会社の体力を表す資本金。
対外的な場面で信頼性を図るひとつの指標とされ、資本金が大きいほど大きな企業として扱われます。
一方、損失処理や配当、節税を目的として、登記した資本金額を減少させる「減資」が行われることも少なくありません。
この記事では、減資の基本を押さえつつ、減資の下限、資本金額を減少させるべきケース、減資の流れ・手続きについてご紹介します。
1.登記した資本金額を減少させる「減資」とは?
登記をした会社は、登記簿や貸借対照表に資本金の額が記載されています。
この資本金の金額を減少させることを「減資」(げんし)と呼びます。
減資は、資本剰余金を利益剰余金に組み替えての損失処理を行うケースや、多額の欠損金があって配当を行うケース、企業規模を縮小させて節税するケースなどで行われます。
2.資本金額はいくらまで減少させていい?減資の下限
法律上は、資本金の金額は0円まで減少させることができます。
実際には資本金は会社の信頼性に関わるため、よほど特殊な事情がない限り、0円まで資本金を減少させるケースはないと言っていいでしょう。
0円を下回るようにはできないため、減資が有効になった時の資本金の金額分しか減少させることはできません。
つまり、資本金の増加と減少を繰り返す会社が、減資の決議時点での資本金が500万円でも、減資が有効になった時の資本金の額が1,000万円でさえあれば、資本金を1,000万円まで減少させる決議を出すことが可能です。
資本金は、会社の体力のようなものです。社外の関係会社との取引や、金融機関の融資にチェックされるものであるため、減資をするにしても、きちんと実態にあった資本金額であることが望ましいでしょう。
一般的に、資本金の最適な金額の目安は、3ヶ月〜半年分の運転資金の金額と言われています。目安を下回るほどに資本金を減少させるのはおすすめしません。
また、許可や認可が必要な業界や業種の中には、法律で最低限必要な資本金の金額が決まっていることがあります。むやみに減資をすると、許可や認可がおりなくなり、事業そのものが継続できなくなるため、注意が必要です。
3.資本金額を減少すべきケースって?
資本金額を減少すべきケースと言えるのは、簡単に言えば「資本金が大きいままでいると受けるデメリットが、資本金を減少させることで解消できる」ケースです。
主に次の3つのケースが考えられます。
- 損失処理をするのに資本剰余金を利益剰余金に組み替えたいケース(欠損填補)
- 多額の欠損金がある会社が、資本金を分配可能額にすることで配当を行いたいケース
- 企業が規模を縮小させることで節税したい
例えば、資本金が1,000万円以下の企業であれば、事業取引にかかる消費税は免税されます。他にも資本金の金額によって算出される税金は、その分、減額されます。
資本金を減少させる手続きにも人的・金銭的なコストがかかるため、幸いなことに「資本金の目安と言われる運転資金が少なくなったから、登記の資本金の額もすぐにも反映させる」といったビジネス上の慣習はありません。
減資でメリットがある場合のみ、資本金を減少させる手続きを行えばよいのです。
4.減資の流れと必要な手続き
減資に必要な期間やスケジュール
減資に必要な期間は、公告のタイミングや方法によっても変わりますが、最短でも1ヶ月半はかかると思ってよいでしょう。
具体的なスケジュールは次のようなイメージです。
時間目安 |
必要な手続き |
起点 | 取締役会で、減少する資本金の金額と有効日、株主総会の招集決定に関して決議する。 官報へ公告の申込みを行う。 |
翌日 | 株主総会の招集通知をする。 |
約15日後 | 減資に関して債権者へ通知する(債権者保護手続き)
官報に公告が掲載される。 |
約40日後 | 株主総会で減資に関する特別決議をする。 |
約45日後 | 債権者保護手続きから一月経過で期間満了する。 |
約46日後 | 減資が有効になる。
登記申請する(株主総会の決議から2週間以内に実行) |
債権者への通知と官報の公告が同時期になるように手配し、できるだけ早く減資を行う例です。
資本金の金額を減少させるには、株主総会の決議で次の2点を取り決める必要があります。
(減少する資本金を準備金にするなら、準備金にするか否かとその金額)
|
資本金を減少すると取締役会が決議した後、減資に関する内容を官報で公告する義務があります。官報の公告の申し込みから掲載までは2週間程度を見ておく必要があります。
また、会社が把握している債権者には個別に通知(会社法第449条に定める債権者保護手続き)する義務もあります。
減資が有効になる日までに債権者保護手続きを終えていないと、減資の効力は生じませんので、注意が必要です。その場合、別途、有効になる日を変更する取締役会の決議を行う必要があります。
複雑に制約が絡むため、株主総会の決議の後に、債権者への通知と官報の公告を行おうとすると、登記申請がスムーズに行えない点にご注意ください。
なお、予め取締役会で、公告の変更の決議をしていれば、官報の公告に加えて、日刊新聞紙での公告またはウェブサイトでの公告(電子公告)をした場合は、それが債権者保護手続きとして認められ、債権者への個別の通知は免除されます。
減資登記に必要な書類
資本金の減少の登記手続きに用意するものは次の通りです。
- 会社謄本
- 定款
- 代表者の身分証明書
提出する申請書に関しては次をご確認ください。書類を準備して法務局へ提出します。決議から原則2週間以内に登記を完了させます。
商業・法人登記の申請書様式(法務省のウェブサイト)
「株式会社変更登記申請書(資本金の額の減少)」を記入します。
また、登記手続き以外にも、株主総会の招集通知、官報の公告の申込、債権者保護手続きなどの文書作成が求められます。
減資登記にかかる費用
資本金の減少の登記手続きにかかる費用は次の通りです。
登録免許税:3万円
登記事項証明書:480円(1通あたり) |
専門家に依頼する場合は別途、委託費用がかかります。
また、登記手続き以外にも、株主総会の招集通知、官報の公告の申込、債権者保護手続きのための費用がかかります。
まとめ
会社の体力を表す資本金は対外的な場面で信頼性を図るひとつの指標で、資本金が大きいほど大企業として評価されます。
その一方で、登記した資本金額を減少させる「減資」を行うことで、損失処理や配当、節税などのメリットもあります。
資本金を減少させる登記自体はそこまで大変ではありませんが、それまでに至るまでの取締役会の決議から株主総会の特別決議、官報の公告に債権者保護手続きなどは、経験のない方がスムーズに手配するのはまず難しいと言えるでしょう。
初めての減資や、短期間に行う必要のある減資については、専門家に相談して行う方が間違いないと言えるでしょう。