社長の自宅など、個人の不動産を会社に賃貸することは、納める税金の額を減らすための手段の一つです。
会社の側と社長個人の側、双方のメリットからその理由を検証していきます。
会社にとってのメリット
理由1.収入の流出防止
他人から物件を賃借すると、お金は外(=第三者)に出て行っただけで終わります。
一方、社長から賃借した物件については、お金が出て行った先は社長個人の収入となります。
同じようにお金が出て行くならば、第三者ではなく社長の収入になった方がよいでしょう。
理由2.契約更新トラブルの回避によるコストダウン
第三者から賃借を受けると、契約の更新を断られることがあります。
また、契約を更新せずに移転する際、よくトラブルになるのが原状回復の費用です。支払額が高かったり、保証金や敷金から充当されてしまったりという経験がある方は多いはずです。
社長個人の不動産であれば、契約更新を断るということはありえません。また、仮に原状回復費が発生しても、それを収受するのは社長個人となります。原状回復を工務店に依頼すれば、これは個人の不動産所得にかかる経費計算の範囲内で処理することができます。
社長個人にとってのメリット
理由3.自分の会社に貸しているという安心感
不動産を他人に貸すのは、
「家賃をちゃんと払ってくれるのか」
「借りてくれる人や会社はちゃんと契約を守ってくれるのか」
「退去してほしいとき、ちゃんと出て行ってくれるのか」
という不安が付きまといます。
こうした不安がないのが自分の会社への投資です。
孤独な社長は日頃からさまざまな不安で悩まされるもの、一つでも不安要素を減らしておくのは経営全体にとってもメリットになるでしょう。
理由4.所得税の損益通算
会社への賃貸によって個人の収入を分散することも、節税につながる理由の一つです。
経営者は会社から役員報酬、すなわち給与所得を受け取っています。税法上、給与所得は、給与収入の額に応じ、一定の計算式に基づいて控除額が決まってしまいます。
このとき、同じ額の収入を給与と家賃収入とに分けてもらうと、賃貸不動産の経費を計上することによって節税効果が生まれるのです。
例えば、賃貸不動産で修繕費が発生しその年の不動産収入が赤字となれば、給与所得の分と損益を合算して、給与所得にかけられた源泉所得税を戻してもらえる可能性があります。
不動産を貸さずに個人で使用した場合でも同じように修繕費はかかるのですから、節税になる可能性がある方を選択すべきでしょう。
理由5.青色申告特別控除の不動産所得への適用
もし会社が青色申告制度を利用していれば、原則として65万円を所得から差し引く「青色申告特別控除」制度が適用されます。そのため、例えば100万円の不動産所得が発生した場合、100万円-65万円=35万円として申告することができます。
青色申告は、複式簿記で帳簿をつけることを条件に税制上有利な特例を使える制度で、税務署に承認申請書を提出することにより適用を受けることができます。
理由6.相続税の財産評価額が低下
社長が個人的に所有している不動産を空屋にしていた場合には、相続税法上、建物は自用建物評価、土地は自用地評価となります。
一方、会社に不動産を貸し付けている場合、貸家となることから、建物は貸家評価、その建物の敷地は貸家建付地評価となります。
貸家評価や貸家建付地評価は、自用建物評価や自用地評価と比べて評価額は減額されます。そのため、結果的に相続税の財産評価額を下げることになり、節税につながるのです。
不動産を貸すときは届出の提出期限に注意を
社長が会社に不動産を貸して不動産所得が発生すれば、住所地の税務署は一定の届出をしなければなりません。
特に、貸付を始めた年から適用を受けたい場合は、開始日から2か月以内(その年の1月15日以前に開始した場合は3月15日まで)に申請書を提出しなければ、適用は翌年までまたなければいけないので注意が必要です。
一方、貸借時に会社として行う手続きもあります。新規に事務所を設置するのであれば、税務署、県税事務所、市役所などに事業所設置の届出をします。
もともと社長の自宅を本店所在地として使用貸借をしていた場合などは、追加で届出をする必要はありません。
高額な賃料設定は税務調査で問題になる恐れも
社長と物件所有者がイコールであることの問題点として、取引に客観性が不足することが挙げられます。
一番のポイントは家賃です。過度に高額な家賃設定は、法人の利益を減少させる結果となり税務調査でも問題となる恐れがあります。近隣の類似不動産の状況なども考慮して賃料(時価)を決定する必要があります。
まとめ
懇意にしている税理士先生のお話です。
よく節税を希望する社長のお話を聞いていると「それは脱税です」とツッコミを入れたくなることがあるとか。
やはり税金は国民として、会社として支払うべきです。
ただ不要な税金を支払う必要はないと思います。
今回、社長個人の不動産を会社に賃貸することで不要な税金が抑えられるなら、この手段を使わない手はありません。
ぜひ、ご参考にしてください。