中小企業庁が行った調査によると、創業をしようと考えている人が最初に直面する課題として起業家のおよそ54.9%の人々が「資金調達」が困難だったという点を挙げています(参考|経済成長を実現する中小企業:中小企業庁)。そして、77.8%の起業家の人々が、「自己資金」によって資金を工面している傾向が強いです。
そこで国は創業を考えている事業主に向けて助成金など様々な支援策を提示しています。
これらの支援制度は創業時に貯金に余裕がない方や、創業間もなく運転資金に頭を悩ませている方には大変な助けになります。
しかし助成を受けるには満たさなければならない要件や注意事項が多くあります。そこで今回は創業支援として助成金を受ける際のポイントと注意点をご紹介します。
1.助成金とは
助成金は国や地方公共団体、民間団体などから支出されるものであり、「お金をもらえる」制度です。
助成金は様々な機関が取り扱っていますが、機関によって助成内容にも違いがあります。
例えば以下の機関が助成金制度を実施しています。
①厚生労働省
厚生労働省は労働環境や雇用、福祉などを管轄している省庁です。そのため、扱っている助成金も雇用に関係する内容のものが多くなっています。 ②経済産業省 経済・産業の発展を管轄する経済産業省が行う助成金制度は、中小企業に対する新技術研究や新製品開発等に対する助成を多く取り扱っています。 ③地方自治体 地方自治体も助成金制度を行っています。地方自治体は地元地域の活性化を目指し、地域に根差した地元の名産品や伝統文化などに対する助成を行ったり、新規事業をバックアップし、商店街の活性化を促しています。 ④民間団体・企業 公益財団法人などが社会の公益への貢献として助成金を制度を設けていたり、ベンチャーキャピタルなどの投資会社も創業を目指す人々に対して資金援助を行っています。 |
助成金は原則的に、申請要件を満たしたうえで申請を行えば、誰でも受給することが可能です。
しかし助成金には1つ大きな注意点があります。それは助成金は実際に使った経費・費用の一部を助成するためのものであるということです。そのため申請をしてもすぐにはもらえず、後払いとなります。
例えば50万円の助成を受ける場合には、まず自分で50万円を用意し、50万円を経費・費用として使って初めて、50万円の助成金を受給することが出来るのです。
(1)助成金と補助金・融資の違い
助成金と補助金は非常に近い制度です。補助金も融資のように返済の必要がないのです。違いは「審査の厳しさ」です。助成金は申請すれば、要件を満たしているのなら原則的に受給することが出来ます。しかし補助金は予算や交付できる数に限りがあり、受給するには厳しい審査を通過しなければならないのです。
助成金と融資の大きな違いは返済の必要性の有無です。
助成金とは、申請し、受けることが出来ると決まれば「お金をもらう」ことが出来る制度です。一方で融資は金融機関から「お金を借りる」ことです。借りているので、借りたお金は返済しなければなりません。
大まかな違いと共通点は以下のようになります。
助成金 | 補助金 | 融資 | |
返済 | 不要 | 必要 | |
審査の難易度 | 申請すれば原則受給できる | 厳しい審査を通過して初めて受給できる | 事業実績や自己資金・信用情報などが総合的に判断され、融資の可否が決まる |
お金が手元に入る時期 | 事業を実施した後の後払い | 融資審査通過後に着金される | |
金額 | 100万円~300万円前後と3つの中では最も少ない | 100万円~500万円前後と助成金に比べるとやや多い | 平均300万円~2,000万円と高額な支援を望める |
支給元 | 国・地方自治体・民間団体・企業 | 金融機関等 |
2.主な創業支援の助成金
創業時に活用できる主な創業支援の助成金をご紹介します。
(1)中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)
中途採用というと創業からすでに時間を経ている事業主の方を対象としているように思われるかもしれませんが、中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)も創業支援に関わる助成金制度です。
中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)には「雇用創出措置助成分」と「生産性向上助成分」の2つの助成内容があり、それぞれに要件があります。
また、助成金を受給するために必要な支給申請も2回行います。
①雇用創出措置助成分
中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)は創業日時点で40歳以上である事業主が利用できる制度です。
雇用創出措置助成分では新たな雇用のために行った募集・採用や教育訓練の実施に要した費用を助成します。注意しなければならないのは助成率と助成額は起業時の年齢によって異なるということです。
40歳~59歳の間で起業をした場合、かかった費用の2分の1を助成します。助成額は最大150万円です。60歳以上で起業をした場合、かかった費用の3分の2が助成され、最大200万円が助成されます。
主な要件としては以下のものがあります。
①起業日から起算して11か月以内に「雇用創出措置に係る計画書」を提出し、都道府県労働局長の認定を受けていること
②事業継続性の確認として、以下の4事項のうち2つ以上に該当していること ・起業者が国、地方公共団体、金融機関等が直接あるいは第三者に委託して実施する創業に係るセミナー等の支援を受けていること ・ 起業者自身が当該事業分野において通算10年以上の職務経験を有していること ・ 起業にあたって金融機関の融資を受けていること。 ・ 法人または個人事業主の総資産額が1,500万円以上あり、かつ総資産額から負債額を引いた残高の総資産額に占める割合が40%以上あること ③雇用創出措置に係る計画書の認定後の計画期間内(12か月)に60歳以上の者を1名以上、40歳以上60歳未満の者を2名以上または40歳未満の者を3名以上雇い入れること ④支給申請書提出日において、計画期間内に雇い入れた対象労働者の過半数が離職していないこと ⑤起業日から起算して支給申請日までの間における離職者の数が、計画期間内に雇い入れた対象労働者の数を超えていないこと |
雇用創出措置助成分を受給するには支給申請を行わなければなりません。支給申請期間は計画期間終了日から2か月以内です。
②生産性向上助成分
生産性向上助成分は「雇用創出措置に係る計画書」を提出した年度とその後3年間の生産性を比較し、6%の伸び率を確認できた場合に支給されます。助成額は雇用創出措置助成分で支給された助成額の4分の1です。
生産性向上助成分を受給するための要件は以下の通りです。
①雇用創出措置に係る助成金を受給していること
②支給申請時点において「雇用創出措置に係る計画書」における事業が継続していること ③雇用創出措置助成分の支給申請日の翌日から生産性向上助成分の支給申請日までに、雇用する雇用保険被保険者を事業主都合で解雇していないこと |
生産性向上助成分の受給を受ける場合も支給申請を行います。支給申請期間は「雇用創出措置に係る計画書」を提出した日から3年目の年度が終了した日から5か月以内です。
中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)の詳細については厚生労働省のサイトでご確認ください。
参考|厚生労働省 途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)
(2)創業助成金
東京都中小企業振興公社が実施している「創業助成金」は東京都内で創業を考えている、または創業後5年以内の事業主を対象に助成を行うものです。
助成の対象となる経費は以下の6つです。
①賃借料
②広告宣伝費 ③器具備品購入費 ④産業財産権出願・導入費 ⑤専門家指導費 ⑥従業員人件費 |
①助成額
創業助成金の助成額は最小100万円~最大300万円で、助成率は助成対象となる経費のおよそ3分の2以内です。
②創業助成金を申請出来る人
創業助成金の助成は、前提として代表者歴が通算で5年未満であり、東京都内の中小企業の事業主、または都内で具体的に創業を計画している個人であることと、「TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援終了者」「東京都制度融資(創業)利用者」「都内の公的創業支援施設入居者」など対象の要件を満たした方でなければ申請することが出来ません。
そのため創業助成金の助成を今から受けようと考えている方で、上記の対象となる制度を利用したことのない方は、まず初めに上記の要件を満たすことから始めなければなりません。
ただし、要件を満たすには2か月以上を要するので時間に余裕のある人でなければなかなか難しいでしょう。
申請要件はこちらから確認することが出来ます。
③創業助成金の申請から交付まで
創業助成金の申請は以下の流れで進みます。
①申請書作成
②申請書の提出 ③書類審査 ④面接審査 ⑤交付の決定 ⑥事業実施 ⑦完了報告 ⑧助成金の交付 ⑨継続的支援 |
東京都中小企業振興公社に提出した申請書をもとに書類審査と面接審査を経て、交付の決定の可否が判断されます。そのため助成金の申請から交付の決定に至るまでおよそ4か月を要します。
交付が決定されても助成金はまだ支給されません。助成金は申請した事業計画を実施し、実際にかかった費用を公社に提出してようやく受給できるのです。
④創業助成金の申請受付期間
創業助成金は4月と10月の年2回、受付期間が設けられています。通年で行われているわけではありませんので、申請する際は最新の情報をホームページ等で確認するようにしましょう。
最新の情報はこちらから見ることが出来ます。
参考|東京都創業NET
(3)中小機構によるファンド出資事業
「ファンド」とは簡単に言ってしまえば投資家や金融機関等からお金を出してもらい、事業を進めていく中で成長・発展した企業から出た利益を、投資家や金融機関等に分配するものです。
民間企業の中には投資事業を行う企業もあり、中小機構はそういった投資会社と連携して創業や新規事業の開拓を考えている中小企業の資金調達支援を行っています。
新たに創業を考えている事業主の方がファンドを利用した出資を受けるためには、以下の手順を踏んで行う必要があります。
①経営計画・事業計画の策定
②投資会社を探す/投資会社への問い合わせ ③投資会社による審査、投資決定 |
①経営計画・事業計画の策定
ファンドの出資を受けるには経営計画・事業計画を投資会社へ提出しなければなりません。投資会社は提出された計画をもとに出資するかどうかの判断を行いますので、非常に重要な書類です。
自分だけで経営計画・事業計画の策定を行うことに不安を感じる方は中小機構で相談を受け付けていますので、相談してみるとよいでしょう。
参考|中小機構 経営相談
②投資会社を探す/投資会社への問い合わせ
経営計画・事業計画の策定が完了したら自社に出資してくれる投資会社を探します。
中小機構のファンド検索システムを利用すれば各地のファンド運営者を調べることが可能です。
その中からご自身で出資を受けたい投資会社を選び、問い合わせをします。
③投資会社による審査、投資決定
策定した経営計画・事業計画が投資会社の審査を通過すれば、投資を受けることが出来ます。
ファンドの出資をご希望の方で、より詳しく知りたい方は中小機構のサイトでご確認ください。
参考|中小機構
3.助成金を受ける際の注意点
①助成金は受け取りに時間が掛かる
助成金は原則的に後払いであり、受け取るまでに時間が掛かります。そのため、助成金制度を利用する際はあらかじめ自分で必要な資金を用意する必要があります。
助成金を利用するのだから自己資金がまるっきりなくても大丈夫、などということはないということを覚えておきましょう。
②助成金の申請には労力が必要
助成金を受けるためには少なからず審査を受け、パスしなければいけません。審査は助成金を支給するに足るだけの事業なのかどうかということをみられます。そのため申請書の作成などは丁寧に行う必要があり、時間と労力が必要です。
③助成金は原則支給される。でも絶対ではない
厚生労働省の助成金などは原則要件を満たしていれば助成されます。
しかし、募集人数が決まっている助成金の場合、応募倍率が高いと審査に落ちてしまうこともあります。助成金によっては申請しても受給できないケースがあるということを覚えておきましょう。
④助成金だけで創業を試みることはNG
助成金は返済不要の支援制度ですが、助成金だけで創業資金をまかなうことは無理です。そのため、補助金や融資などを利用することも考慮しましょう。
助成金よりは受給するためのハードルが高くなりますが、事業計画をきちんと作り、準備をすれば創業に向けて大きく前進させる助けになります。
例えば日本政策金融公庫は創業を目指す方々の支援に力を入れています。そのため、新たに事業を始める方や、事業を始めて間もない方など実績の少ない場合でも比較的融資を受けやすい、政府系金融機関です。いきなり銀行などに融資を頼みに行くのではなく、まずは日本政策金融公庫で融資を受けることが出来るかどうかチャレンジしてみてはいかがでしょうか。日本政策金融公庫について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
参考|日本政策金融公庫
まとめ
助成金は基本的に返済の必要がないものです。ただし実際にお金が手元に来るのは事業開始後となるのである程度の資金の用意はしておかなければならないということを覚えておきましょう。
しかしそのようなデメリットがあるとしても、創業をしようとする時、自己資金だけで行うことは中々に困難です。当初予定していた予算よりも多くの費用が掛かってしまう、というようなこともあります。そのような際に創業支援を目的とした助成金制度の利用を考えてみることは、決して損にはならないはずです。