農業を行っている人の中には、所得や収益が低下してしまって経営改善を検討している人もいますよね。その際、農家として改善すべき経営課題がわからない人もいるでしょう。
農家の経営課題として挙げられるのは、労働力不足です。農業において労働力不足が発生すると農業生産性や作業効率が悪化し、農業所得の低下につながりやすくなってしまうおそれがあります。
当記事では、農家の経営課題を解説します。農業における労働力不足の改善方法も紹介しているため、経営改善を検討している農家の人は参考にしてみてください。
農業の経営課題としては労働力不足が挙げられる
農業における経営課題としては、労働力不足が挙げられます。労働力不足に陥ると、農業生産性や作業効率が悪化し、農業所得の低下を引き起こしてしまうおそれがあります。
農業で負担がかかる業務は、栽培する作物や地域の特性によって異なりますが、一例としては除草や収穫などが挙げられます。除草や収穫はどちらも時間と労力がかかる作業になるため、労働力不足による人手の不足は1日の作業が増加して作業効率が悪化してしまいます。
また、労働力が不足すると、作物の手入れの行き届く範囲の減少につながり、農業生産性が低下してしまう要因の1つになります。労働力不足のまま、栽培する作物の量を人手が充足していた時代を維持していたり、栽培量を増やしたりしてしまうと手入れが行き届かなくなり作物の品質が低下してしまう可能性もあります。
農家が労働力不足に陥る要因はいくつかあります。労働力不足を改善して農業生産性や作業効率を改善したい人は、それぞれの要因を押さえておきましょう。
農家の高齢化による人手不足
農家が労働力不足に陥る要因の1つとして挙げられるのは、農家の高齢化による人手不足です。農家では高齢化が進んでおり、農家の引退による労働力不足が引き起こされてしまいます。
日本では現在、農業従事者の高齢化が進行傾向にあります。農林水産省が公開している農業労働力に関する統計によると、基幹的農業従事者の平均年齢は令和4年時点で68.4歳となっており、総務省統計局が発表している労働力調査の全産業労働者の平均年齢である43.9歳と比べて、農家は高齢化が進んでいると言えます。
また、今後10年の間で高齢化によって農業を終了する農家が増えることも予想されます。農家の高齢化によって人手不足はさらに深刻になり、体力的に栽培できる作物の量を減少せざるを得ない事態に陥ると、農家としての所得や収益が低下してしまう1因になります。
なお、農業における39歳以下の従事者は全体の約5%に止まっているとされています。そのため、農家の中には、後継者を見つけられずに農地をたたまなければならなくなってしまう場合もあるため、高齢化問題を抱えている農家の人は後継者の確保による人手不足の解消を進め行きましょう。
新規就農者の離職率の増加
農家が労働力不足に陥る要因の1つとして挙げられるのは、新規就農者の離職率の増加です。農業では新規就農者が離職しやすい傾向にあり、農家の人手不足が改善されにくくなっています。
総務省が2019年に発表した調査結果によると、新規就農者で3年以内に離職した人は35.4%に上っており、そのうち約半数が1年以内に離職しています。そのほかにも、農林水産省が行った調査では、新規就農者が2年以内に離職した割合が約7割という調査結果も示されており、新規就農者が数年以内で離職する傾向があると言えます。
新規就農者が離職しやすい理由としては、実際に始める前に想定していた業務内容と実際の業務内容の違いが考えられます。具体的には、就農前に重労働や単調作業といった業務内容を考慮していなかったり、受け入れ農家との人間関係の構築に失敗したりといったことがあります。
新規就農者の離職率が改善しなければ、人手不足解消のために新規就農者を受け入れても継続的な労働力の確保にはつながりません。効果的に就農者を確保したい農家の人は、就労環境や労働条件の見直しといった、新規就農者を定着させるための施策を検討しましょう。
農家が労働力不足を改善する方法
農家が労働力不足を改善するための方法はいくつかあります。労働力不足の改善方法によって、農業の経営方針に影響がでる可能性があるため、自身に合った改善方法を検討しなければいけません。
【農家の労働力不足の改善方法】
- 農業労働力確保支援事業を利用する
- 第三者農業経営継承制度を活用する
- スマート農業を導入する
これらの方法はあくまで一例ですが、農家の労働力不足の解消が可能です。労働力不足の改善方法によっては、それまでの農作業のやり方を変化させなくてはならない場合もあるため、労働力不足を解消したい農家の人はそれぞれの方法を押さえておきましょう。
農業労働力確保支援事業を利用する
農家の労働力不足を改善する方法の1つとして挙げられるのは、農業労働力確保支援事業を利用することです。農業労働力確保支援事業では、労働力の足りない農家へ働き手の派遣を行っています。
農業労働力確保支援事業は農林水産省が行っている支援事業です。農業労働力確保支援事業では、労働力の募集と派遣や援農隊による労働力の提供といった支援を受けられます。
農業労働力確保支援事業の仲介サービスを利用することで、農家は農繁期における一時的な労働力不足の解消が可能です。農家と就農者のニーズや条件を考慮して仲介サービスを受けられるため、就農者の離職を防げる可能性もあります。
なお、農業労働力確保支援事業の仲介サービスを利用するには、農林水産省が実施する事業に参加する必要があります。労働力不足の改善ために、農業労働力確保支援事業の仲介サービスの利用を検討している農家の人は、農林水産省の「産地における労働力確保について」から自身が参加する事業を検討してみてください。
第三者農業経営継承制度を活用する
農家が労働力不足を改善する方法の1つとして挙げられるのは、第三者農業経営継承制度を活用することです。この制度を利用することで農業の担い手を確保できるようになります。
第三者農業経営継承制度は、農林水産省が推進している制度です。後継者を確保できていない農家が、農地や施設とともに経営を家族以外の第三者に受け渡し、経営を継承することで農業の担い手を確保することを目的としたものです。
第三者農業経営継承制度は本来、農地を後世に残したい農家の人が利用するもので農作業時の労働力不足の改善を目的としたものではありません。一方で、第三者農業経営継承制度を利用すると、移譲希望者に対して最長3年間の研修期間があり、実際の業務を通しながら必要なノウハウを伝えられるため、農作業の労働力の確保につながります。
なお、第三者農業経営継承制度を利用しても直ちに農地を引き継がなければならないわけではありません。第三者農業経営継承制度では、移譲希望者との間で合意がなされていれば任意のタイミングで農地の継承が行えるため、将来的な農地の継承検討している人で労働力不足を改善したい農家の人は利用を検討してみてください。
スマート農業を導入する
農家の労働力不足を改善する方法の1つとして挙げられるのは、スマート農業の導入です。スマート農業を導入すると、農作業で人手を削減できるようになるため、新規就農者を獲得しなくても労働力不足の改善を図れます。
スマート農業では、ロボット技術やAIといった先端技術を活用することで、農作業の効率化や短縮を図ることができます。農林水産省が令和2年度に実施した「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」では、野菜自動収穫機や農薬散布ドローンなどの先端技術を導入した結果、品目ごとの各作業の労働時間削減率を単純平均すると、38~47%削減となったことが報告されています。
スマート農業を導入すると、労働時間の短縮だけでなく労働力不足の改善にもつなげられます。人手を必要とする作業を機械化できるため、新たに人手を雇用しなくても農作業の作業効率を向上させることができます。
なお、スマート農業は農地面積が狭い農地であっても導入が可能です。ロボット技術やAIの導入に当たっては初期投資のコストがかかりますが、労働力不足問題を解決したい農家の人はスマート農業の導入を検討してみてください。
農家の労働力不足改善には雇用就農資金も利用できる
農家が労働力不足問題の改善に当たって利用できる公的資金援助には、雇用就農資金があります。雇用就農資金では、就農希望者を新たに雇用する農業法人等に対して資金を助成しています。
雇用就農資金は、49歳以下の就農希望者を新たに雇用する農業法人等に対して資金を助成する事業です。雇用就農資金には「雇用就農者育成・独立支援タイプ」「新法人設立支援タイプ」「次世代経営者育成タイプ」の3つのタイプにあり、それぞれ目的に合った支援タイプを選択できます。
たとえば、雇用就農者育成・独立支援タイプでは、農業就業又は独立就農に必要な技術・経営ノウハウ等を習得させるための研修を実施する場合に利用できます。助成額や助成期間は支援タイプによって異なりますが、雇用就農者育成・独立支援タイプの場合は助成額は60万円、助成期間は最大4年間となっています。
なお、雇用就農資金を利用できるのは農業法人等に該当する場合であり、個人農家は利用できません。農業法人になると、法的に就農者の雇用をしやすい環境を整えることもできるため、労働力不足で新規就農者の雇用を検討している個人農家の人は、農業法人への移行も検討してみてください。
まとめ
農家における経営課題としては、労働力不足が挙げられます。労働力不足に陥ると、農業生産性や作業効率が悪化し、農業所得の低下を引き起こしてしまうおそれがあります。
農家の労働力不足を改善する方法としては「第三者農業経営継承制度の活用」「農業労働力確保支援事業の利用」「スマート農業の導入」などが挙げられます。新規就農者の雇用やロボット技術、AIなどを活用することで農家の労働不足問題の改善につなげられます。
なお、新規就農者の雇用に当たって農家に資金支援などを受けられる雇用就農資金もあります。労働不足問題を改善し、農業の所得や収益を向上させたい農家の人はこれらの施策を参考にしてみてください。