建設業を経営している人の中には、採算性が低いことに悩んでいる人もいますよね。採算性を向上させるために、経営改善を検討している建設事業者もいるでしょう。
建設業で採算性が低いとされる理由には、利益率や収益性の低下が挙げられます。利益率や収益性が低下する要因は様々あり、要因ごとに経営改善施策を講じることで建設事業の採算性を向上させることが可能となります。
当記事では、建設業で採算性が低い理由を解説します。建設事業者に向けた経営改善方法も紹介しているため、自社の採算性の向上を図りたい建設事業者は参考にしてみてください。
建設業の経営課題は採算性が低いこと
建設業界の経営課題として挙げられるのは、採算性の低さです。採算性が低いと案件を獲得できていても経営を維持するのが難しくなってしまいます。
建設事業者の採算性が低下する要因の1つとしては、利益率の低下が挙げられます。TKCグループが公開している「TKC経営指標速報版 建設業」によると、建設業の売上高総利益率(粗利益率)は平均で20.8%とされており、全産業平均の34.4%と比べ約13.6%低くなっています。
利益率は、収益性を探るうえで指標の1つとなります。収益性は会社が事業運営のための資金をどの程度増やすことができるかどうかを示すもので、通常は利益率が向上するほど収益性も向上します。
建設業で採算性の低下につながる可能性がある要因はいくつかあります。採算性の向上を検討している建設事業者は、自社が利益率や収益性の低下に陥りやすい要因に該当しないか確認をしてみましょう。
過度な売上高重視
建設事業者の採算性が低下する要因の1つは、過度な売上高重視の経営体質です。売上高を経営指標としてしまうと、誤った経営方針に進んでしまい利益率の低下につながるおそれがあります。
建設業界では、経営指標として売上高が重視される傾向があります。これは建設事業者が公共工事を請け負う際に必要な経営事項審査において、売上高が評価の指標の1つとなっていることが関係しているとされています。
一方で、売上高のみを重視してしまうと、競合他社との競争において安価受注や赤字工事が増えてしまうおそれがあります。結果として、利益が出ない低利益体質や赤字体質に陥りやすくなり、採算性の低下を引き起こします。
建設事業者が採算性を向上させるには、売上高重視の経営体質からの脱却が必要です。採算性の向上を目指す建設業事象者は売上高ではなく、利益率を経営指針とすることを検討してみてください。
資金の流れが不明瞭
建設事業者の採算性が低下する要因の1つは、資金の流れが不明瞭であるということです。資金の流れが不明瞭だと、事業運営でかかった費用の管理に抜け漏れが生じ、工事ごとの原価や利益が把握できずに採算性の低下に気づきにくくなります。
建設事業者が資金の流れを把握しにくくなってしまう要因はいくつかありますが、1つには支出が先行しやすい業態ということが挙げられます。建設業は工事にかかる支出が先行し、工事代金の回収に時間がかかる傾向にあるため、どんぶり勘定になりやすくなってしまいます。
また、工事の規模や内容に変更が加わりやすい事業環境も資金の流れを不明瞭にする要因の1つとして挙げられます。建設業界では、工事の施行開始後に規模や内容に変更が加わる場合があり、工事現場ごとに原価や利益を把握するのが難しいこともあります。
建設事業者が採算性を向上させるには、資金の流れを把握しやすい経営環境を整えなければいけません。採算性の向上を検討している建設事業者は、資金繰り表の作成や工事単価の策定などを検討してみてください。
外注費の負担の増加
建設事業者の採算性が低下する要因の1つは、外注費の負担の増加が挙げられます。外注費が増えることで自社の経営が圧迫され、採算性を得るのが困難になります。
建設事業者が自社の業務を外注すると、人手不足問題や技術不足を補うことが可能です。一例としては、自社に電気工事を行える資格を有している従業員がいない場合、外注を行うことで自社では行えない業務でも請け負えるようになります。
また、工期を短縮するために業務の一部を外注する建設事業者もいます。外注を行い、複数の建設事業者が工事に関わることで、人手不足問題を解消でき、工期の短縮を図ることもできます。
ただし、外注にかかる費用が増加してしまうと、経営の圧迫につながる可能性があります。採算性の向上を検討している建設事業者は、外注以外で人手不足や工期の短縮につながる施策を検討してみましょう。
採算性を向上させて経営を改善する方法
建設事業者が、採算性を向上させるための経営改善方法はいくつかあります。自社の経営状況をもとに、採算性の向上のための経営改善方法を検討してみてください。
【採算性向上のための経営改善方法】
- ICT施工を活用する
- 経営指標を利益率に切り替える
- 資金繰り表を作成する
これらは建設事業者が採算性を向上させるために行える経営改善方法の一例です。採算性の向上を目指している建設事業者は、自社で行える形でこれらの経営改善方法の実施を検討してみてください。
ICT施工を活用する
建設事業者が採算性を向上させる際に実施できる経営改善方法としては、ICT施工の活用が挙げられます。ICT施工を活用することで、外注を利用しなくても人材不足や工期の短縮を図ることが可能です。
国土交通省では、建設現場における生産性の向上や経営環境の改善を目指して、i-Construction という取り組みを行っています。i-Constructionは、建設業界におけるデジタルトランスフォーメーションの一環として、ICT技術や3次元データの活用などのICT施工を推進するために、規格や施行時期の標準化などを推し進めています。
建設事業者がICT技術を活用することで「測量」「設計」「施工」「検査」にかかる作業時間やコストを軽減できます。IT技術を用いることで、これまで特殊な技能を持っている人でないと行えなかったような工事が誰でも行えるようになる可能性もあります。
ただし、ICT施工を行う場合は業務改善につながる導入の仕方をしなくてはなりません。i-Construction推進のための基準要領では、建設事業者がICT施工を行う際に満たしておくべき基準が策定されており、基準要項を満たすICT技術を導入することで効果的なICT施工を行えるようになるため、ICT施工の導入を検討している建設事業者は参考にしてみてください。
経営指標を利益率に切り替える
建設事業者が採算性を向上させる際に実施できる経営改善方法としては、経営指標を売上高から利益率に切り替えることが挙げられます。経営指標を利益率とすることで、売上高に惑わされずに採算性の向上につながる経営方針を策定できます。
利益率は、売上高に対する利益の割合を示したものです。売上高を重視する傾向にある建設業界では、利益率を経営指標とすることで、売上高はあるのに会社の利益は上がらないといった事態の防止につなげられる可能性があります。
利益率には「粗利率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」などがあります。とくに重視すべき項目は建設事業者の置かれた状況によって異なりますが、自社の会社活動全体の収益性を把握したい場合は、売上高経常利益率を参考にしてみると、会社全体でどれだけの利益が出ているのか調べられます。
なお、利益率を経営指標とする場合は、自社の現状の利益率から目標とする具体的な数値を決定しましょう。目標値を設定する際には「業界や市場の動向」「競合他社の状況」なども考慮する必要があるため、自社で行うことが難しい場合は会計士や税理士などの専門家に自社の利益率の調査や目標値の設定を依頼することも検討してみてください。
資金繰り表を作成する
建設事業者が採算性を向上させる際に実施できる経営改善方法としては、資金繰り表の作成が挙げられます。資金繰り表を作成することで、資金の流れの見える化が行え、資金の状態によって適切な経営判断を行えるようになるからです。
資金繰り表には決まったフォーマットは存在しません。MicrosoftのExcelやGoogleのスプレットシートなどを使用して作成すれば、設定した計算式をもとに毎月の入金や出金の金額を自動計算してもらうことも可能です。
一方で、資金繰り表に記入する数値に関しては「月次試算表」「現金出納帳」「預金出納帳」といった帳簿に記載されている数値を基にします。これらの帳簿に記載されている金額が不正確な場合は、資金繰り表の数値も会社の実態を反映したものにはなりません。
なお、資金繰り表のひな型は日本政策金融公庫の公式サイトでもダウンロードできます。ゼロから資金繰り表を作るのが難しい人は、ひな形の利用を検討してみてください。
建設業の経営改善の参考にできる資料もある
建設事業者が採算性の向上を検討している際は、経営改善の方向性を決めるために参考にできる資料もいくつかあります。経営改善を検討している建設事業者は、それぞれの項目を参考にしてみてください。
【建設事業者が参考にできる資料】
- 建設業の経営分析
- 工期に関する基準
- 土木工事における設計変更ガイドライン
これらはあくまで一例ですが、建設事業者が経営改善を行うにあたって参考にできる資料です。自社の経営改善を検討している建設事業者は、それぞれの項目を押さえておきましょう。
建設業の経営分析
建設事業者が、採算性を向上させるための経営改善に当たって参考にできる資料には「建設業の経営分析」があります。建設業の経営分析を参考にすると、建設業の収益性や財務体質の傾向を把握するのに役立ちます。
建設業の経営分析は、一般財団法人建設業情報管理センター(CIIC)が発行しているものです。「総資本経常利益率」「自己資本経常利益率」「総資本売上総利益率」「売上高経常利益率」「売上高営業利益率」「売上高総利益率」といった利益率に関する6つの指標が掲載されています。
建設業の経営分析では、6つの利益率の指標を基に、他社の平均的な利益率と自社の上げている利益率を比較できます。建設業の経営環境や市場動向なども反映されているため、建設事業者の経営判断の一助となります。
なお、CIICの建設業の経営分析は毎年ごとに公表されています。建設業界の経営状況の最新の情報や動向を把握するためには、定期的に確認するようにしましょう。
工期に関する基準
建設事業者が、採算性を向上させるための経営改善に当たって参考にできる資料には「工期に関する基準」があります。建設工事時に工期を適切に管理し、工事の効率化やコスト削減を図り、採算性を向上させる際に役立ちます。
工期に関する基準は、国土交通省が建設工事の工期を適切に設定するための考え方や事柄を示したものです。一例としては、工期の設定に影響を与える可能性がある工事上の制約や契約方式などがまとめられており、工期を決める際に検討すべき要素について把握できます。
また、工事作業で発生する「準備」「施工」「後片付け」の3つの工程別でも、工期に影響する要素がまとめられています。各工程でとくに工期に影響を与える要因を押さえておくことができます。
なお、工期に関する基準には参考事例集があり、実際の他社の取り組みを確認することもできます。工期を適切に設定して、採算性の向上を図りたい建設事業者は国土交通省の「建設・不動産業:工期に関する基準」から工期に関する基準をダウンロードできるため、参考にしてみてください。
土木工事における設計変更ガイドライン
建設事業者が、採算性を向上させるための経営改善に当たって参考に出来る資料には「土木工事における設計変更ガイドライン」があります。このガイドラインでは建設事業において、設計変更の必要性や設計変更を行う際の留意点などがまとめられています。
土木工事における設計変更ガイドラインは、国土交通省関東地方整備局が2019年9月に公表したもので「設計変更の背景」「必要性」「現状」「目的」「発注者・受注者の留意事項」などがまとめられています。建設業では着工前の設計を変更した方が、工事の作業効率の改善やコスト削減につなげられる場合があり、適切な設計変更を行うことで採算性の向上を図れます。
一方で、設計変更を行うには、予め設計変更に伴う手続きの流れやルールを工事の発注者と受注者の間で取り決めておく必要があります。土木工事における設計変更のガイドラインでは、設計変更を行うための取り決めを決める際に、留意しておくべき事項や事前に取り決めておくべき事項がまとめられています。
発注者と受注者の間で設計変更に関わる取り決めがされていない場合、設計変更に伴って延長した工期の費用を請求できないといったトラブルが起こる可能性もあります。建設事業者は、採算性を向上させるためにも土木工事における設計変更ガイドラインを参考に、設計変更に関わる取り決めを行ってみてください。
まとめ
建設業の経営課題として挙げられるのは採算性の低さです。採算性が低下する要因には「過度な売上高重視」「資金の流れが不明瞭」「外注費の負担の増加」などを理由とした、利益率や収益性の低さが挙げられます。
建設事業者が採算性を向上させるために経営改善を行う際は、「ICT施工を活用する」「経営指標を利益率に切り替える」「資金繰り表を作成する」といった施策が可能です。これらの施策を行い、利益率や収益性の改善を行うことが結果的に採算性の改善につながります。
なお、建設事業者が採算性の向上を検討している際は、経営改善の方向性を決める際に参考に出来る資料として「建設業の経営分析」「工期に関する基準」「土木工事における設計変更ガイドライン」などがあります。採算性の向上を目指して経営改善を検討している建設業事業者は、これらの参考資料も活用してみてください。