ホテル経営者の中には、経営が衰退してきていることに課題を感じている人もいますよね。なかには改善すべき経営課題を把握しきれずに悩んでいる人もいるでしょう。
ホテルの経営が衰退してしまう要因としては「人手不足」「施設の老朽化」「グローバル化に対応できていない」などが挙げられます。ホテル経営者はこれらの問題ごとに経営改善施策を実施する必要があります。
当記事では、ホテルの経営が衰退してしまう要因となる経営課題を解説します。ホテル経営者が行える経営改善方法も紹介しているので、経営改善を検討しているホテル経営者は参考にしてみてください。
ホテルが衰退してしまう経営上の課題
ホテルが衰退してしまう経営上の課題はいくつかあります。経営改善を検討しているホテル経営者は、自社に該当する経営課題がないか確認しておきましょう。
【ホテルの経営課題】
- 人手不足によって提供サービスの質が低下してしまう
- 施設の老朽化によって集客力が低下してしまう
- 市場のグローバル化に対応できずに集客機会を喪失してしまう
これらはあくまで一例ですが、ホテルを衰退させる経営課題として挙げられます。ホテル経営者は、経営改善の方針を決めるためにもホテルの経営課題を押さえておきましょう。
人手不足によって提供サービスの質が低下してしまう
ホテルが衰退してしまう要因の1つとして挙げられるのは、人手不足によって提供サービスの質が低下してしまうことです。人手不足が原因となって宿泊客に提供するサービスの質が低下すると、集客力が低下して収益に影響を与える可能性があります。
ホテルや旅館業では、新型コロナウイルス感染症がまん延する前から人手不足が顕著な傾向にありました。帝国データバンクによる「人手不足に対する企業の動向調査」では、2023年4月時点でホテルや旅館の正社員の人手不足割合が75.5%であり、業種別に見ても人手不足割合が1位だったとされています。
ホテル経営において人手不足に陥ると、従業員が本来の専門分野以外の業務も担当しなければならなくなる場合があります。従業員の業務量が増え、長時間労働や休日出勤などの頻度が増えてしまうと、従業員のモチベーションの低下やさらなる人材の流出につながり、さらなる人手不足を引き起こすおそれもあります。
人手不足が発生すると、人材が十分にいるときに比べてホテルの提供サービスの質を維持するのが困難になる可能性があります。サービスの質の低下は集客力にも影響するため、ホテルの衰退を改善したいホテル経営者は人手不足の改善を行いましょう。
施設の老朽化によって集客力が低下してしまう
ホテルが衰退してしまう要因の1つとして挙げられるのは、施設の老朽化によって集客力が低下してしまうことです。施設が老朽化してしまうと、宿泊客の快適さや満足度が低下してしまい、リピート率の悪化や新規顧客の獲得がしにくくなってしまいます。
たとえば「壁紙」「家具」「照明」といった内装や「窓枠」「外壁」といった外装は、経年劣化によって色あせや剥離が起きて見た目を損なってしまいます。宿泊客の目に留まりやすい部分でもあり、施設の手入れや管理が行き届いていないと感じられてしまうと、ホテルの魅力や価値を低下させる可能性があります。
また、エアコンのような空調設備の稼働音や臭いも宿泊客の快適さを低下させます。老朽化によって空調設備の稼働音が耳障りなほど立てられていたり、カビや埃といったに臭いが漂ってきたりすると、宿泊客は不快に感じてホテルの評価が低下してしまう場合があります。
ホテルの施設の老朽化によって、宿泊客の満足度や快適さが損なわれると一度利用した宿泊客のリピート率が低下してしまうおそれがあります。レビューサイトでの低評価にもつながり新規顧客の集客にも影響する可能性があるため、経営改善を検討しているホテル経営者は老朽化している施設の改善も視野に入れてみましょう。
市場のグローバル化に対応できずに集客機会を喪失してしまう
ホテルが衰退してしまう要因の1つとして挙げられるのは、市場のグローバル化に対応できていないことです。グローバル化に対応できていないと、外国人旅行者の集客が難しくなる可能性があります。
外国人旅行者の訪日は、新型コロナウイルス感染症による渡航規制の影響もあり、観光庁の宿泊旅行統計調査では令和5年時点で外国人の宿泊者数は約6万人とされています。一方で、コロナ前の2018年に国土交通省が行った「観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について」では訪日外国人旅行者数は3,119万人だったとされています。
コロナ後、訪日する外国人旅行者数はコロナ前まで回復していくことが見込まれます。外国語対応が不十分であったり、様々な宗教や文化に対応した食事のメニューを選べる自由度が確保されていなかったりすると、外国人旅行者の集客が難しく、集客機会の喪失につながるでしょう。
外国人旅行者はホテルに長期滞在し、平均宿泊単価が日本人を上回る傾向にあります。ホテルの経営改善を行う際は、サービスのグローバル化を進めて外国人旅行者の集客に注力することで収益を改善することが期待できるため、ホテル経営者は参考にしてみてください。
ホテルの経営を改善するための施策
ホテルの経営を改善するときの施策はいくつかあります。経営改善を検討しているホテル経営者はそれぞれの方法を確認してみましょう。
【ホテルの経営改善施策】
- ホテル業務のDX化を行う
- 業務の一部を外部委託する
- 施設設備を向上させる
- 外国人旅行者に向けたサービスを充実させる
これらはあくまで一例ですが、ホテルの経営改善のために可能な改善施策です。これらの施策の中には、実施するに当たって費用がかかる場合もあるのでホテル経営者は自社で実施可能な経営改善施策を検討してみてください。
ホテル業務のDX化を行う
ホテルの経営改善に当たって実施できる施策には、ホテル業務のDX化があります。ホテルの運営の中で発生する業務の一部をAIやロボットに任せることで、人手不足の解消が期待できます。
ホテル業務のDX化の一例としては、非対面のチェックインシステムの導入があります。宿泊客のスマートフォンや専用端末を利用して、フロントスタッフを介することなくチェックインやチェックアウトを行うことができるため、フロント業務の人的負担の軽減を図れます。
また、掃除ロボットの導入もホテル業務の人手不足を軽減できます。掃除ロボットには、家庭用で使われるもののほかに業務用の用途で開発されたものもあり、ホテルの廊下や客室などの清掃にかかる作業負担を軽減し、手の空いた従業員を別の業務に充てられるようになります。
ただし、ホテル業務のDX化には初期投資費用やランニングコストといった導入費用がかかります。ホテルの経営状態によっては導入費用が財務上の負担になってしまう可能性もあるため、AIやロボットの活用を検討しているホテル経営者は自社で導入できる範囲でDX化を検討してみてください。
業務の一部を外部委託する
ホテルの経営改善に当たって実施できる施策には、業務の一部を外部委託することが挙げられます。ホテルや旅館業界では、自社で行う必要のない業務や専門性のある業務を外部に委託することで、人手不足を解消できる場合があります。
ホテル経営における業務には様々なものがありますが、業務の一部を外部委託することでホテルの人手不足問題の改善につなげられます。一例としては、料理の提供や食材の管理、レストランホールの整備などを委託するレストラン運営の代行が挙げられます。
また、集客支援や収益管理などといった業務を外部委託先に依頼することも可能です。マーケティングやレベニューマネジメントを扱う専門家に依頼することで、人手不足の解消だけでなく、自社で行うよりも効果的な施策を打てるようになります。
ただし、外部委託先によってはホテルのブランドイメージが損なわれる場合があります。とくに、レストラン運営のように宿泊客の目に留まりやすい業務を委託する際は、ホテルのブランドイメージとマッチした外部委託先を探すようにしてみてください。
施設設備を向上させる
ホテルの経営改善に当たって実施できる施策には、施設設備を向上させることが挙げられます。施設設備を向上させることで、宿泊客のリピート率や新規顧客が獲得しやすくなり、収益の向上につなげやすくなります。
たとえば、ホテルの施設設備で向上させるべきものの一例としては客室設備があります。「ベッド」「寝具」「家具」「照明」「空調」「Wi-Fi環境」といった設備を向上させると、宿泊客の快適さや満足度の向上につなげられます。
また、ロビーやフロント、娯楽施設といった共用設備を向上させることでも、宿泊客の快適さや満足度を満たしやすくなります。とくに、娯楽施設の設備を充実させることで宿泊客にホテル内での生活の充実感を感じてもらいやすくなります。
ただし、ホテルの施設設備を向上させるにはコストがかかります。ホテルの施設設備を向上させる際は費用対効果を検討して、集客力や収益力の改善に寄与しそうな施設設備から向上させましょう。
外国人旅行者に向けたサービスを充実させる
ホテルの経営改善に当たって実施できる施策には、外国人旅行者向けのサービスを充実させることが挙げられます。外国人旅行者がホテルを利用しやすくなるサービスを充実させることで、訪日する外国人旅行者の集客力の向上につなげられます。
たとえば、外国人旅行者向けのサービスとしては、ホテル全体で多言語対応を行うことです。「複数言語を扱える従業員の雇用」「多言語表示サービス」「音声翻訳デバイス」「チャットコンシェルジュサービス」などを利用することで、外国人旅行者がホテルを利用しやすい環境を整えられます。
また、フードダイバーシティーへの対応も外国人旅行者の集客力の向上へ寄与します。フードダイバーシティーは食の多様性のことで、様々な宗教や信条、地域文化に対応した食事を提供することで、グローバルな競争力を向上させられます。
外国人旅行者向けのサービスを充実させるには、メインで扱う国の宗教や文化を押さえておかなければなりません。外国人旅行者向けのサービスを充実させたいホテル経営者は、まずメインで取り扱う国の宗教や文化の調査から始めてみてください。
ホテルの経営改善に当たっては国の支援も受けられる
ホテルの経営改善に当たっては、国からの支援も受けられます。経営改善を検討しているホテル経営者は、国からの支援も押さえておきましょう。
【国からの支援】
- 中小企業活性化協議会
- 国際観光ホテル整備事業
これらはホテル経営者が経営改善を行う際に国から受けられる支援の一例です。経営の改善を検討しているホテル経営者は、国が提供している支援の活用も検討してみてください。
中小企業活性化協議会
ホテルの経営改善に当たって利用できる国からの支援には、中小企業活性化協議会があります。中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを総合的に支援しています。
中小企業活性化協議会は、中小企業庁によって全国47都道府県に設置されている組織です。中小企業活性化協議会では、飲食業・宿泊業の中小企業者のために「飲食業・宿泊業支援専門窓口」が設けられており、公認会計士や中小企業診断士といった専門家に無料で相談できます。
中小企業活性化協議会を利用すると、公認会計士や中小企業診断士などの事業再生に関する知識を持っている専門家から、自社の特性や地域性を考慮してもらったうえで収益力改善支援や再生計画策定支援といった支援を受けることができます。経営改善の方法に悩んでいるホテル経営者は、経営改善の方向性を示してもらうことも可能です。
中小企業活性化協議会では、宿泊業の事例集が公開されています。ホテル経営者が経営改善を行う際は、これらの事例集で上げられている取り組みも参考にしてみてください。
国際観光ホテル整備事業
ホテルの経営改善に当たって利用できる国からの支援には、国際観光ホテル整備事業があります。国際的な水準を満たすサービスや設備を備えた宿泊施設の促進を目指して、国が補助金や融資などの金融支援を行っています。
観光庁が実施している国際観光ホテル整備事業は、国際観光ホテル整備法に基づき、国際的な水準のサービスや設備を有する宿泊施設の整備を促進することを目的としています。国際観光ホテル整備事業の登録ホテルとなった宿泊施設は国からの補助金や融資などの支援を受けられるようになります。
一方で、国際観光ホテル整備事業の登録ホテルとなるには、国際観光ホテル整備法と国際観光ホテル整備法施行規則に定められた客室数等の施設基準と外客接遇主任者の選任等の人的側面や経営状況に関する基準を満たしていなければいけません。現状のホテルの設計や設備にもよりますが、登録ホテルとなるためにホテルの改修が必要になる可能性があります。
なお、国際観光ホテル整備事業の登録ホテルとなるために満たすべき要件は、観光庁が公開している「国際観光ホテル整備法」で確認できます。経営改善のために、国際観光ホテル整備事業の登録ホテルとなることを目指すホテル経営者は参考にしてみてください。
まとめ
ホテルの経営が衰退してしまう要因としては「人手不足」「施設の老朽化」「グローバル化に対応できていない」「後継者不足」などが挙げられます。ホテル経営者は、これらの経営課題に合わせて、経営改善施策を実施することで経営の改善を図れます。
ホテルの経営を改善するための施策の一例としては、ホテル業務のDX化や業務の外部委託、外国人旅行者向けのサービスの拡充などが挙げられます。ホテルの経営改善を行う場合は、初期投資コストやホテルのブランドイメージなどを考慮する必要があります。
なお、ホテルの経営改善に当たっては「中小企業活性化協議会」「国際観光ホテル整備事業」といった国からの支援を受けることもできます。経営改善に取り組みたいホテル経営者は国の支援制度の利用も検討してみてください。