ここ数年、会社設立時に合同会社を選択する人の数が増えています。合同会社は株式会社と比べて設立コストが安く、加えて、決算公告や株式の発行などの手続きがない点がメリットです。
さらに、合同会社では株式会社で必要な定款認証もないため、ありません。これをお読みのあなたでも、時間をかけて丁寧に進めれば十分にひとりで設立が可能です。
今回は、合同会社の設立をご検討されている方に向けて、合同会社の会社設立で知るべき知識と手順をわかりやすくご紹介していきます。
1.有限会社の代替としての合同会社
合同会社は2006年5月に施行された「新会社法」により新しく出現した会社形態です。別名:LLC(Limited Liability Company)とも言われています。(飛行機のLCCに似ていますね)
新会社法により、それまであった有限会社が新規で設立できなくなり、代わりに合同会社が登場しました。
合同会社と有限会社は、①小規模なビジネス(=スモールビジネス)に向いているという点と②設立コストが低いという点で類似性があります。具体的には、以下4点(設立コストが低い、有限責任、決算の広告義務がない、役員の任期がない)の共通点を持っています。
【合同会社と有限会社の共通点】
合同会社 | 有限会社 |
・設立コストが低い
(株式会社の約半分の費用で設立できる) ・有限責任である ・決算の広告義務がない ・業務執行社員の任期がない |
・設立コストが低い
(株式会社の資本金の約1/3以下で設立できた) ・有限責任である ・決算の広告義務がない ・取締役・監査役の任期がない |
以上のことから、合同会社は有限会社にとても近い存在と言えるでしょう。これまで有限会社は主に、街の美容院や八百屋などを経営する小規模事業者の方が設立していた会社でした。
小規模事業を手掛ける人にとっては、決算公告や株式の発行はいらない手続きです。
また、2006年5月までは株式会社の設立に資本金が最低で1,000万円以上必要でしたが、有限会社は1/3以下である資本金300万円からの少額スタートが可能でした。
そのため、多くの個人事業主や自営業者が会社設立を考えた際、「株式会社は資本金高いし、面倒な手続きもあるしな~」と株式会社に高いハードルを感じる方々が有限会社で会社設立をしたのです。
2006年に合同会社が登場してからも、株式会社ではなく元有限会社と同じような素質を持つ合同会社に惹かれる事業主は合同会社を選択しています。
2.合同会社は設立コストが安い!
合同会社のメリットについて言及される際、必ずといって話題になるのは「設立コストが安い」ことです。まず、株式会社では登録免許税(法務局での登記)の費用が15万円かかりますが、合同会社ではその半分以下の6万円です。
さらに、株式会社で必要となる手続き(定款の認証)がないため、定款認証の手数料(5万円)の支払いがなくなります。定款認証とは、作成した会社定款(会社の憲法のようなもの)を公証役場にもっていって認めてもらう手続きです。手数料5万円を支払わずに会社設立できる点は、小規模事業者にとって非常に魅力的な点です。
合同会社 | 株式会社 |
合計:10万2千円
①収入印紙代:4万円 ②定款の謄本作成料:2千円 ③登録免許税:6万円 |
合計:24万円
①収入印紙代:4万円 ②定款認証の手数料:5万円 ③登録免許税:15万円 |
このため、絶対に株式会社でないとイヤだ!と考える事業主以外では、設立費用の安さを魅力に感じて合同会社を設立する人が増えてきました。
(合同会社の定款認証が必要ないのはなぜ?)
会社法により、株式会社でも合同会社でも会社設立の際に「会社定款」を作らなければなりません。そして、株式会社の方は作成した定款を「公証人」という立場の人に認証してもらわなければなりません。
しかし、合同会社ではその認証が必要ありません。それはなぜでしょうか?その一つの理由として、株式会社の方が株主や社外取締役などを含む場合が多く、よりトラブルが増える可能性が高い会社形態だからです。
一方、合同会社の方は、非常に雑な言い方をすれば「仲良しのみんなで作ったんだよね~!」という人類みな兄弟的な特徴をもつ会社形態です。
そのため、会社定款に関してもあえて第三者が認証するという手続きを省いているのではないでしょうか。
3.合同会社は所有者=経営者、株式会社は所有者≒経営者である
①合同会社ではM&Aはない(吸収合併はある)
合同会社の大きな特徴として、株式会社のように「株主がいない」という点が挙げられます。これは、経営に関係のない会社の所有者がいないという意味になります。
昔、ホリエモンがフジテレビのニッポン放送株を買い占めてライブドアがフジテレビを乗っ取ろうとした事件がありましたよね。あれは典型的な株式会社にありがちな事件の例です。
合同会社の場合、中で働く社員はすべて「社員」として呼ばれ、すべての社員は最低1円以上の出資をしなくてはいけません。外部に開く株式の発行がないため、M&Aで乗っ取られる心配もありません。(但し、合同会社でも他の会社との吸収合併は認められています)
そして、出資額や自分たちで決めたルールに応じて利益の配分や議決権や財産の調査権を持っています。
一方、株式会社の場合は株の発行ができます。会社が株式上場している場合は、経営にまったく関係のない外部の人間もその企業の株を購入して、株主総会で意思決定権を持つことができます。
上記の図は、合同会社と株式会社の組織イメージです。合同会社の組織はすべて社内で完結していますが、株式会社の場合は外部とつながる株主総会や取締役会(社外取締役もOK)や会計参与があります。
②より自由度の高い経営をしたいのなら、合同会社が向いている
「会社をワンマン起業にしたい!」「外部からの出資は考えていない」という方には、株式会社よりも合同会社の設立をオススメします。以下を見ていただいてもわかる通り、株式会社よりも合同会社の方が手続きやルールの面で簡易的であると言えます。
合同会社 | 株式会社 |
・社員全員が出資者である
・会社代表のことを社長・代表取締役ではなく「代表社員」「と呼ぶ。 ※便宜上、合同会社でも社長と呼ぶことがある ・株式の発行はしない ・出資は会社内で行うか社債を発行する |
・社員全員が出資者な訳ではない
・株式の発行をして、外部から資金調達ができる ・社債を発行できる ・取締役会を設置する場合は(しなくてもOK)必ず取締役3名以上+監査役または会計参与を立てなければならない ・会計参与を設置することができる(義務ではなくい)
|
4.節税面で合同会社が株式会社に劣ることはない
イメージ的には、株式会社の方が合同会社よりも税制面で優遇されている気がしませんか?
しかし、株式会社と合同会社間での税金面での違いは特にありません。なぜなら、どちらも「法人格をもっている」からです。
①法人格とは
合同会社でも株式会社でも、会社という法人を設立すると「法人格」を持つことができ、収入が一定以上の場合は課される税率が有利なので、節税につながります。
「法人格」について理解するには、小さな子供の図書館カードで説明するとわかりやすくなります。
個人事業主の場合、あなたが小さな子供でお母さんと図書館に行くとき、あなたが借りたい本をお母さんの図書館カードで借りる時があると思います。
しかし、法人格を持っている場合は、図書館で本を借りる時にあなたはお母さんの図書館カードではなくあなた自身の図書館カードを付与されます。
もしあなたが合同会社を設立すれば、個人事業主の時には与えられなかった「法人格」というものが与えられます。
②合同会社でも株式会社での支払う税金の種類は同じ
節税面で合同会社が株式会社に劣ることはありません。設立する会社の種類が株式会社だからオトクだということはなく、支払う税金の種類は以下のように同等です。
合同会社の支払う税金の種類 | 株式会社の支払う税金の種類 |
・法人税及び復興特別法人税(国税)
・法人事業税(地方税) ・法人住民税(地方税) ・消費税(国税) ・固定資産税(地方税) ・所得税(国税) ・印紙税(国税) ・登録免許税(国税) ・自動車関連の税金(地方税) |
・法人税及び復興特別法人税(国税)
・法人事業税(地方税) ・法人住民税(地方税) ・消費税(国税) ・固定資産税(地方税) ・所得税(国税) ・印紙税(国税) ・登録免許税(国税) ・自動車関連の税金(地方税) |
③利益が500万円以上なら会社設立した方が節税になる
いま個人事業主をしている人が会社設立することを「法人成り」(ほうじんなり)と言います。
法人成りをした方がオトクになる事業主とそうでない事業主がいます。その基準は「どれぐらい稼いでいるか」という所得の大きさです。
個人事業主の場合、稼げば稼ぐほど一定の%で税金を課されてしまいますが、法人の場合は所得が800万円以下(/年)なら22%、800万円以上なら一律30%です。
個人事業主 | 合同会社/株式会社などの法人 |
・695~900万円:23%
・900万円~1,800万円:33% |
・~800万円:22%
・800万円~:30% |
そのため、年での利益が500万円を超えるようなら、法人設立を考えた方が節税になります。
5.合同会社を設立する手順とは
合同会社を設立する手順は株式会社の設立手順から「定款認証」を省いたものとお考え下さい。
- 1.会社の基本事項を決める
- 2.定款を作成する
- 3.出資金を払い込む
- 4.登記申請を行う
- 5.事業所を管轄する税務署と役所への届出(法人設立届出、定款の写しなど)をする
2.の定款作成については、当サイトの別の記事(合同会社の定款作成法:穴埋めするだけで作れる雛形と項目の解説 )を是非お役立てください。
最近では費用の節約から紙の定款ではなく電子定款を作成する方が増えています。電子定款については、こちらの記事(会社設立に必要な電子定款を作るための5つのステップと必要な機器 )も是非ご参照ください。
3.の出資金の払込についてはこちらの記事(会社設立で資本金払込み!方法・タイミング・払込証明書の作り方 )で詳しく解説しています。
6.合同会社の増加=スモールビジネスの増加
株式会社東京商工リサーチの調査によると、2017年の合同会社の新設数は過去最高の2万7,039社を記録しました。この数字は同年の会社設立数の14.4%であり、およそ5社に1社は合同会社ということになります。
【引用:東京商工リサーチ|2017年「合同会社」の新設法人調査~ 新設企業の5社に1社が選択、構成比は過去最高に~ 】
起業しやすい風土になったことは日本にとって喜ばしいですが、一方で、この小規模ビジネスばかりが増えることが原因で日本経済は衰退しているのではないか、という見方をする識者もいます。
いまの日本は比較的規模の小さな事業を起こすのは得意ですが、それをユニコーン企業並みに発展させるのが欧米よりも不得意という指摘が以下の記事で見受けられます。
7.合同会社のメリットとデメリット
合同会社を設立するには、そのメリットとデメリットを十分に見極めてから選択をするべきです。合同会社は「コストが安い」ことがよくクローズアップされていますが、事業内容(多くの人を巻き込む通信系やライフライン系の事業)によっては株式会社の方が向いていることもあります。
しかし、2013年以降から合同会社の設立が勢いに乗っているので、「合同会社が株式会社よりも劣ってみえる」というデメリットも次第に薄まっていくことでしょう。現在、AmazonやP&Gなどの外資系大手企業の日本法人がこぞって合同会社で設立されていて、そのことは少なからず合同会社のイメージアップにつながっています。
メリット | デメリット |
・設立費用が安い:定款認証の必要がありません
・ランニングコストが安い:決算公告や株主総会の必要がありません ・利益分配・経営の自由度が高い ・資金調達の幅が広い:社債発行が可能な他、創業融資の審査などで株式会社と比べて不利になることもありません。 ・株式会社と税制が同じため節税ができる |
・国内での知名度が低い:合同会社が株式会社よりも地位として下という認識の方が多いため中小企業が相手のビジネスでは控えた方が無難。
・人的問題:合同会社では基本的に社員(=出資者)全員が業務執行権を持ちます。そのため社員間で意見対立が起きてしまうと苦労してしまう可能性があります。 |
8.合同会社は一人で作れる?最適な人数は何人ぐらい?
結論から言えば、合同会社が一人からでも設立でできます。いえ、むしろ一人から始める事業なのであれば、株式会社よりも合同会社の方が時間や費用の面でメリットが大きいです。
合同会社はその性質から、50人以下ぐらいのスモールビジネスに最適です。一方、株式会社は社員数や資本金が多ければ多いほど(資本金1,000万円以上、社員数100名以上)向いている会社形態と言えます。
合同会社の最適人数 | 株式会社の最適人数 |
1人からOK。
役員は
の3種類がある(兼任OK) |
1人からOK。(以前は最低3人だった)
但し、上場企業の場合は取締役が最低3人必要です。 役員は
の3種類がある。(監査、会計参与はなくてもOK。取締役は代表だけでもOK。)
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合同会社を設立したあとでどうしても株式会社に変更したいのであれば、法定費用12万4千円はかかりますが「組織変更」という手続きで変更することが可能です。
まとめ
合同会社の内容について簡単にご説明させていただきました。株式会社との大きな違いはコストの安さやシンプルな組織設計です。
最近では日本でもネットビジネスなどの起業も増えており、スモールビジネスが盛んです。
利益が多く節税の点でメリットがあるのであれば、法人成りを合同会社でしてみてはいかがでしょうか。
(そうでない場合は、無理に会社設立はおすすめしません)