資金調達コストとは?計算方法とともに分かりやすく解説

カテゴリー 資金調達

事業者において必要な資金を外部から調達する際には、資金調達コストが発生する場合があります。資金調達コストを把握することにより、適切な資金調達方法の選択や経営計画の策定に役立てることができます。

当記事では資金調達コストの概要や計算方法をわかりやすく解説します。資金調達の際にどのようなコストがかかるのかを知りたい人や、自社の資金調達コストがどれくらいであるかを知りたい人は参考にしてみてください。

なお、「コスト」という言葉には時間や労力の意味が含まれる場合もありますが、当記事では資金調達の際にかかる金銭的なコストについて解説しています。

資金調達コストとは企業の資金調達にともない発生するコスト

資金調達コストとは、資金調達にともない発生するコストのことです。利用する資金調達方法によって発生するコストの内容は異なりますが、事業において資金調達を行う際にはさまざまなコストが発生することを念頭に置いておきましょう。

<資金調達に伴い発生するコスト>

分類

概要

株主資本コスト

投資家から出資を受けて調達した資本に対するコスト。

主に株主が期待するリターンを指す

負債コスト

金融機関や投資家など債権者から調達した負債に対するコスト。

主に調達した借入金や社債の利息を指す

内部留保コスト

企業が利益を社内に留保することによって生じるコスト。

資本金が増えることにより増額する税金や、別の投資機会に活用した場合に得られたであろう利益などを指す

資金調達コストは「株主資本コスト」「負債コスト」「内部留保コスト」の3種類に大別されます。それぞれのコストを把握しておくことにより適切な資金調達方法を選択できるほか、正確なコスト管理により事業の信用力を高めることにもつながります。

利用する資金調達方法や調達する金額などによって程度の差はあるものの、資金調達時にはさまざまな形でコストが発生します。資金調達を行うことが、かえって事業の負担を増やす恐れもあるため、資金調達に伴うコストを事前に把握しておく必要があります。

なお、資金調達の際には上記以外にも、間接的なコストが発生する場合があります。後払いの資金調達方法を利用する場合には経費の立替費用、外部の専門家へ相談を依頼した場合にはコンサルティング費用などが必要となるため、間接的に発生するコストも考慮し無理のない資金調達を行いましょう。

株主資本コスト

株主資本コストとは、株式発行によって一般投資家やベンチャーキャピタルなどから出資を受けて資金調達をする際に発生するコストです。株式資本コストは、主に株主に対して還元する配当金などのリターンが該当します。

配当金は、事業において利益が出た場合に出資者である株主に対して還元するお金です。株式発行により調達した資金に返済の義務はありませんが、原則として利益の一部を配当金として株主へ還元する必要があるほか、商品や優待券などを株主へ提供する場合もあります。

また、株主資本コストは「期待収益率」とも言い換えられるものであり、株主が存在する限り発生し続けるコストです。企業の決算時における利益や今後の見通し、株価の変動などが株式資本コストの金額に影響を与えます。

投資家から出資を受けた場合の資金に返済の義務はありませんが、事業の利益が出た場合には株主に対する配当金や株主優待などリターンの提供が求められます。株式発行によって資金調達を行う場合、株主資本コストが発生する点に留意しておきましょう。

負債コスト

負債コストとは、金融機関からの融資や投資家への社債発行など、資金の借り入れによって資金調達をする際に発生するコストです。負債コストは、主に借入金や社債などに対する利息が該当します。

金利は、金融機関や投資家から資金を借りる際に借り手である債務者が、貸し手である債権者に支払う利息の割合のことです。融資や社債によって借り入れた資金には元本の返済義務があるだけでなく、借入期間や金額に応じて設定される金利に基づく利息を支払う必要があります。

また、負債コストは借り入れた資金を完済するまで発生するコストです。借入期間を長期に設定すれば一度に支払う金額は少なくなりますが、適用される金利が高くなる傾向にあるため、長期の借入になるほど最終的な負債コストは高額になる可能性があります。

融資や社債を利用する場合は元本の返済に加えて負債コストが発生するため、結果として借り入れた金額よりも多くの資金を支払うことになります。金融機関や投資家からの借り入れによって資金調達を行う場合、負債コストが発生する点に留意しておきましょう。

なお、借入の際に担保を提供することや借入期間を短く設定することなどにより、金利を下げて負債コストを抑えることが可能です。資金調達先や利用するサービスによっても適用される金利が異なるため、負債コストを抑えたい場合は複数の資金調達先を比較し、低金利で利用できる方法を探してみてください。

内部留保コスト

内部留保コストとは、企業が利益を社内に留保することによって生じるコストです。内部留保コストには、利益を内部留保することによって増加する法人税や、機会費用などが該当します。

法人税は、法人の企業活動により得られる所得に対して課される税金であり、資本金額が課税額に影響します。資本金が一定の金額を超えると、課税額が増えることや軽減税率の対象から外れることがあるため、資金調達を行い資本が増えることによって増加した分の税金は内部留保コストに該当します。

機会費用は、資金を別の投資機会に活用した場合に得られるであろう利益のことです。たとえば、100万円の利益を内部留保した場合、もし100万円を別の事業に投資することにより1億円の利益を得られた可能性があると仮定すると、内部留保によって得る機会を失った1億円が内部留保コストに該当します。

内部留保コストは資金調達にあたって直接発生する費用ではありませんが、内部留保コストを考慮することは経営方針を決める際の判断材料のひとつとなります。さまざまな状況での内部留保コストを想定しておくことにより、柔軟な投資判断や機会損失の低減につながるでしょう。

資金調達コストの計算方法   

資金調達コストの種類を押さえた人は、資金調達コストの計算方法を確認しておきましょう。資金調達コストは「WACC」と呼ばれる加重平均資本コストの計算式を用いて求めることができます。

<資金調達コストの計算式>

WACC(%)=RE×(E/(E+D))+RD(1-T)×(D/(E+D))

(加重平均資本コスト=株主資本コスト×株主資本割合+負債コスト  × 負債割合)

記号

意味

詳細

WACC

加重平均資本コスト

借入によるコストと株式発行によるコストを加重平均したもの。

複数の資金調達方法を利用する場合に企業全体の資金調達コストを把握するために用いられる指標

RE

株主資本コスト

株式発行により発生するコスト。

主に株主が出資した資金に対して要求するリターン(期待収益率)を指す

E

株主資本

調達した資金のうち投資家からの出資による資金

RD

負債コスト

借入により発生するコスト。

主に金融機関や投資家などから時の金利

D

負債

調達した資金のうち金融機関や投資家から借入した金額

t

法人税率

会社が利益に対して払う法人税の割合

加重平均資本コストであるWACCは、資金調達額に対する資金調達コストの割合を示すものです。たとえば、WACCが5%と算出された場合、調達する金額の5%に相当する資金調達コストがかかることを意味します。

WACCの平均は5%〜7%程度と言われていますが、事業規模や資金調達額によって資金調達コストは大幅に異なります。算出された値から資金調達コストが高いのか低いのかを一概に判断することはできませんが、資金調達や投資判断を行う際の目安のひとつとしてみてください。

株主資本コストの求め方

資金調達コストの計算方法を押さえた人は、計算の際に必要となる株主資本コストの求め方を押さえておきましょう。WACCにおける株主資本コストは「CAPM」と呼ばれる資本資産価格モデルの計算式を用いて求めることができます。

<株主資本コストの計算式(CAPM)>

RE=RF+β×(RM-RF)

(株主資本コスト=リスクフリーレート+自社株のリスクプレミアム)

記号

意味

詳細

RF

リスクフリーレート

無リスク利子率。

投資するリスクが限りなく0%に近い銀行預金や長期国債などの利回りを利用する

β

β(ベータ)値

株式市場全体の変動に対する自社の株価の変動の大きさを示す指標。

株価指数が1%変化したときのリターンが何%変化するかを表す

RM‐RF

マーケットリスクプレミアム

投資家がリスクを負うことによりどれだけの利益を得られるかを示す指標。

株式市場全体の収益率(RM)から国債などのリスクフリーレート(RF)を差し引いた値を指す

CAPMの計算式における「RF」はリスクフリーレートのことです。リスクフリーレートは投資する際のリスクが0%、もしくは0%に限りなく近い金融商品から得られる利回りのことを指しており、日本においては長期国債の利回りが用いられる傾向にあります。

CAPMの計算式における「β」はβ値のことです。株価指数が1%変化したときに自社株のリターンが何%変化するかを示す指標であり、β値が1より大きい 場合、その株式は市場全体よりも変動しやすいことを示し、β値が1より小さい 場合、その株式は市場全体よりも変動しにくいことを示します。

CAPMの計算式における「RM‐RF」はマーケットリスクプレミアムのことです。株式市場全体のリスクに対して投資家が要求する追加のリターンのことであり、国債よりどれだけ高い利回りを提供できるかを示す指標でもあります。

CAPMにおける自社の株主資本コストを知りたい場合、リスクフリーレートと自社におけるリスクプレミアムを足して算出します。自社のリスクプレミアムは、自社のβ値とマーケットリスクプレミアムを掛けることによって求めることができます。

なお、株主資本コストを求める際に用いる「β値」や「RM」などの値は、過去のデータに基づいて算出されます。経済状況や事業実績などさまざまな要因によって変動するため、自社の数値や株主資本コストの計算方法に不安がある人は、証券会社や税理士など専門家に相談することも検討してみましょう。

負債コストの求め方

資金調達コストの計算方法を押さえた人は、計算の際に必要となる負債コストの求め方を押さえておきましょう。WACCにおける負債コストは、以下の計算式を用いて実効税率影響後の負債コストを求めます。

<負債コストの計算式>

R=RD×(1-法人税率)

(実効税率影響後の負債コスト=借入利率×タックスシールド)

負債コストは原則として借入利率を指しますが、借入利率は税務上「損金」として計上され法人税などの税金が減額されるため、実効税率影響後の負債コストを算出します。このような節税効果は「タックスシールド」と呼ばれており、WACCを計算する際はタックスシールドの影響を踏まえる必要があります。

たとえば、法人税率が20%の場合、 (1ー法人税率) は 「(1-0.2) = 0.8 」です。利息の支払いに伴い法人税率である20%分の税金が減少することを意味し、借入利率に0.8を乗じることにより実効税率の影響を踏まえた負債コストを算出することができます。

負債コストは単に借入利率を当てはめるのではなく、負債が増えることによるタックスシールドを考慮する必要があります。タックスシールドを踏まえずに資金調達コストを計算すると、事業の財務状況を正確に把握できず資金調達や経営判断に影響を及ぼす恐れがあるため、正しい計算式を用いて負債コストを算出しましょう。

まとめ

資金調達コストとは、資金調達にともない発生するコストのことです。資金調達コストには大きく「株主資本コスト」「負債コスト」「内部留保コスト」の3種類があり、それぞれのコストを把握することによって適切な資金調達方法の選択や経営計画の策定に役立てることができます。

資金調達コストは「WACC」と呼ばれる加重平均資本コストの計算式が用いられる傾向にあります。借入によるコストと株式発行によるコストを加重平均したものであり「加重平均資本コスト=株主資本コスト×株主資本割合+負債コスト×負債割合」によって算出されます。

なお、事業規模や資金調達額によって資金調達コストは大幅に異なります。算出された値から資金調達コストが高いのか低いのかを一概に判断することはできませんが、自社の資金調達コストを適切に管理し、資金調達や投資判断をする際の目安のひとつとしてみてください。

この記事を書いたライター

ソラボ編集部

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8,000件の資金調達実績を持つSolaboの専門家が、融資や補助金など、事業課題に合わせた資金調達方法を提案します。

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