2022年3月に、経済産業省により中小企業活性化パッケージが発表されました。中小企業活性化パッケージとは、ポストコロナを見据えた11種類の事業復活支援施策をまとめたものをさします。
ここでは、中小企業活性化パッケージの11種類の施策について解説していきます。中小企業活性化パッケージに含まれる中小企業支援施策についても、公開されている情報をもとにお伝えしますので、参考にしてみてください。
中小企業活性化パッケージとはポストコロナを見据えた事業復活支援施策をまとめたもの
中小企業活性化パッケージとは、ポストコロナを見据え11種類の事業復活支援施策をまとめたもののことです。
経済産業省が金融庁、財務省と連携をとり策定した施策で、資金繰り支援の継続や債務に苦しむ中小企業の収益力改善、事業再生、再チャレンジを促すことを目的としています。
中小企業活性化パッケージでは、既存施策の期間延長や新規施策が含まれており、幅広い範囲の事業者が対象となる取組になっています。
また、今後は中小企業活性化パッケージに基づき、中小企業の活性化に向けた施策が展開されます。
中小企業活性化パッケージは2種類にわけられる
中小企業活性化パッケージは、支援施策の内容によって次の2つの分類にわけられています。
- コロナ資金繰り支援パッケージ
- 収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援施策パッケージ
コロナ資金繰り支援パッケージは、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者や有事の事業者を対象にした融資の申請期間の延長についてまとめられています。
収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援施策パッケージは、事業者の状態に応じた支援施策が3フェーズにまとめられています。
また、収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援施策パッケージの実施のため、47都道府県に中小企業活性化協議会の設置が予定されています。
今後の資金需要に対応するためのコロナ資金繰り支援施策パッケージ
コロナ資金繰り支援施策パッケージは、中小企業の資金需要に対応するための施策がまとめられたパッケージです。具体的には、年度末や来年度以降の資金需要への対応として、次の3つの施策があります。
- セーフティネット保証4号の期限延長
- 政府系金融機関による実質無利子・無担保融資の継続等
- 日本政策金融公庫の新型コロナ対策資本性劣後ローン
セーフティネット保証4号の期限延長
セーフティネット保証4号の申請期限が、2022年3月1日から2022年6月1日まで延長されました。
セーフティネット保証4号は、突発的災害の影響を受けて売上が減少した中小企業の支援を目的とした保証制度です。新型コロナウイルスによる売上減少もセーフティネット保証4号の対象になっており、一般の保証限度額とは別枠で保証を受けられます。
セーフティネット保証4号の対象企業は次の通りです。
【対象中小企業】
①指定地域において1年間以上継続して事業を行っていること。
②災害の発生に起因して、当該災害の影響を受けた後、原則として最近1か月の売上高等が前年同月に比して20%以上減少しており、かつ、その後2か月を含む3か月間の売上高等が前年同期に比して20%以上減少することが見込まれること。
新型コロナウイルスによる売上減少の場合、指定地域は全国都道府県が対象になります。
セーフティネット保証に関しては、次の記事も参考にしてみてください。
政府系金融機関による実質無利子・無担保融資の継続等
政府系金融機関が融資をおこなう、実質無利子・無担保融資、危機対応融資を、融資期間を15年から20年に延長した上で申期限を6月末まで延長しました。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて業況が悪化している事業者が対象で、中長期的に業況が回復し、発展することが見込まれる場合に借入できます。
実質無利子・無担保融資をおこなうのは、日本政策金融公庫(中小事業、国民事業)、商工中金の政府系金融機関です。また、公式サイトでは「新型コロナウイルス感染症特別貸付」という制度名で記載されています。
新型コロナウイルス感染症特別貸付の概要は次の通りです。
【上限額】
日本政策金融公庫 中小事業 |
日本政策金融公庫 国民事業 |
商工中金 |
3億円(実質無利子) 6億円(融資枠) |
6000万円(実質無利子) 8000万円(融資枠) |
3億円(実質無利子) 6億円(融資枠) |
貸付期間:設備資金、運転資金ともに20年以内
要件:新型コロナウイルス感染症の影響により、 最近1ヶ月間の売上高が前4年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少していること。
利率:融資後3年間は基準利率-0.9%、4年目以降は基準利率
また、次の売上減少率を超えた場合は、利子補給を通じて当初3年間、実質無利子・無担保融資の適用がされます。
小規模の個人事業主 :5%以上 小規模の法人 :15%以上 その他 :20%以上
申請方法は、 日本政策金融公庫公式サイト または 商工中金公式サイト から確認してみましょう。
日本政策金融公庫の新型コロナ対策資本性劣後ローンの継続
日本政策金融公庫が融資をおこなっている新型コロナ対策資本性劣後ローンが来年度末(2023年3月末)まで継続になりました。
新型コロナ対策資本性劣後ローンの特徴は、民間金融機関が自己資本とみなすことができることや毎月の返済がないため、期日一括返済により返済負担が抑えられることがあります。
民間金融機関が自己資本としてみなすことができるため、融資が受けやすくなる傾向にあり、資金繰りの改善に繋がります。
融資対象条件は、事業計画書を策定している事業者かつ、金融機関から1年以内に融資を受ける予定があることです。また、認定支援機関と連携している事業者も対象になる場合があります。
申請条件の確認は、 日本政策金融公庫公式サイト または連携する認定支援機関に問い合わせてみましょう。
事業状態によって3つのフェーズにわかれる総合的支援施策パッケージ
総合的支援施策パッケージは、事業者の状態に応じて最適な対応をするため、次の3つのフェーズにわけられています。
- 収益力改善フェーズ
- 事業再生フェーズ
- 再チャレンジフェーズ
収益力改善フェーズは売上が低下している事業者、事業再生フェーズは債務超過に陥っている事業者、再チャレンジフェーズは破産やすでに廃業した事業者向けのフェーズです。
また、3つのフェーズを一元的に支援する中小企業活性化協議会の設置も予定されています
支援機関の伴走による収益力改善フェーズ
収益力改善フェーズは、認定経営革新等支援機関や中小企業活性化協議会の支援を受けて収益力の改善を目指す2つの施策があります。
- 認定支援機関の伴走支援強化
- 協議会による収益力改善支援強化
- 中小企業の事業再生等に関するガイドラインの策定・活用 中小企業再生ファンドの拡充
- 再生事業者の収益力改善支援の拡充
- 個人破産回避に向けたルールの明確化
- 再チャレンジ支援の拡充
認定支援機関の伴走支援強化
認定経営革新等支援機関による計画策定支援に加え、計画実行までの伴走支援が強化されます。中小企業庁が認める認定支援機関に伴走してもらうことで、専門家の見地から経営状況を分析してもらい、事業計画を策定、また実行のモニタリングまでしてもらうことができます。
また、伴走支援を実施した場合に限り、計画策定支援費用に対する支援施策「経営改善計画策定支援事業制度」の運用へと変更になりました。経営改善計画策定支援事業制度を利用することで、国から最大で310万円までの補助を受けられ、計画策定支援費用の事業者負担を1/3にできます。
<4月1日以降の経営改善計画策定支援事業のイメージ>
補助対象経費:①DD・計画策定支援費用 ②伴走支援費用 ③金融機関交渉費用
補助率:2/3
補助上限額:①200万円 ➁100万円 ③10万円
なお、2022年4月1日より、経営改善計画策定支援事業の運用見直しが予定されているため、詳しい情報は 中小企業庁公式サイトから確認してみましょう。
協議会による収益力改善支援の強化
中小企業再生支援協議会がコロナ禍で緊急的に実施している「特例リスケジュール支援」が、ポストコロナを見据えて「収益力改善支援」へと強化されます。
従来の特例リスケジュール支援では、当面の資金繰りを確保します。具体的には、コロナの影響で売上が悪化した事業者の返済計画を、中小企業再生支援協議会が経営者と金融機関の間に入り調整していました。
新たな収益力改善支援では、最初に収益改善に向けた計画策定支援と資金繰り計画を策定してから、金融機関への返済猶予を要請するようになるので、より具体的な事業改善の計画をもって金融機関とやり取りができるようになります。
対象条件は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け売上が減少している、開業届を提出している中小企業で、業種は問いません。なお、個人事業主も対象に含まれます。
<変更後の収益力改善の具体的な支援の流れ>
① 収益力改善に向けた計画策定支援 【必須に変更】(原則無料)
② 資金繰り計画の策定支援 • 今後数年間の資金繰り計画の策定を支援(原則無料)
③ 金融支援(リスケジュール)の調整 【必要に応じて】。
④ 定期的なモニタリング
⑤ 金融機関との支援方針の目線合わせ
⑥適切な支援策への移行
収益力改善に向けた計画策定支援は、希望次第行われるものでしたが、2022年4月1日以降は必須となります。これにより、専門家の意見を交えた収益力向上計画を策定できるため、これまでの制度よりも収益力改善が期待できます。
申請方法は、中小企業庁公式サイト「 新型コロナ特例リスケジュール 」から確認してみましょう。
専門家や補助金による事業再生フェーズ
事業再生フェーズは、再生事業者や債務超過等に悩む事業者の支援を主とした支援施策が3つあります。
中小企業の事業再生等に関するガイドラインの策定・活用
中小企業の円滑な事業再生等を支援するため「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の策定・活用がおこなわれます。これにより、関係者間で共通認識を持ち、一体となって取組を進められるようになります。
この制度は、債務者である中小企業者と債権者である金融機関等の間の合意に基づき、債務について返済猶予、債務減免等を受けることにより、当該中小企業者の円滑な事業再生や廃業を目的とする私的整理手続です。
中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、元々「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」が定められていました。私的整理ガイドラインでは、金融機関への元本等返済の一時停止のタイミングは再建計画提示と同時、債務超過解消までは3年以内、経営者は退任が原則とされていました。
新しい事業再生等に関するガイドラインでは、元本等返済の一時停止のタイミングは事業再生計画案の策定前、債務超過解消までは5年以内、経営者は感染症等の影響を配慮しつつ経営者責任を明確化するなど、再生に関する条件が緩和されています。
新制度の概要は次の通りです。
1.主な補助対象要件
① 「中小企業に関する事業再生等に関するガイドライン」の中小企業版私的整理手続に基づき私的整理を行うこと
② 認定経営革新等支援機関による計画策定支援等を受けていること
2.補助率・補助上限
① 補助率:2/3
② 補助上限:1案件につき、上限計700万円
(DD費用等:上限300万円/計画策定支援費用:上限300万円/伴走支援費用:上限100万円)
民間による事業再生等の支援を促進するため中小企業の事業再生等に関するガイドラインに基づく私的整理を支援する制度が2022年4月15日に創設される予定です。
中小企業再生ファンドの拡充
中小企業再生ファンドの拡充では、中小企業基盤整備機構の最大出資比率を50%から80%への引き上げに加え、補正予算300億円も活用します。それにより、コロナの影響が大きい宿泊業、飲食業等を重点支援するファンドの組成やファンド空白地域の解消促進を行います。
中小企業再生ファンドは、債務超過に陥った企業の既往債務の買い取りや、専門家派遣等の再生支援を実施する、地域金融機関等とともに中小企業基盤整備機構が出資して組成されるファンドのことです。
中小企業再生ファンドの利用方法は、各地域、各再生ファンドによって異なります。そのため、利用を考える場合は、地域の中小企業再生支援協議会または地域中小企業再生ファンドに直接相談が必要です。
地域中小企業再生ファンドを調べる場合は、中小機構公式サイト「 ファンド検索 」を活用してみましょう。
再生事業者の収益力改善支援の拡充
事業再生に取り組む事業者の収益力改善を促すため、事業再構築補助金において、通常枠よりも補助率を引き上げた「回復・再生応援枠」が創設されます。回復・再生応援枠は、再生事業者の加点措置があります。
事業再構築補助金 回復・再生応援枠 |
主な補助対象要件 |
① 2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前と比較して10%以上減少していること ② 事業計画を認定経営革新等支援機関と策定すること ③ 再生事業者または引き続き業況が厳しい事業者 |
補助金額・補助率 |
・補助率:3/4(中堅は2/3) ・補助上限:従業員数5人以下…500万円 従業員数6~20人 … 1,000万円 従業員数21人以上 … 1,500万円 |
また、ものづくり補助金においても、再生事業者の補助率引き上げと審査時の加点を措置が実施されます。
ものづくり補助金(通常枠) |
主な補助対象要件 |
① 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させること ② 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること ③ 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加させること |
補助金額・補助率 |
2.補助金額・補助率 ① 補助率:1/2(小規模事業者・再生事業者は2/3) ② 補助上限:従業員数5人以下 … 750万円 従業員数6~20人 … 1,000万円 従業員数21人以上 … 1,250万円 |
なお、再生事業者とは、中小企業活性化協議会等から支援を受けている事業者のことをいいます。
申請等の詳細については、ものづくり補助金総合サイト または事業再構築補助金公式サイトを確認しましょう。
廃業前後の事業者を支援する再チャレンジフェーズ
再チャレンジフェーズは、廃業を考える事業者やすでに廃業した事業者の支援を目的とした施策が2つまとめられています。
個人破産回避に向けたルールの明確化
廃業時における経営者の個人破産回避に向け「経営者保証ガイドライン」に基づく保証債務整理の申出を受けた場合、「金融機関が誠実に対応する」とルールが明確化されました。
ルールを明確化する理由として、中小企業の廃業時に個人保証をおこなう経営者が個人破産となるケースが多く、事業再生の早期決断の大きな阻害要因になっていたためです。
廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方を周知する目的は、経営者が早期に経営改善、事業再生及び廃業を決断し、事業再生等の実効性の向上や保証人が新たなスタートに早期に着手できる環境をつくることです。
再チャレンジ支援の拡充
経営者の再チャレンジを支援するため、中小機構の人材支援事業を廃業後の経営者まで拡大されます。また、中小機構において、廃業後の再チャレンジに向けた専門家による経営相談なども実施されます。
ほかにも、オンラインを通じたセミナーの開催などが予定されており、廃業後の再チャレンジの取組を促す、再チャレンジ支援施策の情報が提供される予定です。
さらに、日本政策金融公庫の創業に再挑戦する方への融資制度「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」では、運転資金の返済期間を7年以内から15年以内へ延長されます。
3つのフェーズを一元的に支援する中小企業活性化協議会が設置される
収益力改善、事業再生、再チャレンジの3つのフェーズを一元的に支援する組織として「中小企業活性化協議会」が、2022年4月1日に全国47都道府県へ設置される予定です。
中小企業活性化協議会は、「中小企業再生支援協議会」と「経営改善支援センター」が統合された機関です。
できる限り多くの事業者を迅速に支援するため、金融機関、民間専門家等と連携し、中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを地域全体で推進するために、ハブとして役割を担います。
また、必要に応じて、民間専門家による事業者支援のサポートもおこなう予定です。