起業前後に金融機関からまとまったお金を借りる創業融資の審査を受ける際、本人確認書類や通帳などと一緒に提出を求められるのが「創業計画書」です。その時、書き方に悩むのは、「運転資金」の欄をどう書くか、ではないでしょうか。仕入先への支払費用、人件費、広告宣伝費、支払利息などの「運転資金」は、資金事務所や店舗の内装工事代、設備機材の購入費などの設備資金と異なり、非常に見通しにくい費用です。ここでは、創業計画書の運転資金欄の書き方と、その調達金額を決めるポイントをご紹介していきます。
1.創業計画書で「運転資金」が重要な理由
創業時、まとまったお金が必要になります。資金調達のために創業融資を受ける方は少なくないでしょう。金融機関で融資の審査を受ける際は「創業計画書」の提出が求められます。創業の動機、経営者の略歴、取扱う商品やサービス、取引先・取引関係、借入状況、事業の見通しなどを、金融機関指定の創業計画書テンプレートに記載し、まとめることになります。資金調達の際、必要な資金の内訳として、大きく分けて2つの使いみちを聞かれます。「設備資金」か「運転資金」かです。
「設備資金」は、設備に必要な資金のことを指します。設備に含まれるものとして、建物、車、機械設備などの、長期間に渡って利用し、インフラいわゆる事業基盤となる有形固定資産のことを言います。初期投資、イニシャルコストとも呼ばれます。具体的には、事務所や店舗の内装工事代、設備機材の購入費などです。
一方で「運転資金」は、事業を経営するにあたって必要な資金のことを指します。「運転」と言っても機械や自動車等を動かすことではなく、組織や団体を動かすことを指します。「ランニングコスト」とも呼ばれます。事業をスムーズに回すための費用です。具体的には、人件費や仕入れ費用、文房具や印刷用紙代、広告宣伝費、支払利息などです。
設備資金以外の雑費は全て運転資金だと定義する人もいるくらい、追跡しにくい費用です。見積書や領収書などでの裏付けもできないケースもあるため、特に創業時で経営に慣れていない方を一番悩ませるのは、運転資金欄だと言っても過言ではないでしょう。
なお、運転資金と設備資金について詳しく確認されたい方は「会社経営を続けていく上で大切なお金の話~運転資金と設備資金~」もご覧ください。
2.「7.必要な資金と調達方法」欄の運転資金を書くときのポイント
運転資金欄を書くときのポイントは3つです。イメージしやすいよう、日本政策金融公庫の創業計画書のテンプレートを参照ください。この場合、運転資金欄は「7.必要な資金と調達方法」の部分に該当します。
(1)「7.必要な資金と調達方法」欄と「8.事業の見通し」欄の整合性を合わせる
運転資金の場合、別紙での見積書の提出を求められることはありません。ただし、事業計画の記載内容と異なることがないよう、整合性を合わせる必要があります。「8.事業の見通し」の中にある売上原価と経費に記載する事業計画の内容と、「7.必要な運転資金と調達方法」欄の内容が矛盾しないよう記載しましょう。
(2)「7.必要な資金と調達方法」欄の左右の金額を一致させる
「7.必要な資金と調達方法」は、左に必要な資金、右に調達方法を記載するようになっています。これらは完全一致させる必要があります。調達しようとしている金額を大体で決めてから必要な資金を算出してしまうと、左右で一致しなくなることがあるので、注意しましょう。
(3)金融機関によって「必要」と認められない費用は計上しない
例えば、日本政策金融公庫の融資審査では、広告宣伝費や経営者自身への投資に当たるような費用は融資金額が減らされやすいと言われています。
広告宣伝費は、日本政策金融公庫をはじめとする金融機関で「起業の際に必要な資金ではない」と判断されてしまう傾向にあります。必要な場合は、少額にし、目立たないようにその他の経費として扱うとよいでしょう。経営者自身がセミナーへの参加するようなケースは必要と認められない傾向にあります。社員やスタッフの教育費用には減額対象とはされないので、安心してください。高額な役員報酬も必要性がないと判断されるケースが多いようです。
3.運転資金の調達合計金額はこう決める!
運転資金が何ヶ月分必要かは、業界や業種によっても異なりますが、一般的に半年程度は用意すべきだと言われます。なぜなら売上が黒字であっても、運転資金が充分とは限らないからです。例えば、月に100万円の仕入れをして、売上が150万円の事業を経営しているとします。会計上は50万円の黒字ですが、現金払いを徹底しない限り、仕入れの支払い時期と、売上が懐に入ってくる時期が一緒になることはありません。“仕入れの支払いを当月”“売上金の回収を翌月”という事業サイクルの場合、50万円はあったとしても次の仕入れの代金としては資金が足りず、商売が成立しなくなってしまいます。仕入れをして、売り上げて、またその次の仕入れをして、と事業を回していくのに運転資金は多めに必要なのです。このやり繰り、資金繰りは経営の基本となります。
念のため、お金の流れや資金繰りについて確認されたい方は「資金繰り表を作成して経営数字を読み、利益を確保する方法」をあわせてご覧ください。
運転資金の調達合計金額は次のように決めるとよいでしょう。なお、一般的に、融資を受ける場合、融資金額が自己資金の三分の一に該当する程度が通りやすいとされています。
(1)創業計画から必要な設備を洗い出し、見積をとる |
(2)見積の合計額から、設備資金の調達合計金額を確定させる |
(3)月あたりの運転資金を算出する(同じ業界、似た業種の財務諸表など参考に項目を洗い出し、できるだけ客観的なデータを元に算出できることが望ましい。) |
(4)必要な資金の合計額を「設備資金の調達合計金額+月あたりの運転資金×6ヶ月分」で算出し、自己資金がその1/3程度あるかを確認する。また、合計額が融資限度額を超えていないかも確認する。(自己資金が足りない場合、親族からの資金援助を検討する。または創業計画を再検討し、必要な設備の洗い出しに戻る) |
(5)問題なければ、「設備資金の調達合計金額+月あたりの運転資金×3ヶ月分」を計画書に記入する。 |
まとめ
いかがでしたか。創業計画書を作成できたならば、融資の専門家でもある認定支援機関に相談し、アドバイスや客観的な意見をもらうことをおすすめします。
おそらく経営を始めるのは、さほど難しいことではありません。しかし、経営を続けていくのは、かなり難しいことだと言えるでしょう。経営は常に運転資金をどう確保するかを考え続けるようなもの。資金繰りで困ることのないよう、多すぎず少なすぎず、本当に必要な分の調達金額を見極めるようになりましょう。その審美眼こそが、あなたの事業を成功に導きます。
創業計画書の書き方を詳しく知りたい方は「融資を受ける際に提出する創業計画書。その作成方法をチェック!!」をご覧ください。