会社を設立する際は、必要書類の作成や提出などの多くの業務が発生します。その際、業務の一部を行政書士に依頼することが可能です。
業務の内容によっては、税理士や司法書士でなければ対応できない場合もあるため、行政書士への依頼を考えている人は、行政書士の業務の範囲を確認しておきましょう。
当記事では、会社設立において行政書士に依頼できる業務と費用を解説します。
会社設立において行政書士に依頼できる業務の範囲
会社設立において行政書士には、おもに定款の作成や許認可申請の手続きを依頼できます。
【行政書士に依頼できる会社設立時の業務の範囲】
・定款の作成
・許認可申請の手続き
・会社設立時の相談
会社設立の登記登録ができるのは、司法書士のみです。行政書士は、自治体や保健所などに提出する書類や契約書類の作成、提出などが主な業務であるため、会社設立において依頼できることは限られます。
ただし、他の士業と提携している行政書士であれば、登記登録から届出の提出などの業務も依頼できます。また、依頼する行政書士が、他の士業の資格も持っている場合も同様です。
行政書士に、会社設立時の登記登録や届出の提出などを依頼したい人は、行政書士の持っている資格や、他の士業と提携しているかを確認しましょう。また、行政書士と他の士業の合同事務所に依頼することも可能です。
他の士業との業務範囲の比較
会社設立時、各士業によって対応できる業務内容は異なります。
【行政書士と他の士業との会社設立時の業務比較】
定款の作成は、行政書士と司法書士どちらも対応可能です。しかし、行政書士は登記登録の手続きができないため、登記登録と定款の作成を一緒に依頼したい場合は、司法書士へ依頼することになります。
会社設立を行政書士に依頼したときの費用
会社設立を行政書士に依頼したときの費用例を紹介します。行政書士は会社設立時の登記登録ができないため、依頼先によっては、司法書士への手数料がかかる場合があります。
【行政書士に依頼したときの費用例】
業務 (事務所によって異なる) |
株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款印紙代 | 0〜40,000円 ※電子定款の場合不要 |
0〜40,000円 ※電子定款の場合不要 |
公証役場の定款認証手数料 | 50,000円 |
- |
登録免許税 | 150,000円〜 | 60,000円〜 |
定款謄本手数料 |
約2,000円 |
0〜約2,000円 |
司法書士手数料 | 0〜数万円 | 0〜数万円 |
行政書士報酬 | 数万〜数十万円 | 数万〜数十万円 |
合計 | 約250,000〜300,000円前後 |
約60,000〜150,000円前後 |
※許認可申請の手続きには数万〜数十万円かかる |
会社設立の手続きを行政書士に依頼した場合、通常の会社設立の費用に加え、司法書士や行政書士への手数料や報酬の支払いが必要です。行政書士への報酬は事務所によってさまざまですが、およそ数万~数十万かかります。
行政書士の中には、数千~数万円で法人の印鑑作成を代行している場合もあります。また、許認可申請の手続きをする場合は、業種によって金額は異なりますが、会社設立費用に加えて数万~数十万かかります。
料金体系は行政書士によって異なるため、会社設立の手続きを行政書士に依頼する人は、費用対効果を考えて自身に合った行政書士を選びましょう。
会社設立を行政書士に依頼するメリット
会社設立を行政書士に依頼することで、事業者側の手続きの負担が減り、さらに助成金の相談もできます。
【会社設立を行政書士に依頼するメリット】
・手続きにかかわる負担を防げる
・許認可申請の手続きまでまとめて手続きできる
・会社設立の手続きとあわせて助成金の相談もできる
会社設立の手続きにかかる時間を減らし、主業務に集中したい人は、行政書士の活用を検討してみてください。
会社設立の手続きの負担を減らせる
会社設立を行政書士に依頼することのメリットのひとつに、手続きにかかわる負担を減らせることが挙げられます。たとえば、定款の作成を自分で行う場合、記載する必要事項を確認し、正しい表記で作成する必要があります。
定款とは、会社の規則を記載した書類のことです。定款の作成や記載する項目は、会社法で定められており「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」と大きく3つに分類できます。
【定款に記載する項目】
・絶対的記載事項:絶対に記載する項目
・相対的記載事項:記載しないと規則とならない項目
・任意的記載事項:定款に記載しなくても他の文書に記載すれば規則とできるもの
絶対的記載事項は「目的(事業内容)」「商号(法人名)」「本店の所在地」「資本金」「発起人の氏名または名称および住所」の5つです。定款にこれらの項目が正しく記載されていなければ定款としての効力は無効となり、会社設立の際に必要書類として提出できません。
他にも、定款に記載していない事業は実施できない場合や、認可申請が必要な業種は定款の事業目的に許認可に適した文言を入れておく必要があるなど、定款の作成には専門的な知識を要します。
また、定款を作成した後は、正当な定款であることを認めてもらうため、公証役場で定款の認証が必要です。定款の認証にも提出書類の準備や予約が必要であるため、専門的な知識が乏しく、会社設立の手続きの負担を減らしたい人は、行政書士へ依頼しましょう。
許認可申請の手続きまでまとめて手続きできる
許認可申請手続きは、行政書士の独占業務であるため、他の士業には依頼できません。司法書士と提携している行政書士に許認可申請を依頼することで、登記登録から許認可申請までの会社設立時の手続きをまとめて依頼することができます。
税理士や社会保険労務士とも提携している場合は、会社設立後の税務関係の手続きや、人を雇用したときの社会保険の手続きも依頼することが可能です。
専門家への依頼を考えている人は、依頼したい業務の範囲と行政書士の支援が可能な範囲を確認してから、行政書士を選定しましょう。
会社設立の手続きとあわせて助成金や補助金の相談もできる
会社設立の手続きを行政書士に依頼する場合は、助成金や補助金の相談もできます。会社設立後に助成金や補助金の活用を考えている人は、会社設立の手続きとあわせて行政書士に相談しましょう。
行政書士は、助成金の申請書類の作成もおもな業務のひとつです。事業計画書や申請書類の書き方がわからない人は、サポートの依頼を検討しましょう。
なお、助成金や補助金の種類によっては、自身で書類作成をする必要があるものや、別の支援機関と手続きを進める必要がある場合もあります。助成金や補助金の活用する人は、必ず募集要項の要件を確認してください。
会社設立を行政書士に依頼するデメリット
会社設立を行政書士に依頼する場合、費用面においてデメリットが生じます。
【会社設立を行政書士に依頼するデメリット】
・会社設立費用以外に行政書士の報酬を支払う必要がある
・他の士業と提携していなければ依頼できない業務が多い
・融資や資金繰りのサポートは弱い
会社設立を専門家に依頼する際は、行政書士だけではできない業務もある点に留意して、自身に合った専門家へ依頼をしましょう。
会社設立費用以外に行政書士の報酬を支払う必要がある
会社設立を行政書士に依頼する場合は、会社設立費用以外に行政書士への報酬も支払う必要があります。また、許認可申請が必要な業種の場合は、許認可申請の手続きにかかる費用も支払うため、自身で会社設立の手続きをするより費用負担が大きくなります。
許認可申請の手続き費用は、申請先(知事または大臣)や業種によって異なり、およそ数万~数十万です。
ただし、行政書士によっては、会社設立の手続きと許認可申請の手続きがセット料金になっている場合もあり、通常より費用負担を抑えられる可能性があります。費用をできるだけ抑えたい人は、行政書士の料金体系を比較して、セット料金で依頼できる行政書士を選択しましょう。
他の士業と提携していなければ依頼できない業務が多い
会社設立の手続きにおいて、行政書士が単独でできる業務は、定款の作成および提出のサポートや、許認可申請の手続きのみです。そのため、行政書士が単独で会社設立の手続きをすべて代行する行為は、違法となります。
行政書士は、提携している司法書士や税理士に、登記登録や会社設立後の税務関係の届出業務を委託することで、会社設立の手続きの代行業務が可能となります。また、行政書士と他の士業が合同経営している事務所も、会社設立の手続きを代行できます。
行政書士に会社設立の手続きの代行を依頼するときは、他の士業と提携しているか、もしくは同じ事務所であるかを確認しましょう。
融資や資金繰りのサポートは弱い
行政書士は、行政機関に提出する書類の作成や手続きが主な業務であるため、融資や資金繰りのサポートは専門ではありません。行政書士の中には、融資のサポート業務をしている人もいますが、主業務としていない行政書士もいます。
そのため、資金繰りや融資の相談は、税務の観点からサポ―トができる税理士へ相談することが望ましいです。現在の自社の財務状況や事業の収益性だけでなく、節税対策など、税務の観点から資金繰りのサポートを受けられます。
融資の手続きのサポートが欲しい人や設立時の資本金額などの相談をしたい人は、税理士への相談も検討しましょう。
まとめ
行政書士には、会社設立時の定款の作成や許認可申請の手続きを依頼できます。登記登録や税務関係の届出業務は、司法書士や税理士に委託する必要があるため、自身ですべての手続きを行うときよりは費用の負担がかかります。
しかし、会社設立時は定款の作成や許認可申請など、専門的な知識が必要である書類の作成や手続きも多いため、主業務に時間を割きたい人は、専門家へ業務の一部を依頼して手続きの負担を減らしましょう。
士業の種類によって、会社設立時にできる業務が異なります。会社設立の手続きとあわせて許認可申請の手続きがしたい人は、他の士業と提携している行政書士か、もしくは他の士業と合同経営している行政書士に依頼しましょう。