ファクタリングを利用し売掛債権の売却(譲渡)を行った場合は仕訳処理が必要になります。ファクタリングの契約形態や契約時の状況によって、仕訳の回数や用いる勘定科目などが変わるため、自身の取引状況にあてはまる仕訳処理を行うようにしましょう。
当記事は、ファクタリングの仕訳方法を解説します。取引状況ごとに仕訳についてのポイントや注意点を含めて解説しているので、処理を行う際の参考にしてみてください。
ファクタリング利用時の仕訳は売却・入金・回収時に実施する
企業の財務状況を把握および管理するために行う仕訳処理は、金銭の移動が起きた取引ごとに行います。ファクタリング利用時の場合は、売掛金の売却時、買取金額の入金時、売掛金の回収時に仕訳処理が必要となります。
取引の仕訳処理は日付順に行います。ファクタリングの場合、契約時の流れに順じて仕訳処理を行うことで、日付順に仕訳することが可能になります。
<ファクタリングの仕訳処理の流れ>
- ファクタリング会社へ売掛金を売却した時
- ファクタリング会社から買取金額が入金された時
- 取引先から売掛金を回収しファクタリング会社へ送金を行った時
売掛が発生した状況の仕訳も必要になる
ファクタリングは売掛債権の売却(譲渡)であるため、まずは起点となる売掛(債権)が発生したという状況の仕訳を実施する必要があります。
たとえば、100万円の商品を売り上げたことにより売掛金が発生した場合は以下のように仕訳をします。
<売掛金発生時の仕訳>
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 1,100,000 | 売上 | 1,000,000 |
(仮受消費税) | 100,000 |
会計上、売掛金という勘定科目は資産に分類されます。資産の増加は借方に振り分けるため、借方に「売掛金」を記載します。
一方、売上という勘定科目は収益に分類されます。収益の増加は貸方に振り分けるため、貸方に「売上」を記載します。
ファクタリング会社へ売掛金を売却した時
ファクタリング会社へ売掛金を売却した時は、売却に伴う仕訳処理を行います。たとえば、100万円の商品を売り上げて発生した売掛金110万円を、ファクタリング会社へ売却した場合は以下のように仕訳をします。
<売掛金売却時の仕訳>
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
---|---|---|---|
未収金 |
1,100,000 |
売掛金 |
1,100,000 |
資産の減少は貸方に振り分けるため、貸方に「売掛金」を記載します。
一方で、資産の増加は借方に振り分けるため、借方に「未収金(未収入金)」を記載します。
未収金(未収入金)とは、将来に現預金で回収が見込まれる資産を表す勘定科目で、営業以外の取引で発生したものに使用します。ファクタリングの場合は、ファクタリング会社から後日入金される買取金が未収金に該当します。
なお、ファクタリングによって調達できる金額は売掛金の満額ではありません。しかし、実際に入金されるまでは手数料が未確定といえるため、売掛金売却時点においては手数料部分を控除せず、全額を未収金(未収入金)に振り替えます。
未収金とするのは入金までに期間がある場合のみ
売掛金を売却した時に未収金と処理をするのは、あくまでも買取金の入金までに期間がある場合のみです。
契約時に取引先が関与する3社間ファクタリングは、資金化までに期間を要する傾向にあるため、未収金処理が必要であるといえます。
一方、取引先の関与がない2社間ファクタリングは、契約手続きがスムーズに行われるとその日のうちに入金となる場合もあるため、その場合はあえて未収金とする必要はありません。
ファクタリング会社からの買取金入金が売却日と同日の場合には、未収金とする処理は行わずに売却時と入金時の仕訳を統合することが可能になります。
ファクタリング会社から買取金が入金された時
ファクタリング会社から買取金が入金された時は、入金に伴う仕訳処理を行います。たとえば、110万円の売掛金を売却した際に、利用手数料が10万円であった場合の仕訳は以下の通りです。
<買取金入金時の仕訳>
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 1,000,000 | 未収金 | 1,100,000 |
売上債権売却損 | 100,000 |
見込み資産として計上していた未収金は入金によって回収されたため、貸方に「未収金」を振り分けます。
一方で、普通預金口座への買取金入金により資産が増加したため、借方に「普通預金」と記載します。
この時に、ファクタリング会社から利用手数料10万円を差し引かれているため、利用手数料の計上をします。会計上、商品やサービスに付随して発生する手数料は費用に分類されるため、借方に「売上(売掛)債権売却損」と記載します。
売上(売掛)債権売却損とは、売掛債権を売却(譲渡)した際に生じた損失を表す勘定科目です。ファクタリング会社へ手数料を支払ったことにより、本来の債権の価値よりも売却損が生じたことを示すために使用します。
入金された買取り金と利用手数料の仕訳処理によって、借方と貸方の勘定科目の金額が一致することとなり、帳簿上の未収金はプラスマイナスゼロとなります。
売却日と入金日が同日であった場合
売却したその日に入金が行われた場合には、買取金入金時の仕訳と統合して以下のように仕訳を行います。
<売却日と入金日が同日であった時の仕訳>
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
---|---|---|---|
普通預金 |
1,000,000 |
売掛金 |
1,100,000 |
売掛債権売却損 |
100,000 |
売却日と入金日が同日の場合は、売掛金発生時の仕訳から処理を行います。売掛金は売却したことにより資産から減少したため、貸方に振り分けます。
一方で、借方には買取金入金時の振り分け方と同様の仕訳を行います。普通預金口座への買取金入金を「普通預金」、差し引かれたファクタリング利用手数料を「売上債権売却損」の勘定科目を使用し処理を行います。
売上債権売却損の勘定科目がない場合
ファクタリングの利用手数料を売上債権売却損とすることで、売掛債権の売買(譲渡)による損失であると税務署でのチェックにおいても認識しやすくなります。しかし、会計処理に使用している会計ソフトによっては、売上債権売却損の勘定科目が用意されていない場合もあります。
売上債権売却損の用意がない場合には「雑損失」「支払手数料」「債券割引料」の勘定科目によって代用が可能です。ただし、社内において使用している勘定科目が統一されていない場合、万が一の税務調査において指摘される可能性があります。
売上債権売却損ではない勘定科目を代用する際には、統一してから使用するようにしましょう。
取引先から売掛金を回収しファクタリング会社へ送金を行った時
取引先から売掛金を回収しファクタリング会社へ送金を行った時は、回収および送金に伴う仕訳を行います。2社間ファクタリングの場合、ファクタリング利用者が回収を行う必要があるため、以下のような仕訳が必要になります。
<売掛金回収時の仕訳>
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
---|---|---|---|
普通預金 |
1,100,000 |
預り金 |
1,100,000 |
売掛金の支払期日が到来したら、通常通り取引先から売掛金の入金があります。普通預金口座への入金により資産が増加したため、借方に「普通預金」を振り分けます。
一方、本来であればこの売掛金はファクタリング会社が受け取るものであり、一時的に自社で預かっているお金であるため「預り金」となります。会計上、預り金は負債に分類され負債の増加は貸方に振り分けるため、貸方に「預り金」と記載します。
<売掛金送金時の仕訳>
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
---|---|---|---|
預り金 |
1,100,000 |
普通預金 |
1,100,000 |
そして、ファクタリング会社への送金によって預り金はなくなるため、借方に「預り金」を、それに伴い借方に「普通預金」を振り分けて記載します。
なお、3社間ファクタリングの場合は、売掛先企業からファクタリング会社へ直接売掛金の支払いが行われるため、売掛金の回収および送金の仕訳を行う必要はありません。ファクタリング利用時の仕訳を行う際は、自身の契約形態を確認して仕訳処理を行うとよいでしょう。
まとめ
ファクタリング利用時の仕訳は取引状況ごとに行います。また、取引の仕訳処理は日付順に行う必要があることから、ファクタリングの場合、契約時の流れに準じて仕訳処理を行うことで日付順に仕訳することが可能になります。
したがって、ファクタリングの仕訳処理は「ファクタリング会社へ売掛金を売却した時」「ファクタリング会社から買取金の入金がされた時」の順に仕訳を行い、契約形態に応じて「取引先から売掛金を回収しファクタリング会社へ送金を行った時」の仕訳をすることで処理は完了となります。
なお、ファクタリングは売掛債権の売却(譲渡)であるため、まずは起点となる売掛が発生したという状況の仕訳が必要となります。ファクタリング利用時の仕訳を行う際の参考にしてみてください。