スタートアップが資金調達を行う方法はいくつかありますが、よく挙げられる手段のひとつがベンチャーキャピタル(VC)からの出資です。
近年VCからの大型の資金調達が話題になることも多く、その役割も大きなものとなっています。
起業を考えている方、既に起業されている方の中には、どうすればVCからの出資を受けられるのか、その条件を知りたいという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事では、ベンチャーキャピタルの役割、スタートアップ企業の資金調達方法、VCから資金調達を受けるメリットとデメリット、調達に成功する企業の要件について詳しく解説していきます。
1.ベンチャーキャピタルの目的と役割
ベンチャーキャピタル(VC)とは、スタートアップなど高い成長が見込める未上場企業に投資する投資会社です。ベンチャーキャピタルの目的は、株式公開を支援するために企業に出資し、株式公開(IPO)後の株式売却によって利益を得ることです。
その一方で、ベンチャーキャピタルは新しい産業を育成していく原動力の役割も果たしています。
特に最近では、「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)」と呼ばれる、投資を本業としない事業会社による投資が活発化しています。
例えば、大手通信会社・NTTドコモが親会社の株式会社NTTドコモ・ベンチャーズは、起業して間もないスタートアップ企業の支援を通じてNTTグループとの協業を図り、自社サービスの付加価値を創造する取り組みをしています。
このように、自社の事業領域とのシナジーを期待できる企業へ投資することで、本業を成長させていくためのCVCを設立する大手企業が増えているのです。
下記表では、日本国内の主なCVCを一覧にまとめています。興味のある方は各ファンドのWebサイトもチェックしてみてください。
■ 国内の主なCVC(経営支援ガイド編集部調べ)
■株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ
【投資対象】 情報通信関連分野において、今後成長が有望視される様々な技術やノウハウを持つ国内外のベンチャー企業等 【主な投資先】 株式会社スペースマーケット, Retty株式会社 |
■KDDI Open Innovation Fund
【投資対象】 国内外のIT系ベンチャー企業 【主な投資先】 Repro株式会社, 株式会社ギフティ |
■YJキャピタル株式会社
【投資対象】 ・ITの特性を活かしたビジネスモデル ・モバイル分野に関連したサービス ・既存産業、既存の市場に対して、ITを活用することで 新しいユーザー体験を創出するサービス ・中小企業向けのITサービス ・海外市場も視野に入れ、グローバル展開を目指すビジネス 【主な投資先】 ラクスル株式会社, 株式会社みんなのウェディング |
■31VENTURES
【投資対象】 三井不動産グループのアセットのフル活用による新事業創出を含めた共創の観点で、以下を満たす企業。 ①市場性 ②革新性 ③収益性 ④シナジー ⑤信頼性 【主な投資先】 株式会社クリーマ, 株式会社おかん |
■伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
【投資対象】 IT関連全般及びITにより付加価値化が見込める新たな成長領域 【主な投資先】 Mirrativ,yappli |
■サイバーエージェントキャピタル
【投資対象】 成長産業でポテンシャルの高いインターネットビジネスに特化 【主な投資先】 クラウドワークス株式会社, コードキャンプ株式会社 |
■GMO Venture Partners
【投資対象】 GMOグループの強みを活かせるIT系ベンチャー 【主な投資先】 Chatwork株式会社,C Channel株式会社 |
■JAL Innovation Fund
【投資対象】 Travel & Transportation , Lifeに関わる国内外のスタートアップ企業 【主な投資先】 Volocopter GmbH, Bestmile SA, Fetch Robotics, Inc. |
このほか、ベンチャーキャピタルには政府系、証券会社系、銀行系、保険会社系、独立系などいくつかの種類があり、投資対象となる業種も大きく変わります。
下記記事では主なベンチャーキャピタルの一覧をご紹介していますので、ご興味があればチェックしてみてください。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるために必要な3つのポイント
2.スタートアップ企業の資金調達
スタートアップ企業の成長度合いの格付け指標「シリーズシード」
スタートアップ企業を評価する上で使われるひとつの指標が「シリーズシード」です。
「シリーズシード」とは、企業の成長度合いを分類した指標です。「シード」、「シリーズA」、「シリーズB」、「シリーズC」の4ステージに分けることができます。
企業がこれら4ステージのどの成長段階かによって、投資額の範囲などを含む格付け(投資ラウンド/ラウンド)が決定され、ベンチャーキャピタル・投資家は投資額を決定していくことになります。
以下に、各ステージの詳細を説明します。既に事業をはじめている方は、自社がどの段階にあるかを確認するようにしましょう。
– シード
創業準備段階で、これから創業しようとしている企業の成長段階です。英語で「種」を意味する「シード(seed)」から来ています。
まだビジネスプランを策定している段階ですので、起業家ひとりもしくは少人数のチームで構成されます。
– シリーズA
どのようなビジネスモデルで事業を展開するかが出来上がっている段階です。商品・サービスの詳細や開発における期間・人員も見えており、ビジネスを軌道に乗せる準備をするのがシリーズAです。製品・サービスを売るための市場調査や、認知獲得のための広告費など、多額の調達資金を必要とします。
– シリーズB
商品・サービスの公開後事業が軌道に乗り、売上が安定化している段階です。売上見込みが立っているため、さらに事業を成長させるべく新規の設備投資や人件費が必要になってきます。
– シリーズC
事業が安定化し、黒字経営を維持している段階です。スタートアップにおいては最終成長段階ともいえるのがこの時期です。このシリーズCの段階で、ベンチャーキャピタルは多額の利益を得ています。
シリーズシード別でみる資金調達方法
これら4つのステージごとの資金調達方法を詳しく見ていきましょう。各ステージの主な資金調達方法と、調達額の目安は下記表の通りです。
シリーズシード | 段階 | 資金調達方法 | 調達額の目安 |
シード | 創業期 | ・日本政策金融公庫 | 600万円~1000万円 |
シリーズA | 成長途上期 | ・日本政策金融公庫
・エンジェル投資家 ・ベンチャーキャピタル ・ファクタリング |
1000万〜3000万円 |
シリーズB | 急成長期 | ・民間の金融機関
・ベンチャーキャピタル |
数億円 |
シリーズC | 安定期 | ・民間の金融機関
・IPO |
数億円〜十数億円以上 |
①シード段階の資金調達
創業準備段階のシード期では、実績もなければ社会的な信用もないため、民間金融機関からの資金調達は難しいといわれています。
シード期の資金調達方法として確度が高いのは、日本政策金融公庫の創業融資を受ける方法です。
日本政策金融公庫は日本政府が100%出資する「政府系金融機関」です。スタートアップの起業を考えはじめたばかりの方には聞き馴染みがないかもしれませんが、「国民生活の向上」と「民間金融機関の補完」を目的に、中小企業や個人事業主への積極的な支援を行っています。
日本政策金融公庫の創業融資であれば、自己資金をコツコツ貯めた上、事業計画をきちんと立てているなど、融資の審査を通過しやすい条件が揃えば、低金利で融資を受けることが出来ます。
創業融資の申込みはご自分ひとりで行うことももちろん可能ですが、その場合、審査に落ちてしまう可能性も高いです。申込みにあたって必要な書類も多く、各書類を不備なく揃えた上、融資面談という公庫担当者との直接のやり取りもありますので、本来であれば事業準備にかけたいはずの時間もその準備にとられてしまいます。
そういったやり取りを効率よく進め融資の成功確率を上げたいなら、認定支援機関を経由した融資申し込みをおすすめします。認定支援機関とは、中小企業や小規模事業者の相談・支援を行う、国が認定している公的機関です。
当サイトを運営している株式会社SoLaboも認定支援機関です。これまでに1,600件以上の融資サポートを実施してきましたので、「今の状況で融資が受けられるのか」「融資を成功させるためにどのような準備が必要なのか」など、融資に関する疑問をお持ちの方はぜひお気軽にご相談ください。
なお、日本政策金融公庫への融資審査申込みから確定までの流れを解説した記事は下記になります。
日本政策金融公庫から融資を受けよう!申込から融資確定までの流れ
②シリーズA段階の資金調達
シリーズA段階の資金調達では、さきほどシード段階の資金調達方法としてご紹介した日本脊索金融公庫から融資を受けるほかに、ベンチャーキャピタルからの資金調達もあげられます。目安としては、1憶円以上の売上高がある場合、VCから調達できるケースが多いです。事業価値の評価によっても変わりますが、シリーズAの資金調達額は1000万円〜3000万円が一応の目安としてあげられます。
また、VCから調達するほか「エンジェル投資家」からの資金調達もあり得ます。エンジェル投資家とは、VCとは異なり個人でスタートアップに出資を行う投資家のことです。
スタートアップへ投資を行った個人投資家に税制上の優遇措置を実施する「エンジェル税制」という制度もありますので、有効活用しましょう。詳しくは下記中小企業庁の案内をご覧ください。
なお、エンジェル投資家については下記記事でも詳しく説明していますので、スタートアップの起業をお考えの方や既に起業されている方には一読をおすすめします。
③シリーズB段階の資金調達
シリーズB段階まで成長してくると、事業が軌道に乗ることで社会的信用も出てくるので、民間金融機関から融資を受けやすくなってきます。
VCからも株式上場する可能性があるとして高い成長性を見込まれ、出資を受けられる可能性も高くなるでしょう。こちらも事業価値の評価によって変わりますが、シリーズBにおける資金調達額の目安は数億円ほどと言われます。
④シリーズC段階の資金調達
黒字経営が安定化し、社会的信用も確かなものになったシリーズC段階では、融資先に困るようなことはまずないでしょう。さらにビジネスを飛躍させるために、大型の資金調達を行う例もあります。シリーズCにおける資金調達額の目安は数億円〜十数億円以上と言われています。
また、この段階は、新規株式公開(IPO)や合併・買収(M&A)を意識するときでもあります。
シリーズC段階の企業が上場を希望しIPOを行えば、VCは保有する株式を大量に売却し、大きなリターンを得ることが出来るのです。
もちろん、事業が安定化し順調に成長したとしても、IPOを見送り未上場でいることも可能です。このあたりの判断は市場等の状況に応じて変わってきます。
3.ベンチャーキャピタルからの資金調達が決定するまでのプロセス
投資決定までの審査の流れ
ベンチャーキャピタルによっても投資に至るまでの流れは異なりますが、基本的には下記のように審査を進めていきます。
■審査の流れの例
1.初回ヒアリング
ベンチャーキャピタルの投資担当者とコンタクトをとり、事業の説明を行います。 |
2.書類提出
スタートアップ企業側から、投資担当者へ事業計画書等の書類を提出します。 |
3.面談
投資担当者から改めて事業に関する質疑応答を受けます。このとき、実績等に関連するエビデンスの提出を求められることもあります。 |
4.デューデリジェンス
「デューデリジェンス(Due Diligence)」とは、ベンチャーキャピタル等の投資家が、投資対象となるベンチャー企業の財務や法務、事業の詳細やそのリスク等をチェックするプロセスです。その企業の特徴によって、財務、税務、ITなどチェックが必要な分野も変わってきますので、各分野に応じた専門家にチェックを依頼することになります。 |
5.契約内容の交渉
デューデリジェンスの結果を踏まえ、ベンチャーキャピタルとスタートアップ企業間で、具体的な投資契約の交渉を実施します。 |
6.投資決定
無事投資が決定すれば、調印となり、契約完了です。 |
一般的には、初回ヒアリングから入金が完了するまでに、平均して半年前後、長ければ1年程度の期間が必要です。
金融機関からの融資と比べると、資金調達が決定するまでの期間が長くかかることが分かるかと思います。
本格的に動き始める前から、ベンチャーキャピタル等の投資家と定期的にコンタクトをとっておけば、初回ヒアリングでのやり取りもスムーズになりますので、日ごろの情報収集を欠かさないよう、アンテナを張っておくようにしましょう。
審査に必要な書類
ベンチャーキャピタルの資金調達の場合、状況によっても異なりますが、下記の資料の提出を求められることが多いです。
・事業計画書
・過去の財務諸表もしくは月次決算書 ・資金繰り表 ・取引先リスト |
資金調達をスムーズに進めるためには、これら資料を初回ヒアリング前に準備しておくことが重要です。ヒアリング後に作り始めてしまうと、予想以上に作成に時間がかかり、資金調達にも遅れが出てしまいます。
特に、事業計画書では、具体的な事業の説明はもちろん、経営計画やどのように収益化するかの出口戦略を分かりやすく整理してまとめる必要があります。
金融機関から融資を受ける場合にも事業計画書が必要になりますが、ベンチャーキャピタルから資金調達を受ける場合、アピールするべきポイントが異なりますのでご注意ください。
■ベンチャーキャピタルから重視される主なポイント
・その企業のビジネスが該当する市場の成長性 ・事業の将来的な成長規模 ・エグジットとしてIPOやM&Aを見据えている |
ベンチャーキャピタルの目的は、企業に出資し、株式公開(IPO)後の株式売却によって利益を得ることですから、事業計画書においても、事業や市場に成長を見込むことができ、短期的に成長可能なスピード感があることをアピールする必要があるのです。
4.ベンチャーキャピタルから資金調達を行うメリットとデメリット
スタートアップの資金調達ではシリーズA~シリーズBにおいてベンチャーキャピタルからの資金調達が実施されやすいといえます。
ベンチャーキャピタルから資金調達を受ける場合、もちろん多額の資金調達を行えるというメリットもありますが、それだけでなくデメリットも存在します。
以下で主なメリットとデメリットを挙げますので、その両方を理解した上で慎重に検討を行ってください。
メリット① 資金の返済義務がない
VCからの資金調達は、金融機関からの融資とは異なり、借入ではなく資金の”投資(出資)”になりますから、資金の返済義務は発生しません。無担保で資金調達できるという点では、非常に大きなメリットです。
メリット② 事業への育成支援を受けられる
VCから出資を受けるということは、資金提供はもちろんですが、同時に彼らの経営ノウハウの提供も受けることができるということです。このように出資者が支援先企業の経営マネジメントに入り込む活動は「ハンズオン支援」と呼ばれます。
出資先のスタートアップ企業の事業が軌道に乗れば、最終的に株式上場によって多額のリターンを得られるわけですから、VCはこのように積極的な支援活動を行うわけです。
デメリット① VCの意向に逆らえず、経営の自由度が低くなる
VCから出資を受けた場合、その企業の株主も出資者であるVCとなります。つまり、VCに経営権を握られているのと同じですから、VCの意向にNOと言うことができなくなってしまいます。最悪の場合、経営者が解任されるというケースもあり得ます。
多額の資金調達を受けられるというメリットと合わせて、経営の自由度が低くなるというデメリットを認識しておきましょう。
経営権をそのままで持ち株比率を落とさず、VCから資金調達をするのは、非常に難易度が高いです。実行の際は、経営の自由度が低くなることを覚悟のうえ、検討しましょう。
デメリット② 株式上場を早まった結果その負担が事業に影響する可能性がある
ベンチャーキャピタルは出資先の株式上場を前提とし、そこからリターンを得ることを目的としたビジネスモデルですから、出資先企業はスピーディーな成長が求められ、株式上場の準備も早い段階から要求されます。
上場準備には業務面でも費用面でも大きなコストがかかる上、上場後も維持のコストがかかりますので、その負担が事業に影響を及ぼす可能性もあります。負担を軽減する方策にも早めに手を打ちたいところです。
4.資金調達に成功する企業の条件
ベンチャーキャピタルからの資金調達においては、事業の将来的な成長性を高く見込まれる必要があります。
それでは、VCからの資金調達に成功するのはどんな企業なのでしょうか。主な条件として下記の4点があげられます。
■ベンチャーキャピタルから出資を受けるために必要な条件
– ①優秀な経営陣であること – ②商品/サービスに優位性があること – ③商品/サービスが売れるための市場があること – ④株式公開の予定がある会社であること |
経営層が優秀であることはもちろん、提供する商品やサービスが競合他社と差別化できるような優位性を持っていなければなりません。また、どんなに商品・サービスが優れていたとしても、顧客からのニーズがなく、一定規模の市場がなければ、事業が大きく拡大する可能性を見込むことはできません。
下記記事では、高額な資金調達に成功した企業の共通点を詳しく解説しています。スタートアップの起業を考えている方はぜひご一読ください。
ベンチャー企業に向いている資金調達法は?高額資金調達に成功した企業の共通点
まとめ
VCから出資を受けるには、事業・市場の成長性を見込めるかどうかが大きく関わってきます。新たな技術やビジネスモデルを生み出すことが出来れば、既存企業には難しい、飛躍的な成長も考えられますので、そのような将来性も見られているのです。
今回ご紹介した資金調達を受けるプロセスを参考に、事業を大きく成長させていくための準備を進めていきましょう。