資金調達
銀行融資で運転資金を借りられる?条件や借入可能額の目安を解説
資金調達

経営者の中には「売り上げは立っているのに手元に資金が足りていない」といった資金繰りの悩みに直面する人が少なくありません。仕入れや人件費、家賃など、毎月の支払いに充てる運転資金をどう確保するかは、事業継続に直結する重要な課題です。
当記事では、銀行融資で運転資金を借りられるかどうかを解説します。融資を受ける際に押さえておきたいポイントや、運転資金の融資を受けられる場合の借入可能額の目安も紹介するので、銀行融資を通じた資金調達を検討している人は参考にしてみてください。
使い道と返済可能性を明確に示せれば運転資金の融資を受けられる
資金の使い道と返済の見通しを具体的に示すことができれば、銀行から運転資金の融資を受けることは十分に可能です。銀行は融資審査において「資金が適切な目的に使われるか」や「確実に返済されるか」を重視し、融資の可否を判断するためです。
<運転資金における融資審査の観点>
審査の観点 | 銀行が確認するポイント | 求められる資料や情報 |
資金の使い道 |
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返済可能性 |
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たとえば、運転資金の融資を申請する場合、月々の仕入費や人件費、家賃などの使途が対象であるため、機械装置の購入のような設備資金に充てることは認められません。あくまでも運転資金として妥当な項目のみを明記し、用途の線引きを明確にする必要があります。
また、返済可能性を示すには、運転資金の費目に対していくら使うかを明記し、月次の売上や利益をもとに何か月で返済できるのかを明確にする必要があります。数値で示された根拠のある収支計画は、返済可能性の高い事業者として評価されやすくなります。
資金の使い道と返済可能性の両方を明確に説明することは、運転資金の融資を受けるうえでの前提条件となります。希望する融資額が運転資金として適正な使い道であることを示し、返済可能性を具体的に示せる収支計画を準備できるようにしておきましょう。
運転資金として適正な使い道であることを示す
運転資金の融資を受けるには、その資金が運転資金として適正な使い道であることを示すことが前提となります。用途があいまいな場合は審査にとおりに通りにくいため、支出項目ごとの明確な説明が求められます。
<銀行が運転資金と認める使い道>
運転資金の使い道 | 具体例 |
仕入関連費 | 商品仕入、原材料、資材の購入など |
人件費 | 給与、賞与、アルバイト代、外注費 |
固定費 | 家賃、水道光熱費、通信費、保険料など |
営業・販促費 | 広告出稿、チラシ印刷、交通費など |
その他経常費 | 消耗品費、租税公課、支払手数料など |
たとえば「今月中に仕入れた原材料費として50万円」「アルバイト人件費に月30万円」など、支出内容と金額を明示することで、使途の妥当性を説明できます。このように「何に、いつ、いくら使うのか」が具体的であるほど銀行も融資判断をしやすくなります。
運転資金として融資を受けたい場合は、用途の分類と支出予定をあらかじめ整理しておくことが大切です。銀行からは「資金使途明細書」にて詳細な内容を求められる傾向にあるため、見積書や請求書などの根拠となる資料をそろえておくと、融資手続きが円滑に進みます。
なお、新商品や新サービスに向けた開発費は、運転資金として認められる場合と設備資金に該当する場合があります。外注費や人件費は運転資金に含まれる一方、専用設備やソフト導入などは設備資金として申請が必要であるため、留意しておきましょう。
収支計画で返済可能性を具体的に示す
運転資金の融資を受けるには、返済可能性を具体的に示せることが前提となります。銀行は、融資した資金が予定どおり返済されるかどうかを重視するため、申請時には収支計画の提示を求められる傾向にあります。
<返済可能性を示す収支計画の一例>
項目 | 金額 | 備考 |
月商(売上高) | 500万円 | 売上の合計 |
粗利(売上総利益) | 250万円 | 売上高の50%と想定 |
固定費 | 150万円 | 家賃、人件費、水道光熱費など |
営業利益 | 100万円 | 粗利-固定費 |
月々の返済予定額 | 30万円 | 営業利益の3割以内が目安 |
たとえば、月商500万円で、売上から仕入原価を差し引いた粗利が250万円、固定費が150万円かかっている場合、営業利益は100万円となります。営業利益は、返済に充てられる利益として見なされるため、まずはこの金額を把握することが大切です。
営業利益が100万円の場合、仮に返済額を月30万円に設定すれば、営業利益の範囲内に収まり、資金繰りに無理がないと判断されやすくなります。「売上」「利益」「返済額」のバランスを数値で示すことは返済能力の裏づけとなり、審査でもプラスに評価される材料となります。
収支計画は、単なる見込みではなく、返済の実現性を伝えるための根拠となる資料です。売上や利益、返済額の関係を明確に示し、見積書や契約書などの関連資料もあわせて提出できるよう準備しておきましょう。
信用情報や納税状況を整理する
運転資金の融資を受けるには、資金使途や収支計画に加え、事業者の信用状況や納税状況も整っていることが前提となります。
銀行は貸倒リスクを避けるため、信用保証協会の保証審査や、CIC(株式会社シー・アイ・シー)やJICC(日本信用情報機構)といった信用情報機関を通じて、申込者の返済能力や履歴に問題がないかを確認します。
<信用情報や納税状況に関するチェック項目>
項目 | 確認内容 | 整理しておくポイント |
借入・返済状況 |
借入件数や返済負担に無理がないか |
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納税状況 |
税金の未納や申告内容の誤りがないか |
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信用情報 |
支払遅延や債務整理などの記録がないか |
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借入件数が多い場合や月々の返済額が利益に対して過剰と判断される場合は、資金繰りに無理があると見なされ、審査に影響する可能性があります。すでに信用保証協会の保証付き融資を利用している場合は「融資先」「借入金額」「返済期間」などを整理し、申請時に説明できるようにしておきましょう。
法人税や消費税、住民税などに未納があると、信用力の評価に影響するだけでなく、融資の申請要件を満たさないおそれもあります。申請時には納税証明書や申告書の提出が求められるため、事前に必要書類をそろえ、内容に不備がないか確認しておくことが大切です。
ローンやクレジットの支払い遅延、債務整理の履歴があると、返済能力に懸念があると判断されることがあります。過去に履歴がある場合は、その経緯や現在の資金状況を簡潔にまとめた資料を添えると、審査時に安心材料として評価されやすくなります。
信用情報や納税状況に不備があると、資金使途や返済計画が十分でも融資が見送られることがあります。融資申請に向けて、借入状況や納税履歴などの関連資料をあらかじめ確認し、説明できる状態を整えておきましょう。
運転資金の融資額は月商の3か月~6か月分が目安となる
運転資金の融資額は、月商の3か月分〜6か月分が目安となります。銀行は、借入額が返済可能な水準かどうかを判断する際、事業者の月商に着目する傾向にあります。
たとえば、月商が400万円の会社であれば、資金使途や返済計画が適切な場合、1,200万円〜2,400万円の融資を受けられる可能性があります。その際には、売上の安定性や売掛金の回収状況などもあわせて確認されます。
一方で、月商の目安を超える融資を希望する場合、資金の使い道や返済可能性について、より具体的で説得力のある説明が求められます。希望額が目安を上回る場合は、支出計画や売上増加の根拠となる資料を事前に準備し、銀行に対して合理的な裏付けを示すことが不可欠です。
自社の月商の3か月〜6か月分にあたる金額が、運転資金として妥当とされる借入の目安です。まずは月商に基づいて融資希望額を算出し、目安の範囲内に収めた金額で申請してみましょう。
なお、返済可能な範囲であれば、銀行は借入額の多寡よりも将来の見通しに基づいて計画的に資金を確保しようとする姿勢を重視します。そのため、資金需要が見込まれる場合は都度少額を申請するよりも、必要額をまとめて借り入れるほうが資金繰りに対する考え方を高く評価されることがあります。
業種によって融資額の目安が異なる
運転資金の融資額は、業種によって目安が異なる場合があります。売上構造や資金の流れが業種ごとに異なるため、必要とされる資金規模にも差が生じるためです。
<業種別の融資目安>
業種 | 融資額の目安 | 資金の流れと回収期間の特徴 |
製造業 |
月商の3〜4か月分 |
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卸売業 |
月商の2〜3か月分 |
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小売業 |
月商の1〜2か月分 |
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サービス業 |
月商の1〜2か月分 |
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飲食業 |
月商の2〜3か月分 |
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建設業 |
月商の4〜6か月分 |
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介護・福祉 |
月商の4〜6か月分 |
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不動産業 |
月商の5〜6か月分以上 |
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たとえば、仕入代金や人件費の支払いが売上の回収よりも先に発生する業種では、月商に対して比較的多めの融資が認められる傾向にあります。建設業や製造業のように、受注から入金までに時間を要する業態では、月商の4か月〜6ケ月分を受けられる可能性があります。
また、飲食業や小売業のように顧客の来店時に売上が確定する業態では、資金回収までの期間が比較的短く、月商の2〜3か月分の資金で対応できる場合もあります。資金の循環が早いため、短期間分の運転資金で資金繰りを維持しやすいとみなされます。
そして、不動産業では、物件の仕入れや開発などにかかる資金の単価や金額が大きくなりやすく、まとまった額を事前に投じる必要があります。こうした事業の特性から、月商の5か月〜6か月分を目安とした融資が認められる傾向にあります。
運転資金の融資可能額は、月商の3か月〜6か月分という目安の中で、事業者の業種や業態ごとの資金サイクルによって変動します。必要額を一律の基準で考えるのではなく、自社の取引条件や資金の流れをもとに、根拠のある金額を見積もって申請できるよう準備しておきましょう。
希望額の融資を受けるために押さえておくポイント
申請書類を提出する前に、希望額の融資を受けるためのポイントを押さえておきましょう。銀行は、運転資金を含む融資全般において、資金使途や返済計画だけでなく、書類の整合性や説明内容、申請者の姿勢など、さまざまな要素から総合的に審査を行うためです。
<希望額の融資を受けるために押さえておきたいポイント>
ポイント | 補足内容 |
資金需要の背景やタイミングを明確に伝える | なぜ今その金額が必要なのかを、具体的に説明する |
書類の不備や内容の矛盾に注意する | 書類の不足や整合性の欠如は、審査の減点要素になる |
赤字や業績不足時の補足資料を用意する | 懸念材料がある場合は、自ら説明資料を添えて信頼性を高める |
面談で信頼を得られるように準備しておく | 担当者とのやり取りも評価対象となるため、事前の準備が重要 |
たとえば、月商や利益の水準に比べて希望融資額が高めの場合には「なぜ今、その運転資金が必要なのか」や「返済に無理がないか」といった点を具体的に説明する必要があります。資金の背景や支出時期を示し、内容に一貫性のある書類や補足資料を整えておくことで、担当者も判断しやすくなります。
融資審査では、資金使途や返済計画に加え、提出書類の内容、伝え方の丁寧さなども評価対象になります。審査担当者の視点を意識しながら、それぞれのポイントを確認してみましょう。
資金需要の背景やタイミングを明確に伝える
希望額の融資を受けるには「なぜ今、この金額が必要なのか」資金需要の背景やタイミングを明確に伝える必要があります。銀行は、資金の必要性と事業の実情に矛盾がないかを確認したうえで、融資の可否や金額を判断しているためです。
たとえば、支払い条件の変更や新規取引先との契約開始により、予定より早く仕入代金が発生する場合は、資金が必要になった経緯を具体的に説明できます。事情が明確であれば、融資担当者も資金の必要性を理解しやすくなります。
また、売掛金が発生しているものの回収までに時間がかかる状況の場合は、つなぎ資金としての必要性を伝えることで、理解を得やすくなります。継続的な取引先であることや、過去の回収実績が安定していることなどもあわせて説明すると、資金繰りの見通しがより具体的に伝わります。
資金の使い道だけでなく「なぜ」「いつ」「いくら」必要なのかを具体的に説明することが、希望額の妥当性を裏づける判断材料となります。見積書や契約書などの資料をそろえ、時期や背景とあわせて整理しておきましょう。
書類の不備や内容の矛盾に注意する
融資審査では、提出書類の内容が正確かどうかが基本的な確認項目です。押印漏れや記入欄の空白、誤字脱字などによる不備だけでなく、数値や記載内容に矛盾がないかも厳しく見られます。
たとえば、資金使途明細と収支計画の金額が一致していない場合や、過去の決算書と異なる取引先情報が記載されている場合には、不信感を抱かれるおそれがあります。些細な食い違いでも事業者の準備不足と判断されることがあるため、事前のチェックが欠かせません。
書類の整合性は、事業者としての信頼につながるポイントのひとつです。申請前に関係資料を照合し、説明と数値の一貫性が保たれているかを確認しておきましょう。
なお、融資申請に必要な書類の種類や準備の進め方については、別記事「銀行融資を受けるための必要書類とは?事業者向けに解説」にて詳しく紹介しています。興味のある人は合わせて確認してみてください。
赤字や業績不足時の補足資料を用意する
過去に赤字や売上減少がある場合でも、融資審査で即座に否定的な判断が下されるとは限りません。その理由や回復見込みを適切に説明できるかどうかがポイントとなります。
たとえば、原材料費の高騰や一時的な設備投資による赤字であれば、原因と今後の見通しを補足資料で説明することで、審査担当者の不安を払拭できます。さらに、業績の改善につながる取り組みを示すことで、前向きな評価を受けやすくなります。
赤字や業績の停滞を隠すのではなく、事実を正確に伝えたうえで再建の根拠を示す姿勢が大切です。損益推移表や資金繰り表を添えて、運転資金として妥当な金額であることや、計画が実現可能であることを裏付けましょう。
面談で信頼を得られるように準備しておく
融資申請では、書類審査だけでなく、担当者との面談も評価の一部とされています。面談時の受け答えが不十分であると、事業への理解や資金計画の信頼性に疑問を持たれる可能性があるため、信頼を得られるように準備しておく必要があります。
たとえば、資金の使い道や今後の収益見通しをその場で答えられない場合には、「事業への姿勢が曖昧」と受け取られる可能性があります。面談では、数値の根拠や今後の運用イメージまでを具体的に説明できることが求められます。
書類で伝えきれない部分は、面談で補う意識が必要です。想定される質問に対して事前に回答を整理し、自信を持って説明できるよう準備を整えておきましょう。
なお、融資面談に関する準備ポイントを「銀行融資の面談における7つの準備項目を解説」の別記事にて詳しく紹介しています。面談への備えを進めたい人は、あわせて参考にしてみてください。
まとめ
銀行から運転資金の融資を受けるには、資金の使い道と返済計画が明確であることが前提です。仕入や人件費、家賃などの用途に妥当性があり、収支計画に裏づけがある申請であれば、融資を受けられる可能性があります。
融資額は月商の3か月~6か月分が目安とされますが、業種や申請内容によって審査の観点が異なります。希望額が目安を超える場合は、支出計画や売上見込みの根拠を具体的に示す必要があります。
審査に向けては、資金が必要な背景の説明や書類の整合性に加え、業績不振時には原因や改善見通しを示す補足資料も欠かせません。補足資料に記載した内容は面談でも質問されるため、口頭で説明できるように整理しておきましょう。
この記事を書いたライター

ソラボ編集部
資金調達の可能性を無料で診断
8,000件の資金調達実績を持つSolaboの専門家が、融資や補助金など、事業課題に合わせた資金調達方法を提案します。
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