運送業を始めるには、申請を行い「運送業許可」を取得しなければなりません。
「運送業許可」は、運送ビジネスを始めたいなら押さえておくべき基礎知識です。
この記事では、運送業許可を取らずにスタートできるケースと必須のケースについて押さえつつ、運送業許可の申請手順や必要書類、許可を受けて運送業を始められるようになるまでの期間をご紹介します。
1.運送ビジネスを始めるなら知っておきたい「運送業許可」とは?
運送ビジネスを始めるなら、運送業許可とは何かを押さえておきましょう。
まず「運送業」とは、依頼を受け、トラックなどの車両で荷物を運んで対価を得る業態です。貨物自動車運送事業法という法律で、そのあり方を決められています。
運送業を始めるには、個人事業主や企業法人が、いわば運送業を始める免許として「運送業許可」を取得する必要があります。
運送業を始めるのに必要な要件を満たし、許可申請の手続きをすると、審査を経て、運送業許可書が発行されます。これが運送業許可です。
運送業許可を得た後、運輸開始届を出すことで、晴れて運送業をスタートできます。
運送業に必要な要件について詳しく知りたい方は、次もあわせてご覧ください。
許可がないと事業が始められない。運送業許可を取得するために必要な「ヒト」「モノ」「カネ」の要件について
2.運送業許可を取らずにスタートできるケース
一見、運送業に見えるのに、運送業許可を取っていなくても事業をスタートできるケースがあります。
ここで整理して理解しておきたいのは、法律上「運送業」を定義する要素、つまり運送業許可が必要な業態は、次の3つを満たすケースである、という点です。
① 他人の依頼で運ぶ
② 対価をもらう
③ 自動車を使う
逆に言えば、3つの中で1つでも条件から外れれば、運送業許可は不要となり、スピーディーに運送ビジネスをスタートさせることができます。
(1)運送業許可がいらない「運送サービス業」
運送業許可は、法律上の「運送業」に当てはまる場合にのみ必要なものです。
法律上、運送業を定義する要素は「① 他人の依頼で運ぶ」、「② 対価をもらう」、「③ 自動車を使う」を満たす必要があるため、単に頼まれて何かを運ぶだけなら、運送業の許可や届出は必要ありません。
運送業許可や届出なしにスタートできる業態です。この記事では「運送サービス業」と呼びます。
運送サービス業の最近の有名な例で言えば、自転車での宅配サービスです。
自転車の宅配は、「③ 自動車を使う」が満たされないため、法律上は運送業の扱いではありません。
また、「① 他人の依頼で運ぶ」部分を満たさないように解釈した業態もあります。運送ではなく、購入と宅配の代行サービスとして扱うことで、運送業許可を必要としない、ご近所や隣人同士をつなぐような買い物宅配サービスも出てきています。
あえて法律が定める「運送業」の枠から外れた運送サービス業を始めれば、運送業許可取得にかかる3ヶ月の審査期間を待たず、運送ビジネスをスタートできます。
(2)届出だけで始められる「貨物軽自動車運送事業」
「貨物軽自動車運送事業」は、軽トラックのような軽貨物自動車や、排気量125㏄以上のバイク(自動二輪車)を使って荷物を運ぶ、運送業の一種です。
貨物軽自動車運送事業は、届出制です。
貨物軽自動車運送事業で使用する軽貨物自動車は、厳密には法律で定める大型トラックのような事業用車とは異なるため、運送業許可は必要ないのです。
軽車両1両と、基準を満たす事務所と車庫があり、届出をすれば貨物軽自動車運送事業は始められます。
届出が受理されるまでに3ヶ月ほどかかるため、その後の各種手続きを含めても、貨物軽自動車運送事業を始めようと決めてから実際にスタートするまで、3〜4ヶ月を見込んでおけば充分でしょう。
届出に登録免許税などはかかりません。届出を外部に委託する場合、委託費用は必要です。
貨物軽自動車運送事業の届出は次の通りです。
1)運送業の要件を満たす
2)運輸支局に届出をし、審査を受ける
3)事業用自動車等連絡書を取得する
なお、運送業は全国各地にある地方運輸局によって管理されているため、どの地方運輸局の管轄であるかを確認する必要があります。
つまり、どこでビジネスを始めるかによって、提出する書類や手順などの細部が変わる、ということです。
運輸支局への提出書類や手順は、その支局がどの地方運輸局が属しているかで、細部が変わるため、該当する地方運輸局のウェブサイトを確認するようにしましょう。
運輸支局での審査が終わると、車両を黒ナンバーに変更する「事業用自動車等連絡書」が交付されます。
この後、黒ナンバーの事業用の車両への取り付けだけでなく、労働法として加入が義務付けられている、健康保険や厚生年金保険、労災保険、雇用保険などの社会保険の各種加入手続き、運賃・料金の届出なども行う必要があります。
その後、事業が始められる状態になったら、管轄の税務署や自治体へ開業届を提出し、貨物軽自動車運送事業をスタートできます。
3.運送業許可の取得が必須のケース
(1)世間一般がイメージする運送業の「一般貨物自動車運送事業」
世間一般の宅配サービス事業者で「運送業」と連想されやすいのは一般貨物自動車運送業でしょう。
「一般貨物自動車運送事業」は、トラックなどの事業用の自動車を使い、複数の顧客宛の荷物を運びます。なお、軽車両やバイクなどで、一般貨物自動車運送事業は行えませんので、注意が必要です。
一般貨物自動車運送事業は、最低6名の人員の確保、最低5台以上の車両を揃え、休憩室や睡眠室、車庫などの施設の基準を満たした上で、事業の自己資金(事業規模によって変動、目安で600万円〜1,200万円)を用意する必要があります。
申請後、審査の過程で、管理者として適格かをはかる法令試験もあり、役員の合格が必須条件です。
なお、一般貨物自動車運送事業の申請費用として、運送業許可申請の登録免許税に12万円、各種証明書の取得費用がかかります。
外部に委託する場合は、委託費用も必要です。
(2)顧客が単数の運送業「特定貨物自動車運送事業」
「特定貨物自動車運送事業」は、トラックなどの事業用の自動車を使い、特定の顧客だけに荷物を運びます。
一般貨物自動車運送業と違うのは、顧客が特定の1社だけに限られている点です。
特定貨物自動車運送事業は、一般貨物自動車運送事業とは顧客が固定という点だけの違いなので、一般貨物自動車運送事業とほぼ同じように、車両や施設の要件が求められます。法令試験も同様です。
なお、特定貨物自動車運送事業の申請費用として、運送業許可申請の登録免許税に6万円、各種証明書の取得費用がかかります。こちらも外部に委託する場合は、委託費用も必要です。
ちなみに、特定貨物自動車運送事業の許可を取得し、営業していた事業者が、新たに顧客を追加すると、特定貨物運送事業者とは扱われなくなります。特定貨物自動車運送事業の廃止届を出し、一般貨物自動車運送事業の許可申請を別途行う必要がある点に注意しましょう。
4.運送業許可の申請手順
一般貨物自動車運送事業許可、特定貨物自動車運送事業許可を得る手順は次の通りです。
1)運送業許可取得の要件を満たす
2)運送業許可申請書を提出し、運輸支局での審査を受ける
3)役員が法令試験を受ける
4)運輸局での申請書類審査を受ける
5)運送業許可書を取得する
運輸支局への提出書類や手順は、その支局がどの地方運輸局が属しているかで、細部が変わるため、該当する地方運輸局のウェブサイトを確認するようにしましょう。
(1)運送業許可取得の要件を満たす
まず大前提として、一般貨物自動車運送事業者としての「要件」を満たす必要があります。
運転者5名、運行管理者1名、整備担当者1名、兼任の条件を含めると最低でも6名の人員を確保し、最低5台以上の車両を揃え、休憩室や睡眠室、車庫などの基準を満たした施設、事業の自己資金を予め用意していなければ、申請を行っても運送業許可は下りません。
(2)運送業許可申請書を提出し、運輸支局での審査を受ける
「主たる事務所」として登録する所轄の運輸支局の窓口に、運送業許可申請書を提出します。
事業計画や、必要な要件を満たすことを証明するための添付書類が求められます。
〇必要書類一覧
地方運輸局によって申請書のフォーマットや提出書類が異なりますので、ここでは関東運輸局の許可申請様式を例に添付書類をご紹介します。
事業用自動車の運行管理等の体制 | |
事業計画を遂行するに足りる有資格者の運転者を確保する計画 | |
残高証明書等 | |
事業の用に供する施設の概要及び付近の状況を記載した書類 | |
すでに既存の法人が
ある場合 |
定款又は寄附行為及び登記事項証明書 |
最近の事業年度における貸借対照表 | |
役員又は社員の名簿及び履歴書 | |
法人を設立する場合 | 定款(会社法第30条第1項及びその準用規定により認証を必要とする場合にあっては、認証のある定款)又は寄附行為の謄本 |
発起人、社員又は設立者の名簿及び履歴書 | |
設立しようとする法人が株式会社である場合にあっては、株式の引受け又は出資の状況及び見込みを記載した書類 | |
個人の場合 | 資産目録 |
戸籍抄本 | |
履歴書 | |
法第5条(欠格事項)各号のいずれにも該当しない旨を証する書類 | |
貨物自動車利用運送をしようとする場合 | 利用事業者との運送に関する契約書の写し |
貨物自動車利用運送の用に供する施設に関する事項を記載した書類 | |
法令遵守の宣誓書 | |
代理申請の場合は委任状 |
(参照:貨物自動車運送事業をおこなうには|国土交通省 地方運輸局)
運輸支局では、申請書の記入内容に不備がないか、申請要件が満たされている申請かどうかの審査が行われます。
(3)役員が法令試験を受ける(※一般貨物自動車運送事業のみ)
運輸支局内の審査が終わると、申請書は運輸支局の上に位置づけられる地方運輸局に送られ、このタイミングで、法令試験の通知が来ます。
法令試験とは法で定められた試験という意味です。個人事業主なら本人、常勤役員のうち1名が合格する必要があります。
試験時間は50分、出題形式は○×方式と選択方式です。30問出題され、8割(24問)以上正解で合格です。
運送業許可の法令試験は、運行管理者試験と出題内容はほぼ同じですが、別の試験のため、運行管理者試験に合格しても受験を免除されるということはありません。
また、合格しても運行管理者の資格が取得できる訳ではありません。
不合格の場合、一度だけ再受験が認められます。再受験しても不合格の場合、申請が取り下げとなりますので注意しましょう。
(4)運輸局での申請書類審査を受ける
運輸局において申請書類の審査が行われます。
(5)運送業許可書を取得する
運輸局での審査が終わると、運送業許可書が交付されます。
提出窓口の運輸支局にて交付されるため、原則、事業の代表者と運行管理者が立ち会い、受領します。これが「運送業許可」の取得です。
この後、労働法として加入が義務付けられている、健康保険や厚生年金保険、労災保険、雇用保険などの社会保険の各種加入手続き、時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)の提出を行ったり、運輸支局への運行管理者・整備管理者の選任届の提出、緑ナンバーの交付と事業用の車両への取り付け、運賃・料金の届出を行なったりする必要があります。
その後、事業が始められる状態にまでなったら、運輸支局へ運輸開始届を提出し、運送事業がスタートできます。
なお、運送業許可を取得してから運輸開始届を提出するまで、期間は1年と決められているため、注意しましょう。
5.許可を受けて運送業を始められるようになるまでの期間
一般貨物自動車運送事業の申請から許可を得るまでは早くても3ヶ月と言われ、申請するまでの準備期間を考えれば、運送業許可書を得るのには半年はかかります。
許可の取得後、事業開始に関する各種法令手続きを進め、運送業開始届も出すことを考えれば、一般貨物自動車運送事業を始めようと決めてから実際にスタートするまで、およそ一年と思ってよいでしょう。
特定貨物自動車運送事業も、一般貨物自動車運送事業と同様です。
特定貨物自動車運送事業を始めようと決めてから実際にスタートするまで、およそ一年と思ってよいでしょう
まとめ
「運送業」を始めるには、許可が必要ですが、法律の運送業の定義に当てはまらない運送サービス業の場合などは運送業許可申請はいりません。
運送業許可が必要な業態の場合、運送業許可を取得するための要件を満たした上で申請し、経営者の代表に運送業の管理を問う試験を受けて合格する必要があります。また、運送業許可を得てから1年以内に運送業を始める届けを出さなくてはなりません。
創業にはとにかく時間がかかります。時は金なりです。できるだけスムーズに事業をスタートできるよう、時には業態そのものの定義を見直すことを含めた準備や工夫をすることが重要です。