ファクタリングでは、債権譲渡登記という手続きを求められる場合があります。債権譲渡登記とはどのような手続きで、なぜ求められるのかを理解することで、手続きに応じるか否かの判断を行うことが可能になります。
当記事では、ファクタリングでの債権譲渡登記について解説します。手続きの概要やファクタリングで行う場合の注意点についても紹介しているため、ファクタリングで債権譲渡登記を行う必要性に対して疑問を感じている人は参考にしてみてください。
債権譲渡登記とは金銭債権の譲渡内容を登記簿に記録する手続きのこと
債権譲渡登記は、法人が行う金銭債権の譲渡取引の際に利用される手続きです。法務局の債権譲渡登記所に登記申請を行い、売掛債権や貸付債権などの金銭債権が譲渡されたという事実を登記簿に記録します。
債権譲渡登記は、民法の特例として創設された「債権譲渡登記制度」に基づく手続きで、資金調達手段の多様化を背景に運用が開始されました。債権譲渡登記の申請が受理されると、記録した譲渡取引における以下のような内容が公示されます。
<債権譲渡登記によって公示される内容 一部抜粋>
公示される項目 |
内容 |
登記の目的 |
債権譲渡登記 |
譲渡人の情報 |
債権を譲渡した企業の会社名や住所 |
譲受人の情報 |
債権を譲り受けた企業の会社名や住所 |
登記の原因 |
どのような債権譲渡契約が行われたか 例)売買、贈与、譲渡担保 |
登記原因年月日 |
債権譲渡契約が成立した年月日 |
債権の種類 |
譲渡された債権の種類について 例)売掛債権、貸付債権、報酬債権 |
債権の総額 |
譲渡された債権の金額 |
債権譲渡登記によって債権譲渡の第三者対抗要件を簡易に備えることが可能になる
債権譲渡登記を行うことによって債権を譲り受けた側である譲受人は、債権譲渡における第三者対抗要件を簡易に備えることが可能になります。第三者対抗要件とは、債権譲渡の事実を債務者以外の第三者に主張するために備える法律要件のことをいいます。
債権譲渡登記制度が創設される前の民法では、第三者対抗要件を備えるために債務者を譲渡取引に関与させる必要がありました。債務者に対する確定日付のある証書の通知や、債務者からの債権譲渡への承諾がなければ第三者対抗要件を備えることはできないとされていたのです。
一方で債権譲渡登記は、譲渡人と譲受人が共同で登記申請をする方法により第三者対抗要件を備えることができます。譲渡取引の際に債権譲渡登記の手続きを行えば、債務者を譲渡取引に関与させることなく第三者対抗要件を備えることが可能です。
ファクタリングで債権譲渡登記が求められる理由は回収リスク軽減のため
ファクタリングで債権譲渡登記が求められる理由は、ファクタリング会社の回収リスクを軽減するためです。ファクタリングでの債権譲渡登記は、2社間ファクタリングで求められます。
2社間ファクタリングでは、売掛先企業への債権譲渡通知が実施されません。ファクタリング会社は債権譲渡通知の実施がなければ、譲渡取引における第三者対抗要件を備えることができないため、万が一の回収トラブル発生時に権利を主張することができなくなります。
法務局の「債権譲渡登記制度のご案内」によると、同一の債権を複数の相手へ譲渡する「二重譲渡」が起きた場合は、第三者対抗要件の有無で法的地位の優劣が決定すると定められています。第三者対抗要件を備えていれば権利を主張できるため、売掛債権が未回収となる可能性を低くすることが可能になります。
したがって、ファクタリング会社は、2社間ファクタリングにおける回収リスクの軽減を図るために債権譲渡登記の利用を求めます。
なお、3社間ファクタリングは売掛先企業への債権譲渡通知が実施されるため、債権譲渡登記を求められることはありません。ファクタリングは、契約形態によって債権譲渡登記の必要性が異なるという点に留意しましょう。
ファクタリングで債権譲渡登記を行うと手数料が低減される可能性がある
ファクタリングの利用には、買取を依頼することへの対価として手数料が発生します。手数料には、ファクタリング会社が負う回収リスクが考慮されているため、懸念される回収リスクが多いほど高く設定される傾向にあります。
債権譲渡登記を行うと、ファクタリング会社の回収リスクが軽減されます。回収リスクの軽減は、手数料による補填の必要性を低くすることに繋がることから、ファクタリング利用時の手数料が低くなる可能性があります。
ただし、ファクタリング手数料には、売掛債権の金額や回収にかかる期間、売掛先企業の信用力など他の要素も考慮されています。したがって、債権譲渡登記のみで大幅に手数料を低減させることはできないという点に留意しましょう。
ファクタリングで債権譲渡登記を行う際の注意点
ファクタリングで債権譲渡登記を行う際には、以下の点に注意が必要です。ファクタリングにおける債権譲渡登記は必須ではないことから、注意点を考慮した上で利用を検討すると良いでしょう。
<ファクタリングで債権譲渡登記を行う際の注意点>
- 登記費用が発生する
- 個人事業主は利用できない
- 売掛先企業や金融機関にファクタリングの利用を知られる可能性がある
登記費用が発生する
債権譲渡登記の申請には、登録免許税の納付が必要です。そのため、ファクタリングで債権譲渡登記を行う際には、手数料の他に登記費用が発生するという点に注意が必要です。
債権譲渡登記所に納付する登録免許税の金額は、債権の個数によって異なります。1件(1回)の申請につき、債権の個数が5,000個以下の場合は7,500円、債権の個数が5,000個を超える場合には15,000円の登録免許税の支払いが必要です。
また、ファクタリング会社から債権譲渡登記の申請手続きを、弁護士や司法書士など専門家へ依頼することを提案され承諾した場合には、報酬料金の支払いが必要になります。報酬料は、依頼先や取引の内容などによって異なりますが、数万円から10万円ほどの費用が掛かります。
個人事業主は利用できない
法務局の「債権譲渡登記制度のご案内」によると、債権譲渡登記が行える債権は譲渡人が法人である金銭債権に限定されてます。そのため、ファクタリングで債権譲渡登記を行えるのは法人のみであり、個人事業主は利用することができません。
このことから、個人事業主の場合は、債権譲渡登記が行えないことを理由に2社間ファクタリングの利用を断られる可能性があるという点に注意する必要があります。
売掛先企業や金融機関にファクタリングの利用を知られる可能性がある
債権譲渡登記で公示された譲渡記録は、交付申請を行えば誰でも閲覧可能です。そのため、ファクタリングで債権譲渡登記を行った場合は、売掛先企業や金融機関にファクタリングの利用を知られる可能性があります。
登記内容の閲覧は、与信調査や融資の審査において行われる場合があります。閲覧には、申請手続きと手数料の費用負担があることから、積極的な閲覧がない限りは知られる可能性は低いと考えられますが、譲渡記録の公示によってゼロではなくなるという点に注意しましょう。
なお、2社間ファクタリングでの債権譲渡登記を行わないファクタリング会社もあります。迅速な資金化やコスト削減を優先しているためですが、ファクタリングの利用が知られる可能性を限りなく減らすことが可能になるため、利用する会社を選ぶ際の参考にしてみてください。
まとめ
ファクタリングで行われる債権譲渡登記とは、金銭債権の譲渡内容を登記簿に記録する手続きのことをいいます。債権譲渡登記を行うと譲渡取引の内容が公示され、譲受人は債権譲渡における第三者対抗要件を簡易に備えることが可能になります。
ファクタリングでの債権譲渡登記は、ファクタリング会社の回収リスクを軽減するために求められます。一方で利用者は、債権譲渡登記に応じることでファクタリング利用時の手数料を低減できる可能性があります。
ただし、ファクタリングでの債権譲渡登記の実施には、いくつかの注意点があります。ファクタリングにおける債権譲渡登記は必須ではないため、注意点を考慮した上で手続きに応じるか否かを検討すると良いでしょう。