新しく会社を設立した人の中には、設立する際にかかった費用を経費にできるのか知りたい人もいますよね。経費にできる費用とは具体的に何か、どのような方法で経費処理ができるのか気になる人もいるでしょう。
会社設立費用として経費にできるのは「法人登記申請前や申請時に発生した費用」と「法人登記完了後から事業開始までに発生した費用」です。そして、それらの費用を「繰延資産」として扱うことで、任意の期間にわたり経費として処理することができます。
当記事では、会社設立費用を経費にするにはどのようにすればよいのか、経費にできる対象費用の内容や方法について解説します。設立費用の経費化を検討している人は参考にしてみてください。
法人登記申請前や申請時の費用は経費にすることができる
法人登記申請前や申請時に発生した費用は会社設立費用として経費にすることができます。経費に計上する際は、費用の使用目的や発生時期に応じた経理処理を行う必要があります。
会社設立にあたっては、法務局への登記申請手続きを行います。この際、さまざまな費用が発生しますが、法人登記申請に関わる費用は「会社設立のために必要な費用」とすることが法人税法や会計上で認められており、「創立費」として経費にすることが出来ます。
また、創立費に該当しない費用で「法人登記申請前の法人設立期間中」に発生した費用については、「設立初年度の経費」として処理することが法人税法の特例で認められています。そのため、法人設立期間中の費用も経費とすることが可能です。
なお、「創立費」や「設立初年度の経費」に計上するには、定められている使用目的や発生時期に適している費用である必要があります。会社設立時に発生した費用を経費にしたい人は、「創立費」の対象となる費用と「設立初年度の経費」の対象となる費用がどのようなものか確認しておきましょう。
創立費の対象となる費用
創立費の対象となるのは「法人の設立のために支出した費用」です。法人設立前に支出した費用を経費にしたい人は、創立費に含まれる費用とは何かを押さえておきましょう。
【創立費の対象となる費用の一例】
- 定款及び諸規則作成のための費用
- 株式募集その他のための広告費
- 目論見書・株券等の印刷費
- 創立事務所の賃借料
- 設立事務に使用する使用人の給料
- 金融機関の取扱手数料
- 証券会社の取扱手数料
- 創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する必要な費用
- 発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額
- 設立登記の登録免許税
法人税法によると、創立費とは「法人の設立のために支出した費用」であり「当該法人の負担に帰すべきもの」と定めています。したがって、法人の設立のためという目的に該当しない費用の場合は、創立費として認められず経費にすることは出来ません。
創立費の対象となる主な費用としては、法務局への法人登記申請時に発生する費用があります。定款や申請書類の作成のために購入した印鑑の購入代や、登記手続きを専門家へ代行した際に発生した手数料といったものが該当します。
なお、創立費とすることができる期間などは明確に定められていないため、設立準備が長期に渡った場合でも対象となる可能性があります。その場合、創立費に該当する費用である事とその費用の発生を証明できなければいけないため、領収書を保管するようにしましょう。
創立費以外の費用は条令に則した状況の場合にのみ経費にできる
設立期間中に発生した創立費以外の費用は、法人税法の条令に則した状況の場合にのみ設立初年度の経費にすることが可能です。設立初年度の経費にする事を検討している人は創立費に該当しない費用と条令に則した状況とはなにかを押さえておきましょう。
【設立初年度の経費として対象になる費用の一例】
- 設立前に仕入れた商品代金や備品購入代金
- 設立前に契約した事務所の家賃や水道光熱費
- 設立前に参加した創業セミナーの費用や交通費
- 法人用ホームページのドメイン費用やレンタルサーバー費用
法人設立期間中には、事業運営に向けた準備の中で事業用商品の仕入代金や備品の購入費など創立費に該当しない費用が発生する場合があります。これらの費用は「法人の事業に関わるもの」であれば、設立初年度の経費として計上することが出来ます。
一方で、設立初年度の経費にするには法人税法の条令2-6-2「法人の設立期間中の損益の帰属」に則していなければなりません。設立期間中の創立費以外の費用を経費にするには「通常要する設立期間を超えていないこと」「法人成りではないこと」の2つの条件を満たしている必要があります。
なお、「通常要する設立期間」について明確な規定は定められていません。設立期間の目安については、設立登記申請手続きに要する事前準備や定款認証、法務局へ登記申請して許可を受けるまでの期間を1つの目安にしてみるのも良いでしょう。
法人登記完了後から事業開始までの費用は開業費となる
法人登記完了後から事業開始までに発生した費用は「開業費」として経費にすることができます。登記完了後から事業開始までの費用を経費にしたい人は開業費の対象となる費用とはなにか押さえておきましょう。
【開業費の対象となる費用の一例】
- 印鑑や名刺の作成費用
- チラシなどの広告宣伝費用
- 開業準備のために行った打ち合わせやセミナー参加費など接待交際費
- 開業準備のために行った市場調査で発生した旅費交通費
- 開業準備ために購入したパソコンなどの備品購入費用
「開業費」として経費にできるのは、法人設立後から事業開始までの期間に発生した費用である事と「開業準備のために特別に支出した費用」である必要があります。したがって、開業準備のために特別に支出した費用とは言えない「恒常的に発生する費用」は開業費とすることができません。
恒常的に発生する費用とは、事務所の家賃や光熱費、商品の仕入代金や事務用消耗品などの毎月または定期的に発生する費用のことをいいます。また、購入した備品の価格が10万円以上する場合には開業費に含めることはできず、固定資産の扱いとなります。
なお、対象期限である「事業開始日」までの日数等に明確な規定はありません。事業運営には法人口座の開設や公的機関への届出を済ませる必要があるため、目安としてそれらの手続きを終え環境準備も整った日を「事業開始日」とするとよいでしょう。
経費にするには繰延資産とし償却する
「創立費」と「開業費」を経費にするには、繰延資産とし、2通りのいずれかの方法で償却をすることで経費にすることが可能です。繰延資産に計上することで、利益が見込みにくい設立初年度への負担を減らすことが出来ます。
繰延資産とは、支出する費用の効果が1年以上に及ぶものを指します。創立費や開業費は事業運営においてその効果が次期以降に渡る費用として認められているため、繰延資産として扱うことができます。
繰延資産の償却方法の1つは「均等償却」と呼ばれるもので、会社法で定められている5年の償却期間の中で均等に費用を分け、毎期同じ額を償却する方法です。もう1つは「任意償却」という償却金額や期間に定めがない方法で、その期の収益の状況に応じて自由に金額を定めいつでも償却できます。
なお、利益の多かった期に償却額を多くするなど「任意償却」の方法で繰延資産を処理すると、法人税の節税が可能になります。償却方法をうまく活用し、法人税の節税をしたいという人は参考にしてみてください。
繰延資産として均等償却する
繰延資産を経費にする方法の1つとして挙げられるのは、均等償却をする方法です。均等償却を行うことで、創立費と開業費を5年かけて経費にできるようになります。
繰延資産の均等償却は会計基準に準拠したもので、会社の設立に際して要した創立費と開業費を5年にかけて経費にする方法です。創立費100万円を経費にするとした場合は、最初に創立費として資産処理したあとで分割した金額を経費にしていきます。
【資産処理時の仕訳】
借方 | 貸方 |
---|---|
創立費 1,000,000円 | 現金 1,000,000円 |
【決算時の仕訳】
借方 | 貸方 |
---|---|
創立費償却 200,000円 | 創立費 200,000円 |
繰延資産を均等償却するときの計算式は「(繰延資産の支出額÷償却年数)×その年の償却期間月数/12か月」となります。創立費100万円を均等償却する場合は20万円ずつの費用が決算ごとに支払っていくことになります。
なお、償却期間月数は会社を設立した月によって変わる場合があります。5月に会社を設立した場合はその年の償却期間月数は5月から12月の8か月になるなど、設立したタイミングによっては均等償却であっても、必ず償却費用が均等にならない場合もあるので留意してください。
繰延資産として任意償却する
繰延資産を経費にする方法の1つとして挙げられるのは、任意償却をする方法です。任意償却では、自身の自由なタイミングで償却を行えるため、会社が上げた利益によって償却をするかしないかをコントロールすることが可能です。
任意償却は、繰延資産の経費処理の方法のうち財務会計を基準としたものです。任意償却には、均等償却のように計算式があるわけではなく、加えて償却しなければならない下限額の規定がないことから、自身の自由なタイミングと金額で償却を行えます。
会社の設立にかかった費用100万円を創立費として繰延資産にした場合、会社の利益が上がらずに赤字の場合は償却せず、利益が出たタイミングで繰延資産の一部あるいは全額を償却するといった方法もとれるようになります。会社が上げた利益に合わせて償却する金額を調整できるため、会社が赤字になりにくい傾向にあります。
なお、任意償却では繰延資産となる費用を支出した年から5年を超えて償却することが可能です。任意償却について定めている所得税法施行令第137条第1項第1号第3項には、創立費や開業費の償却期間である5年を過ぎたら必要経費に算入できないとするような規定がないため、繰延資産の償却金額を任意で調整したい人は任意償却を検討してみてもよいでしょう。
まとめ
会社設立費用を経費にするには、経費にしたい対象費用を「繰延資産」として計上し、2通りのいずれかの方法で数年に渡り償却することで経費にすることが可能です。繰延資産の対象に含められる費用は、法人設立前に発生した「創立費」に該当する費用と、法人設立後から事業開始日までに発生した「開業費」に該当する費用です。
創立費や開業費は、最初から経費にするのではなく繰延資産として貸借対照表に記録することで一度資産をとして扱い、5年の償却期間の間に経費としていきます。均等償却の場合は償却期間の5年間の間で定額を償却しますが、任意償却では自由なタイミングで自由な金額を償却することが可能です。
なお、任意償却では、繰延資産となる費用を支出した年から5年を超えても償却が可能です。創立費や開業費といった繰延資産を経費に計上する期間や金額を自分で調整したい人は、任意償却を検討してみてください。