トラック運送業として会社を経営している人の中には、事業を継続していく上で経営改善を行いたいと考えている人もいますよね。その際、自社が抱えている経営課題を把握しきれずに悩んでいる人もいるでしょう。
トラック運送業の経営課題としては「ドライバー不足」「2024年問題」「燃料価格の高騰」「競合他社との過当競争」などが挙げられます。トラック運送業の経営を改善させるためには、経営課題ごとに改善の施策を行っていかなければなりません。
当記事ではトラック運送業の経営課題について解説します。トラック運送事業者が経営改善のために実施可能な施策も紹介しているため、自社の経営改善に取り組みたいトラック運送事業者は参考にしてみてください。
トラック運送業で押さえておきたい経営課題
トラック運送業の経営を改善するために、押さえておきたい経営課題はいくつかあります。トラック運送業の経営を改善するときは、運送業でとくに問題となりやすい経営課題を押さえておくことで、自社の経営課題を探る際の参考にできます。
【トラック運送業で挙げられる経営課題】
- ドライバー不足
- 2024年問題
- 燃料価格の高騰
- 競合他社との過当競争
これらは運送業を営む中で経営課題として話題に挙げられやすい傾向にあります。トラック運送業の経営改善を行うときは、自社がこれらの経営課題に該当するかどうかを確認してみてください。
ドライバー不足
トラック運送業の経営課題の1つとして挙げられるのはドライバー不足です。ドライバー不足に陥る要因は運送業の労働環境に起因している場合があります。
ドライバー不足に陥る原因はいくつか挙げられますが、そのうちの1つは長時間の労働に対して低賃金という労働環境の問題が挙げられます。全日本トラック協会が行った調査によると、トラックドライバーの2021年度の平均年収は約501万円(全産業平均は約597万円)、平均年間労働時間は約2,388時間(全産業平均は約1,955時間)であったとされています。
加えて、トラックドライバーの高齢化が進んでいることも、ドライバー不足になる要因の1つと考えられます。国土交通省が行っている労働力調査では、トラックドライバーの年齢構成は45.2%が40歳から54歳、29歳以下は全体の10%に止まっているとされています。
労働環境の問題は、トラックドライバーの求人に影響します。労働環境問題を改善しなければ、オンラインショップの普及による物流需要の増加やドライバーの高齢化によって、さらにドライバー不足に陥る可能性もあるため、ドライバー不足を解消したい運送業事業者は自社の労働環境を見直してみましょう。
2024年問題
トラック運送業の経営課題の1つとして挙げられるのは2024年問題です。2024年問題によって、長距離輸送が難しくなるほか、ドライバー不足が深刻化するといった経営上の問題を引き起こす可能性があります。
2024年問題とは、2024年4月から施行される働き方改革関連法によって、トラックドライバーの時間外労働の上限が年960時間に制限されることです。時間外労働時間の制限により、ドライバー1人での長距離輸送が困難になります。
2024年4月以降、長距離輸送を行う場合は交代ドライバーを同乗させる必要があります。このため、長距離輸送を行う運送業事業者は1回の輸送にかかるドライバーの数的負担が増加する場合があります。
なお、2024年問題に対応するために長距離輸送の件数を減らして、中短距離輸送に事業を切り替える運送業事業者もいます。中短距離輸送は、長距離輸送よりも単価が低い傾向にあるため、収益が減少してしまうおそれもあるので留意しましょう。
燃料価格の高騰
トラック運送業の経営課題の1つとして挙げられるのは燃料価格の高騰です。燃料価格の高騰によって、経営の圧迫や輸送力の低下につながる可能性があります。
燃料費は所有している車両台数によってもことなりますが、国土交通省によると運送業にかかるコストの約20%を燃料費が占めているとされています。そのため、原油価格の上昇や円安などの影響で燃料価格が高騰すると、トラック運送業の経営負担も増加してしまうおそれがあります。
また、燃料価格の高騰は輸送力の低下を招く場合もあります。トラック輸送にかかる燃料費を抑えるために、長距離輸送や多頻度輸送に消極的になると、結果的に輸送力の低下につながり、収益が低下してしまいます。
なお、燃料価格の高騰はトラック運送事業者がコントロールすることはできない要因です。燃料価格の高騰に対応する場合は、燃料サーチャージの導入のような輸送力に影響が出ない方法を検討しましょう。
競合他社との過当競争
トラック運送業の経営課題の1つとして挙げられるのは競合他社との過当競争です。運送業は法改正や様々な規制緩和によって新規参入に対する壁が低いため、価格競争がエスカレートしやすい傾向にあります。
物流二法の施行や貨物自動車運送事業法の改正、運賃の下限規制の緩和などによって、運送業は新規参入がしやすい傾向にあります。半面、荷主や顧客を獲得するために料金の据置や値引きによる過当競争が起き、自社の利益率の低下を引き起こしてしまう可能性があります。
また、過当競争は低価格な料金を維持するために、ドライバーの待遇や労働環境面に本来投資するべき資金の減少をもたらす場合もあります。ドライバーの給料が上がらなかったり、長時間労働が改善されなかったりといった労働環境の悪化をもたらし、新規人材の募集が難しくなる要因となりえます。
競合他社との過当競争は、荷主や顧客の獲得で得られる収益以上に、自社の経営を悪化させるおそれがあります。競合他社との過当競争による経営悪化を防ぐためには、業務の効率化やサービスの革新など、価格面以外での改善を検討しましょう。
トラック運送業の経営改善方法
トラック運送業の経営課題を解決するための方法はいくつかあります。トラック運送業で経営課題を解決したいと考えているトラック運送事業者は、自社で実施可能な経営改善方法を確認してみましょう。
【トラック運送業で挙げられる経営改善方法】
- 労働環境の改善
- 他社との協業
- 燃料サーチャージの導入
- 荷主とのパートナーシップ構築
これらはトラックの運送業で実施可能な経営改善方法の一例です。実施するために費用がかかったり、自社のみでは行えなかったりする施策もあるため、経営改善を行いたいトラック運送事業者は自社で可能な施策から実施を検討してみてください。
労働環境の改善
トラック運送業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは労働環境の改善です。トラックドライバーの給与体系や業務体制の見直しなどを行うことで、ドライバー不足の改善につなげられる可能性があります。
全日本トラック協会の「令和2年度トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」によると、トラック運送業の給与体系では歩合制が全体の6割を占めているとされています。歩合制は荷物の輸送量や輸送距離に応じて給料が増える一方で、長時間労働も増えやすく労働環境の悪化につながりやすい傾向があります。
また、荷待ちの時間が長いことや荷役作業の重労働も、長時間労働の一因やドライバーへの負担になっています。荷物の受け取り時間の短縮や荷役作業の機械化や効率化などを行い、ドライバーの負担を軽減する必要があります。
なお、給与体系の見直しでは「固定給(一律)+時間外手当(一律)+仕事給」のように、稼働時間だけに左右されない給与体系を目指しましょう。これらの給与体系はあくまで一例で、自社の経営状態に見合った給与体系を検討しながら、労働環境の改善を行いましょう。
他社との協業
トラック運送業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは他社との協業です。他社と協業を行うことでドライバー不足や長距離輸送の負担の軽減が期待できます。
たとえば、他社との協業の一例として挙げられるのは、バケツリレー方式による長距離輸送の方法です。長距離の輸送の際に、中間地点で荷物をほかのトラックに交換し、ドライバーの実質的な負担を中長距離輸送にするという方法です。
バケツリレー方式では、長距離輸送を請け負った際にもトラックの移動距離を短縮できるため、ドライバー不足による輸送効率の低下を防げます。加えて、燃料費の節約につなげることもできます。
ただし、ほかのトラックと荷物の交換を行うための待ち合わせスポットの整備や、倉庫の管理などは協業する他社と行うことになります。情報共有や連携の仕組みなどの技術的環境を整えるためにコストがかかる場合もあるので、他社と協業を検討しているトラック運送業者は留意してください。
燃料サーチャージの導入
トラック運送業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは燃料サーチャージの導入です。燃料サーチャージを行うことで、燃料価格の高騰による経営の悪化を防止できる可能性があります。
燃料サーチャージは燃料価格が上昇した場合に、標準的な運賃に高騰した燃料価格分を上乗せする制度です。軽油の場合は1L当たり100円を超えた場合に、燃料サーチャージを行い、高騰した燃料価格を運賃に上乗せできます。
一方で、全日本トラック協会の調査によると、2021年時点で燃料サーチャージを導入している運送事業者は28%に止まっています。燃料サーチャージは燃料価格の高騰によって増加したコストを適正に運賃に反映するための制度ですが、荷主にとっては値上げと捉えられて理解を得るのが難しいという現実が理由として挙げられます。
燃料サーチャージを導入するにはトラック運送事業者による交渉で、荷主に運賃への上乗せを理解してもらう必要があります。国土交通省のトラック輸送適正取引相談窓口では、燃料サーチャージの導入に当たってトラック運送事業者からの相談を受け付けているため、導入に当たって不安点がある人は相談してみてください。
荷主とのパートナーシップの構築
トラック運送業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは、荷主とのパートナーシップの構築です。荷主とのパートナーシップの構築を行うことで、競合他社との過当競争の改善や燃料サーチャージの導入のための環境整備を行いやすくなる可能性があります。
トラック運送業は荷主からの下請け業者という立ち位置なので、トラック運送業の経営を改善するためには荷主の協力も要します。荷主とのパートナーシップを構築し、運賃の設定や支払い方法、荷主の多層化取引の最小限化など書面上で取り決めすることで、トラック運送業事業者の経営が改善される場合があります。
荷主とのパートナーシップの構築を行うと、荷主が価格のより安価な運送業者と複数契約を結ぶような状況の是正効果が期待でき、トラック運送業者同士の過当競争の防止につなげられます。加えて、予め燃料価格が高騰した際に燃料サーチャージの導入することを決めておけば、荷主と都度の価格交渉を行わずに済みます。
なお、荷主とのパートナーシップの構築に当たっては国土交通省が作成したガイドラインを利用できます。荷主とトラック運送事業者の望ましい取引形態についても記載されているため、荷主とのパートナーシップの構築を検討するトラック運送事業者は一読してみてください。
トラック運送業の経営改善で利用できる支援制度
トラック運送事業者が経営改善を行うときは、国や地方自治体が行っている支援制度の利用ができます。経営の改善を検討しているトラック運送事業者は、自社で利用できる支援制度も押さえておきましょう。
【経営改善のための支援制度】
- 経営力向上計画
- 経営診断事業
- 各種補助金制度
トラック運送業の経営を改善するために利用できる支援制度としては「経営力向上計画」「経営診断事業」「各種補助金制度」などが挙げられます。これらはあくまで一例ですが、自社の経営改善を検討しているトラック運送事業者はぞれぞれの支援制度の利用も検討してみてください。
経営力向上計画では税制支援や金融支援が受けられる
トラック運送事業者が経営力向上計画を利用すると、税制支援や金融支援などの優遇措置が受けられます。優遇措置を受けるためには、経営改善のために策定した経営改善計画に対して国から認定を受けなければいけません。
トラック運送業における経営力向上計画とは、運送業の課題である荷主との取引環境の改善や運送の効率化などに取り組むために策定する計画です。経営力向上計画には事業分野別指針が業種別に設定されており、運送業では運送サービスの品質や安全性を高めるとともに、労働生産性や収益性を向上させることが求められています。
具体的な施策としては、人材教育として研修制度を策定したり、費用の効率化としてコストの見える化を行ったりなどが挙げられます。経営力向上計画の実施期間は3年ないし5年とされているため、策定した計画はこの期間内で実施していきます。
なお、トラック運送事業者の事業分野別指針は「貨物自動車運送事業」で確認できます。経営力向上計画で求められている経営改善のための施策も記されているため、経営力向上計画を利用したいトラック運送事業者は参考にしてみてください。
経営診断事業では専門家からの支援を受けられる
トラック運送事業者が経営診断事業を受けると、中小企業診断士のような専門家から支援を受けられます。経営診断事業ではこのときに発生する専門家への受診費用を一部助成してもらえます。
経営診断事業は全日本トラック協会が行っているもので、都道府県トラック協会の全ト協標準経営診断システムに基づいて行われます。第1段階では「総合的な経営診断」として、財務診断や自己診断、現地調査が行われ、希望者は第2段階として経営戦略分析や経営資源分析、業務プロセス分析といったより具体的な支援を受けることもできます。
全ト協標準経営診断システムでは、専門家の支援を受けることで赤字や原価割れに陥っている要素の割り出し、適切な運賃設定、他社との差別化などの提案を受けることができます。経営診断事業ではこれらの支援に係る費用の2分の1、8万円を上限に助成を行っています。
ただし、経営診断事業を受けるには都道府県トラック協会の会員でなければいけません。自社の所在地にある都道府県トラック協会は「都道府県トラック協会一覧」から探すことができるため、都道府県トラック協会に未加盟で経営診断事業を検討しているトラック運送事業者は入会手続きから始めてみましょう。
各種補助金制度
トラック運送事業者が各種補助金制度を利用すると、経営改善を行うにあたってかかる費用の一部を国や地方自治体に負担してもらえます。トラック運送事業者が経営改善を行う際に利用できる補助金制度はいくつかあります。
【経営改善で利用できる補助金制度】
補助金名 | 概要 |
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ものづくり補助金 | ものづくり補助金では、生産性向上のための設備投資や機械開発などの資金に対して、費用の一部を補助してもらえます。 |
IT導入補助金 | IT導入補助金では、業務効率や売上を改善するために、ITツールを導入する際に発生する費用の一部を補助してもらえます。 |
小規模事業者持続化補助金 | 小規模事業者持続化補助金では、小規模事業者が販路開拓や業務効率化などの取り組みを行う際に、かかる費用の一部を補助してもらえます。 |
トラック運送事業者がものづくり補助金を利用する場合の例としては、荷役作業の効率化のための先進技術やロボットを導入するなどが挙げられます。ものづくり補助金は生産性向上に関わるものであれば、採択される可能性があります。
また、トラック運送事業者がIT導入補助金を利用する場合の例としては、業務効率の改善のためにトラックの位置を把握する車両動態システムの導入や経理の自動システムの導入などが挙げられます。IT導入補助金の補助率は企業の規模によっても異なりますが、通常枠で小規模事業者の場合は2分の1です。
小規模事業者持続化補助金を利用する場合、トラック運送事業者は常時使用する従業員数が20名以下でなければいけません。小規模事業者持続化補助金の補助率は、通常枠で50万円を上限にかかった費用の3分の2まで補助してもらえるため、従業員数が20名以下のトラック運送事業者は利用を検討してみてください。
まとめ
トラック運送業の経営課題としては「ドライバー不足」「2024年問題」「燃料価格の高騰」「競合他社との過当競争」などが挙げられます。これらの経営課題は、トラック運送業者が経営を行う上で直面する傾向にあります。
トラック運送業の経営課題を改善する方法としては「労働環境の改善」「他社との協業」「燃料サーチャージの導入」「荷主とのパートナーシップ構築」などがあります。これらはあくまで一例ですが、経営の改善を行いたいトラック運送事業者は参考にしてみてください。
なお、トラック運送業の経営改善では、国や自治体が行っている支援制度も利用できます。中小企業診断士のような専門家による経営診断や金融支援、補助金の利用なども可能なので、トラック運送事業者で経営改善を検討している人は支援制度の利用も検討してみてください。