわかります。
アマチュアでも強い人は全員、数手先を読んでいます。
何度やっても負ける人は、3手先すら読まず、自分が今打つ手だけを考えます
プロならタイミングにもよりますが、 20 ~200手先ぐらいまで読むそうです。
資金繰り表をつくるというのは、経営の先の数字を読むことです。
慣れていない人はまず、半年分ぐらいから、自分自身でつくり始めましょう。
半年先が無理なら3ヵ月先でも構いません。
まずはつくることが大切です。
これだけで、経営に対する不安の大部分が払拭できるはずです。
そして、すでに顧問税理士がついている人は、先生に作成をお願いして、1年分をつくってもらうようにしましょう。
それ以上先の数字は、不確定要素が多くなりますから、無駄になります。
また作成後1カ月経ったら、1ヵ月分追加するようにします。
常に1年分を確保することができます。
それでは、実際に資金繰り表を作成する際のポイントをご説明しておきます。
用意するものは、現金出納帳と預金通帳です
下図のフォーマットを利用し、それぞれの項目を書き込み、①②などの区分で合計額を出します。
難しく見えるかもしれませんが、先ほどお見せした簡易の表に、借入金と備品売却の「経常外収入」と、借入金返済と設備投資の「経常外支出」を加えただけです。
書き込むときの注意点としては、入金予定は少なめに、出金予定は多めに、設定しておくことです。
具体的には
- 売上は過大ではないか
- 売上の回収は早すぎていないか
- 仕入は過小ではないか
- 仕入の支払は遅くないか
- 経費は少なくないか
の5つを注意して書き込みます。また忘れやすい項目として
- 賞与、退職金、新入社員の給与
- 労働保険料
- 消費税、法人税、源泉所得税(中間納税もあり)
- 社会保険料(会社負担分)
の4つがあります。
最初の数カ月は、これらの項目を忘れることが多く、資金繰り表の予想数字と、実績がかみ合わないことが多いと思いますが、丸1年経つと、四半期すべての月の傾向を把握することができます。
資金繰り表作成の目的は、つくること自体ではなく、予算と実績を照らし合わせ、確認し、前もって正しい行動を起こせるようになることです。
ですから、毎月月末に、資金繰り表の「確認」「振り返り」「1カ月分の追加」の時間を決めておくことをおすすめします。
その際のチェックポイントはたった4つです。
- 売上代金の回収はもっと早くできなかったのか
- 仕入代金はもっとゆっくり払えなかったのか
- 在庫は減らせなかったか
- 経費は減らせなかったか
これらの点をしっかり分析して次月以降に改善するようにしましょう。
行動するためにも、まずは資金繰り表を「つくること」が大切です。
まずは半年分を目標に自分自身でつくってみましょう。