会社の経営をしている中で、経営を改善したいと考えている人もいるでしょう。
経営を改善するためには、会社の問題点を把握し、計画的に効果的な施策を打っていく必要があります。しかし、日々様々な業務に追われている経営者が独力で行うのは困難なケースもあります。早期経営改善計画は会社が抱える課題を発見し、経営を改善するのに役立ちます。
この記事では、会社の経営を改善したい人に知っておいてもらいたい「早期経営改善計画」は誰が使えるのか、利用の流れまで合わせて解説します。
早期経営改善計画は経営の見直しを支援する制度
早期経営改善計画は、経営の見直しをしたい経営者を支援するための制度です。
経営改善に必要な知識や、効果的な施策を提供してくれる専門家(認定支援機関)を利用したときに発生する費用の2/3(上限20万円まで)を、経営改善支援センターが補助してくれます。
認定支援機関は、中小企業支援のための専門知識や実務能力が国から一定レベル以上であることを証明されている税理士や中小企業診断士などを指します。
認定支援機関を利用することで、経営者が抱えている課題の発見や経営改善のための目標設定を効果的に行うことができます。
「経営改善をしたいけど、なにから手を付けたらいいのかわからない」「初めて経営を見直したい」という経営者が利用するのに向いています。
コロナ禍の影響を受けている人も利用できる
早期経営改善計画は現在、「ポストコロナ持続的発展計画事業」という通称がついています。コロナ禍の影響で経営に打撃を受けた経営者を救済する目的で活用されているためです。
経営者の中には、「これまでは儲けが出ていた経営方針も、コロナ禍では利益を伸ばせず、赤字に転落してしまった」という人も珍しくありません。たとえば、飲食店なら店内での飲食が自粛になって売上が落ちてしまったなどです。
コロナ禍でも利益を上げられる経営をするには、ビジネスモデルを見直さなければいけません。しかし、経営が厳しい状況で信頼できるのかわからない専門家に頼るのは不安でしょう。
早期経営改善計画は国が認可した専門家を利用できて、費用の2/3を負担してもらえます。試しに経営改善計画を立ててみたいという人は利用を検討してみてください。
早期経営改善計画の利用条件
早期経営改善計画は、個人事業主や小規模事業者、中小企業などが利用できる制度です。
規模の小さな会社では、日々の業務に追われて計画的な経営が行えていないケースがあります。そのような経営者をサポートし、より良い経営を行うための改善計画の立案をサポートすることを目的としているからです。
しかし、次の条件に当てはまる人は利用することができません。
- 条件変更などの金融支援を必要としている
- 過去に経営改善計画を策定したことがある
- 過去に早期経営改善計画を利用したことがある
また、次の業種は早期経営改善計画の対象外となるので注意が必要です。
- 社会福祉法人
- 特定非営利活動法人
- 一般社団/財団法人
- 公益社団/財団法人
- 農事組合法人
- 農業協同組合
- 生活協同組合
- LLP(有限責任事業組合)
- 学校法人
このほかにも業種によっては対象外となるケースがあります。自身の業種が対象なのか不安な場合は、利用する前に経営改善支援センターに問い合わせるようにしてみてください。
早期経営改善計画を利用してできること
早期経営改善計画を利用してできることは、主に次の3つがあります。
- 経営の足を引っ張っている事業を見つけられる
- 計画的な資金繰り計画が立てられる
- 事業継続に向けて有効なアクションプランを立てられる
どれか1つでも試して見たいという項目があれば、利用してみてもいいでしょう。
経営の足を引っ張っている事業を見つけられる
早期経営改善計画では、経営の足を引っ張っている事業を見つけることができます。ビジネスモデル俯瞰図を作成するため、顧客や資金の流れなどが把握しやすくなるからです。
ビジネスモデル俯瞰図は、自社が提供している商品やサービス、資金の動き、顧客の流入数などを図表で表し、視覚的にわかりやすくしたものです。
たとえば、経営不振のIT会社がビジネスツール開発とゲームアプリ開発をしていたとします。ビジネスモデル俯瞰図を作成すると「ビジネスツールは売上が立っていても、ゲーム開発にコストがかかりすぎていて、経営を圧迫している」などの問題点を見える化できます。
注力すべき事業と撤退すべき事業を明確にしたい経営者は、早期経営改善計画にマッチしていると言えるでしょう。
計画的な資金繰り計画が立てられる
計画的な資金繰り計画が立てられるのも、早期経営改善計画の利点です。資金繰り計画表などを作成し、これまでの資金実績やこれからの資金計画を明確にするからです。
資金繰りは、必ずしも損益計算書の利益と一致しません。仮に損益計算書上で黒字になっていても、資金繰りで赤字になっていると倒産のリスクが高くなってしまいます。
たとえば、150万円の買掛金で仕入れた商品を200万円で売ったとすると、利益は50万円です。しかし、手持ちの現金が100万円しかない場合、帳簿上で利益は出ているのに現金がなくて買掛金が支払えずに、結果として倒産してしまうケースがあります。
そのため、経営を安定させるには、金融機関からの借入や返済状況、売上や人件費など資金繰りの管理が重要です。
資金繰りは金融機関から融資を受けるときも重視されます。今後融資を検討している経営者は、計画的な資金繰りを行い、融資を受け始める前に資金繰りの状態を調えておきましょう。
事業継続に向けて有効なアクションプランを立てられる
早期経営改善計画では、事業を継続するために有効なアクションプランも立てることができます。ビジネスモデル俯瞰図や資金繰り計画を見直すことで、明らかになった課題に対する有効なアクションの立案ができるようになるからです。
早期経営改善計画ではアクションプランの効果を数値的に算出するため、有効な施策を立てやすくなります。
また、「いつ」「誰が」アクションプランを実行するのかも明確化されるので、実行に移しやすくなります。
【アクションプランのイメージ/飲食店Aの場合】
早期経営改善計画で経営改善した事例
早期経営改善計画を利用してできることはわかっても、実際にどう改善されるのかはなかなかイメージがつきにくいところかもしれません。今回は実際の事例をもとに、改善までの流れを紹介します。
【運送業者Aの事例】
改善前 | ||
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問題点1 | 財務状況は正常だが、経営方針は経営者の勘と運頼みの経営を行なっていた。 | |
問題点2 | 事業承継など会社の将来も考えて経営をしていきたいが、なにをすればいいのかわからなかった。 | |
問題点3 | 経営に関する相談をできる相手がいなかった。 | |
改善後 | ||
改善点1 | ビジネスモデルを俯瞰して見ることができ、勘ではなく実情に根差した経営が行えるようになった。 | |
改善点2 | 事業承継後に向けて後継者育成を始めたり、ビジネス目標を設定したりして、会社の成長を社員全員で共有をできるようになった。 | |
改善点3 | 専門家と経営に関して相談できる関係を築けて、改善計画の振り返りもできるようになった。 |
問題点を理解し、改善計画を実行して結果が出るまでには、状況にもよりますが約1年程度の期間が必要になります。2か月や半年で成果が出るわけではありません。
経営改善を検討しているなら、できるだけで早めに早期経営改善計画を利用できるように準備しましょう。
早期経営改善計画を利用する流れ
早期経営改善計画を利用する流れは5ステップに分けられます。
- 金融機関に相談する
- 認定支援機関を探す
- 経営改善支援センター事業利用申請書を経営改善支援センターに提出する
- 早期経営改善計画を作成する
- 作成した早期経営改善計画を金融機関に提出する
- 経営改善支援センターに支払い申請をする
早期経営改善計画を利用するときの参考にしてみてください。
金融機関に相談する
早期経営改善計画を利用するときはまず、金融機関に相談をしましょう。申請時に金融機関から「事前相談書」を受け取っておく必要があるからです。
その後、認定支援機関と連絡を取り、早期経営改善計画の申請準備を進めます。
早期経営改善計画の利用でなにから始めたらいいのかわからない人は、付き合いのある金融機関で「早期経営改善計画を利用したい」と相談してみましょう。
認定支援機関を探す
早期経営改善計画の利用が決まったら、認定支援機関を探しましょう。早期経営改善計画の利用申請は、認定支援機関と連名で行わなくてはいけないからです。
全国の認定支援機関は、中小企業庁が開設している「認定経営革新等支援機関検索システム」を利用して調べることができます。
利用したい都道府県や相談したい内容にあった認定支援機関を見つけることができるので、活用してみてください。
経営改善支援センター事業利用申請書を経営改善支援センターに提出する
認定支援機関と連名で「経営改善支援センター事業利用申請書」を経営改善支援センターに提出する必要があります。このとき、金融機関から受け取った「事前相談書」も一緒に提出します。
金融機関によっては、金融機関自体が認定支援機関として認定されているケースがあります。その場合は、金融機関が連名で申請することもできます。
早期経営改善計画を作成する
経営改善支援センターで申請内容が受理されたら、認定支援機関とともに早期経営改善計画を作成していきます。
ビジネスモデル俯瞰図や資金繰りの見直し、経営課題の洗い出しなどはここで行われます。
経営について不安なことやわからないことなどがあれば、認定支援機関に質問をして「自社の経営について聞かれたなんでも答えられる」状態を目指しましょう。作成した早期経営改善計画を金融機関に提出する
作成した早期経営改善計画は金融機関に提出します。この段階で経営改善支援センターに提出するわけではないので注意してください。
金融機関に早期経営改善計画を提出すると、「受取書」が貰えます。
その後、認定支援機関と連名で、受取書と共に「経営改善支援センター事業費用支払申請書(早期経営改善計画)」を経営改善支援センターに提出しましょう。
経営改善支援センターに支払い申請をする
認定支援機関に依頼したときに発生した費用の1/3を支払います。その後、経営改善支援センターに残りの支払い申請を行いましょう。
経営改善支援センターでは早期経営改善計画の中身や必要書類などが確認され、支払い額が決定されます。
残りの2/3は直接認定支援機関に支払われるため、支払い申請後に経営者がするべきことはありません。
大々的に経営改善するなら経営改善計画策定支援事業を利用する
すでに倒産しそうなほど経営が悪化しているときは、「経営改善計画策定支援事業」を利用するようにしましょう。本格的な経営改善をするときに、最大200万円まで認定支援機関を利用したときの費用を負担してくれるためです。
経営改善計画策定支援事業は、金融支援を伴う支援も行えるもので、「このままだと借入金を返済できない」「赤字経営から脱却できない」などの問題を抱える経営者が利用するべき制度です。
早期経営改善計画ではできなかった、「金融機関への返済条件等の変更」なども行うことができます。
金融機関への返済を行いながら資金繰りを安定させることが難しい経営者などは、経営改善を行いたい場合は経営改善計画策定支援事業を活用した方がいいでしょう。