直近で支払いが必要な費用があっても、売上の入金まで日があり資金繰りが厳しいと感じている個人事業主にとって、ファクタリングの利用は資金繰りの悪化を一時的に防止できる可能性があります。一方で、個人事業主の場合、利用できないファクタリング会社も存在するため、利用時に確認しておくべき点もあります。
当記事では、個人事業主でもファクタリングを利用できるのかという疑問を解説します。ファクタリング会社を選ぶ際に確認すべきことについても紹介しているので、ファクタリングの利用を検討している個人事業主は参考にしてみてください。
ファクタリングは個人事業主でも利用できる
ファクタリングは個人事業主でも利用できます。ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に売却するものであり、制度上は個人事業主の利用も可能だからです。
ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に売却し、売掛債権を支払期日よりも前に現金化する方法です。そのため、未回収の売掛債権を持っている個人事業主であればファクタリングの利用が可能です。
一方で、ファクタリングは無条件で利用できるわけではありません。ファクタリングの利用に当たっては、ファクタリング会社による審査を受けなくてならないため、審査の結果によってはファクタリングの利用ができなくなる場合があります。
ファクタリングを利用する際に審査される傾向としては、売掛債権の実在性と売掛債権の信用力があります。個人事業主がファクタリングを利用する際は、自身でも売掛債権の実在性と売掛債権の信用力があるかどうかを確認しておきましょう。
売掛債権の実在性
個人事業主がファクタリングを利用する際に確認すべきことは、売掛債権の実在性です。売掛債権の実在性がないと、ファクタリングは利用できません。
売掛債権の実在性とは、売掛債権が正当な取引に基づいて発生したものであるかどうかを指します。売上が架空に計上されていたり、売上の計上時期が不正にずらされていたりといった売上債権は実在性がないと判断されます。
また、実際に商品やサービスを提供して売上が上がっていて、かつ計上時期もずれていない売上債権だったとしても、回収の見込みがない売上債権の場合は実在性がないと判断されます。ファクタリング会社は売掛債権を買い取った後、売掛先企業からお金を回収するため、売却の時点で回収の見込みがない売掛債権は買取ができません。
売掛債権の実在性は、出荷資料や請求書などを確認することで売上債権が存在していることを確認できます。出荷資料や請求書など、売上債権の存在を客観的に証明する資料がない場合は売上債権の実在性がファクタリング会社に認められない可能性もあるため、留意してください。
売掛債権の信用力
個人事業主がファクタリングを利用する際に確認すべきことは、売掛債権の信用力です。売掛先企業の支払い能力がない場合は、売掛債権の信用力がないと判断されてしまいファクタリングの利用ができなくなる可能性があります。
売掛債権の信用力とは、売掛先が売掛金を期日までに支払う能力や意思があるかどうかのことです。ファクタリングは売掛債権の譲渡であり、売却した売掛債権を回収する権利はファクタリング会社に移るため、ファクタリングを利用する際は利用会社よりも売掛先企業の支払い能力が審査される傾向にあります。
そのため、売掛先企業が経営不振や倒産の危機にあったり、売掛先が支払いの遅延や滞納の履歴があったりする場合は、ファクタリングの審査に通過できないおそれがあります。そのほかにも、売掛先企業が小規模な事業のみを展開していたり、取引を始めて間もなかったりする場合も、信用力がないと判断される可能性があります。
売掛先企業に売掛債権の支払い能力がないとわかっていながらファクタリングを利用すると、詐欺罪のような犯罪行為に該当してしまう可能性もあります。ファクタリングを利用したい個人事業主は、支払い能力がある売掛先企業の売掛債権を売却するようにしましょう。
ファクタリング会社を選ぶときに確認すべきこと
個人事業主がファクタリング会社を選ぶときは、確認すべきことがいくつかあります。ファクタリングの利用を検討している個人事業主は、それぞれの項目を押さえておきましょう。
【ファクタリング会社の選び方】
- 売掛先企業へのファクタリングの通達の有無
- 債権譲渡登記なしで利用できるか
- 少額債権買取に対応しているかどうか
- 償還請求権が設けられているかどうか
これらはあくまで一例ですが、個人事業主がファクタリングを利用する際に確認しておくべき項目です。なかには個人事業主が利用できないような条件のファクタリング会社も存在するため、個人事業主はそれぞれの項目を参考にファクタリング会社を選んでみてください。
売掛先企業へのファクタリングの通達の有無
個人事業主がファクタリングを利用するときは、売掛先企業へファクタリング利用の通達がなされるかどうかを確認しましょう。ファクタリングの利用を知られたくないかどうかで契約方式が変わるからです。
ファクタリングには、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの2種類があります。2社間ファクタリングは、ファクタリング会社とファクタリング利用会社の2社間で契約を交わすため、売掛先企業へファクタリングの利用を知られずに売掛債権の売却ができます。
一方、3社間ファクタリングでは、ファクタリング会社とファクタリング利用会社に加えて、売掛先企業を含めた3社間で契約を交わします。3社間ファクタリングでは、売掛先企業に売掛債権の譲渡を承認してもらわなくてはならないため、売掛先企業にファクタリングの利用が通達されます。
ファクタリングの利用が売掛先企業に通達されると、売掛債権の支払期日まで待てないほど資金繰りが悪化していると捉えられる可能性があります。結果的に売掛先企業との関係が悪化するおそれもあるため、ファクタリングの利用を検討している個人事業主は売掛先企業との関係を考慮して契約形態を決めましょう。
債権譲渡登記なしで利用できるか
個人事業主がファクタリングを利用するときは、債権譲渡登記をしないでも利用できるかどうか確認しましょう。債権譲渡登記が必要なファクタリングは、個人事業主の利用ができないからです。
債権譲渡登記とは、金銭債権の譲渡や質権設定について債務者以外の第三者への対抗要件を備えるための制度です。ファクタリングでは、ファクタリング会社が債権者であることの証明や債権の二重譲渡の防止といった目的で行われる傾向にあります。
一方で、債権譲渡登記を行うには法人の登記事項証明書が必要です。そのため、個人事業主がファクタリングを利用するとき、債権譲渡登記が規約として定められているファクタリング会社は利用できません。
なお、売掛先企業とファクタリング会社が直接取引しない2社間ファクタリングでは、債権譲渡登記が求められる傾向があります。個人事業主がファクタリングを利用する際は、3社間ファクタリングの利用を検討してみてください。
少額債権買取に対応しているかどうか
個人事業主がファクタリングを利用するときは、少額債権買取に対応しているかどうかを確認しましょう。ファクタリング会社によっては、最低買取額が定められている場合があり、個人事業主の場合は最低買取額を満たせない可能性があるからです。
ファクタリングは買取る売掛債権の金額が上がるほど、手数料も増加します。ファクタリング会社は手数料で利益を出しているため、少額の売掛債権の買取を避けるために、最低買取額を定め、100万円以下の売掛債権は買取を行わないというような条件を設けている場合があります。
個人事業主は、法人に比べて売掛債権の金額が少額になりやすい傾向にあります。売却を検討している売掛債権がファクタリング会社の最低買取額に満たない場合は、そのファクタリング会社を利用できなくなります。
売掛債権の最低買取額や買取の基準はファクタリング会社によって異なります。そのため、一概には言えませんが、中には過去の取引実績が確認できる売掛債権や公的機関に対する売掛債権など、信用力があると判断できる売掛債権であれば少額でも買取を行ってもらえる可能性があるため、少額の売掛債権の売却を検討している個人事業主は参考にしてみてください。
償還請求権が設けられているかどうか
個人事業主がファクタリングを利用するときは、償還請求権が設けられているかどうかを確認しましょう。償還請求権がある場合は、ファクタリング利用会社が売掛金の回収リスクを背負うことになるからです。
償還請求権とは、売掛先企業が倒産や不渡りなどで支払いができなくなった場合に、ファクタリング会社がファクタリング利用会社に対して売掛金の返還を請求する権利のことです。償還請求権が定められているファクタリングを利用した個人事業主は、売掛先企業が支払えなかった売掛金の代金をファクタリング会社へ支払わなくてはならなくなります。
償還請求権が設けられているファクタリングは、掛債権の譲渡ではなく、売掛金を担保とした貸付(売掛金担保融資)であるとみなされます。そのため、ファクタリング会社は賃金業法と利息制限法に従って上限以上の手数料を設けることができなくなっています。
なお、ファクタリング会社の中には償還請求権を設けていながら賃金業登録を行っていない会社がある場合があります。償還請求権がありながら賃金業登録を行っていない場合は、闇金融や悪徳業者に該当する可能性もあるので、償還請求権があるファクタリングを利用する場合は、金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」でファクタリング会社の身元を確かめてみましょう。
まとめ
ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に売却するものであり、制度上は個人事業主も利用ができます。ファクタリングを利用する際は売掛債権の実在性と信用力が証明できるかどうかを、事前に確認しておきましょう。
また、個人事業主はすべてのファクタリング会社を利用できるわけではありません。とくに、債権譲渡登記が必要だったり、少額の売掛債権の取引を扱っていなかったりするファクタリング会社では、個人事業主の利用が難しい場合があります。
なお、ファクタリング会社の中には闇金融や悪徳業者に該当するものも存在します。償還請求権が設けられていながら、賃金業登録が行われていないファクタリング会社は違法行為に該当する可能性もあるので利用は控えるようにしてみてください。