デイサービスとして介護事業を経営している人の中には、経営課題を感じている人もいますよね。デイサービス経営を安定化させるために、経営改善を検討している人いるでしょう。
デイサービスの廃業率は増加傾向にあるため、デイサービス経営で抱えている課題を解決することが事業を安定して継続させていくことにつながります。デイサービスで廃業に陥りやすくなってしまう要因はいくつかあり、要因に合わせて経営改善方法を検討していかなければいけません。
当記事では、デイサービスの廃業率と廃業に陥りやすい経営課題を解説します。デイサービス事業者が経営改善のために施策可能な経営改善方法も紹介しているため、自社の経営改善に取り組みたいデイサービス事業者は参考にしてみてください。
デイサービスの廃業率は増加傾向にある
デイサービスの廃業率は増加傾向にあります。デイサービスが倒産してしまうと、職員だけではなく利用者やその家族の生活にも影響が及んでしまうため、経営改善に取り組もうと検討しているデイサービス事業者は、デイサービスの廃業率を知り、デイサービス業界が置かれた状況を押さえておきましょう。
デイサービスの廃業率は、厚生労働省が実施した「令和2年介護事業経営実態調査結果の概要」で確認できます。デイサービスに関しては、廃業した施設・事業所数は1,057件で、前年度比で0.7%増加しているとされています。
デイサービス事業者がデイサービ業界の廃業率を把握することは、自社の経営状況を客観的に分析するための助けになります。経営改善を検討しているデイサービス事業者は、令和2年介護事業経営実態調査結果の概要のような全国の介護事業者の経営状況をまとめた資料を参考に、自社の経営状況を見直してみましょう。
経営悪化によって法令違反状態に陥ってしまう可能性がある
デイサービスの経営が悪化してしまうと、サービス提供環境において法令違反状態に陥ってしまう可能性があります。経営状態が悪化すると、運営基準のように法令で定められている基準を満たせなくなってしまうおそれがあるからです。
たとえば、デイサービスを含む通所介護事業の運営基準には人員に関する基準があり、介護保険施行規則によって施設の利用者人数ごとに配置すべき「管理者」「生活相談員」「看護職員」「介護職員」「機能訓練相談員」の人数が定められています。デイサービス事業の経営状態が悪化すると人員確保が困難になり、人員基準を見させなくなってしまう場合があります。
また、利用者の安全確保と健康管理の基準にも違反してしまう可能性があります。デイサービス事業の収益が低下すると、利用者の安全を確保するための防犯システムや健康管理のための入浴設備の品質の低下につながる要因となります。
なお、これらの運営基準はあくまで一例です。デイサービス事業の経営が悪化した影響で法令を満たせなくなってしまう可能性がある運営基準はほかにも存在するため、運営基準の維持も難しくなりつつあるデイサービス事業者は、経営の改善を検討してみてください。
廃業に陥りやすい要因に該当しないか確認する
デイサービス事業者が経営改善を行うときは、デイサービス事業で廃業に陥りやすい要因に自社が該当していないか確認しましょう。廃業につながりやすい要因を押さえておくことで、経営改善の方向性を決めやすくなります。
【デイサービスで廃業に陥りやすい要因】
- 職員の離職による人手不足
- 介護報酬改定による基本報酬への影響
- 競合他社との差別化が図れていない
これらはデイサービス事業を運営していく中で廃業に陥りやすい要因の一例として挙げられます。自社の経営改善を検討しているデイサービス事業者は、それぞれの項目を参考にしてみてください。
職員の離職による人手不足
デイサービス事業者が廃業に陥りやすい要因として挙げられるのは、職員の離職による人手不足です。人手不足に陥ると施設利用者数の制限や提供するサービスの質の低下などにつながり、デイサービス事業の収益を低下させる可能性があります。
デイサービスを含める介護職の離職率は、令和3年度介護労働実態調査結果によると平成19年の21.6%を境に減少傾向に転じていて、令和3年度は14.3%となっています。一方で、人手不足を感じているデイサービス事業者は63%に上っており、依然として人手不足の課題は解消されていません。
デイサービス事業で人手不足に陥る要因の1つとしては、労働環境が挙げられます。デイサービス事業における労働環境の課題は、業務上における体力的・精神的負担や業務の負担に対する待遇への不満、職場での人間関係の悪化など考えられます。
なお、デイサービス事業で人手不足に陥る要因は事業所によって異なる場合があります。ときには、複数の問題が複合的に絡み合って人手不足に陥ってしまっている可能性もあるため、人手不足に悩んでいるデイサービス事業者は労働環境を見直してみましょう。
介護報酬改定による基本報酬への影響
デイサービス事業者が廃業に陥りやすい要因として挙げられるのは、介護報酬改定による基本報酬への影響です。介護報酬の改定が行われると、デイサービス事業における基本報酬が減額される可能性があり、デイサービス事業の収益が低下してしまうおそれがあります。
介護保険から支払われる介護報酬は原則3年ごとに改定されており、次回は2024年に介護報酬改定が予定されています。2024年度の介護報酬改定において、どのような改定が行われるのか詳細は公開されていませんが、財務省の財政制度等審議会では、社会保障費の削減として介護報酬の削減も提言されているため、介護報酬が減少する可能性があります。
デイサービス事業における収入源は介護報酬と保険外サービスに分けられます。デイサービス施設によっても異なりますが、介護報酬はデイサービス事業の収益の大部分を占めている傾向にあるため、介護報酬改定によって介護報酬が減少するとデイサービス事業の収益が低下してしまいます。
デイサービス事業で介護報酬改定の影響を受けないためには、保険外サービスの提供に力を入れてみましょう。お泊りデイやレクリエーションサービスの充実など、保険外サービスを充実させると行政の施策に収益を左右されにくい経営体制を整えやすくなるので、参考にしてみてください。
競合他社との差別化が図れていない
デイサービス事業者が廃業に陥りやすい要因として挙げられるのは、競合他社との差別化が図れていないことです。競合他社との差別化が図れていないと、利用者の集客で他施設との競争が困難になるからです。
日本社会の高齢化によるデイサービスの需要の増加に伴い、デイサービス事業所は増加傾向にあります。厚生労働省の「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況」では、デイサービスの事業所数は前年比で1.9%増加しているという数値もあります。
一方で、デイサービス事業は介護保険制度で定められている枠組みの中で経営を行わなければいけません。とくに、価格については介護報酬で定められているサービス単価と利用時間によって決まるため、自由に価格調整を行えず他施設と価格面で差別化を図るのは難しいです。
デイサービス事業で競合他社との差別化するには、提供するサービスの幅と質を向上させましょう。より、専門的なケアサービスを提供したり、地域資源を活用したりすることで、自社の強みの創出につながる可能性もあるため、競合他社との差別化を検討しているデイサービス事業者は参考にしてみてください。
経営改善は実施可能な施策から始める
デイサービスの経営を改善するときの方法はいくつかあります。自社の経営改善を検討しているデイサービス事業者は、自施設の経営状況をもとに実施可能な経営改善施策を確認してみましょう。
【デイサービス事業で挙げられる経営改善施策】
- ICT化で業務の効率化を図る
- 職員の評価制度の改定する
- 提供サービスの専門性の向上する
- 地域資源を活用する
これらはデイサービス事業で実施可能な経営改善施策の一例です。自施設の経営状況によってはすぐに実施するのが難しい施策もあるため、経営改善を検討しているデイサービス事業者はそれぞれの項目の中から、自施設で実施可能な施策を検討してみてください。
ICT化で業務の効率化を図る
デイサービス事業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは、ICT化で業務の効率化を図ることです。ICT化を行うことで、紙媒体での書類作成の撤廃や労働時間の短縮化などの労働環境の改善につなげられます。
ICT化はパソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を使用して、アナログ作業の効率化を図ることを指します。介護記録やシフト管理などの事務作業をデジタル化すれば、手書きや紙媒体の管理の必要性がなくなり、業務時間の効率化が図れます。
また、デイサービスでは利用者を自宅へ送迎することも主な業務ですが、スマートフォンやタブレットを使用すれば、訪問先からリアルタイムで記録や報告が行えるため、業務上の情報共有やコミュニケーションが円滑になります。健康管理システムを導入していれば、利用者の体調の見える化でき、ほかの職員や利用者の家族に健康報告などもしやすくなります。
ただし、デイサービス事業でICT化を進めるには、職員の教育も必要です。ICT化を行う際は、職員がこれまで触れてこなかったシステムや機材に対する理解度を深めるために、操作研修や活用方法の教育を行うようにしましょう。
職員の評価制度の改定
デイサービス事業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは、職員の評価制度の改定です。職員の特徴や要望を理解し、適材適所の配置や評価制度を設けることで、職員の業務に対するモチベーションの向上につながります。
デイサービス事業で職員が離職してしまう要因の1つには、人間関係の悪化が挙げられます。苦手な人と業務上でペアを組まされ続けたり、勤務時間が被り続けたりすると、ストレスとなって離職に至ってしまう場合があります。
また、業務に対して適切な評価を受けられていないと職員が感じてしまうことも、離職してしまう要因の1つです。従業員の能力や業績を定期的に測定し、評価基準や評価結果を共有するというような、職員が納得感を得られる評価制度が必要です。
なお、評価制度は管理者からの一方通行ではなく、職員からの要望も取り入れるようにしましょう。評価制度の結果と職員からの要望を取り入れて、業務内容や業務上の配置を調整することで、職員のモチベーションの向上が期待できるため、職員の評価制度の改定を検討しているデイサービス事業者は参考にしてみてください。
提供サービスの専門性の向上
デイサービス事業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは、提供サービスの専門性の向上です。施設の利用者に対して、専門的なサービスを提供することは自施設の強みとなり、介護報酬の改定による収益の悪化の防止につながる可能性があります。
国は、デイサービスを含めた通所介護の生き残り戦略として、自立支援や重度化予防、認知症・中重度者の在宅生活継続といった方向性を示しています。機能訓練や認知症ケアといった専門的なサービスの提供を充実させることで、利用者の継続的な利用を期待できます。
また、デイサービス事業で専門的なサービスを提供すると、介護報酬において加算を得られます。「個別機能訓練加算」「生活機能向上連携加算」「入浴介助加算」「口腔機能向上加算」「ADL維持等加算」「科学的介護推進体制加算」などによって加算の点数は異なりますが、専門的なサービスを提供することで、介護報酬の改定による収益の低下を軽減できる場合があります。
ただし、専門的なサービスを提供するためには、専門の資格を有した職員を雇用しなければならないものもあります。提供したいサービスを実施するために必要な資格を有している職員が施設に居ない場合は、新たな職員の雇用も検討してみてください。
地域資源を活用する
デイサービス事業の経営改善の方法の1つとして挙げられるのは、地域資源を活用することです。自施設で提供するサービスのなかに地域資源を盛り込むことで独自色を出し、他施設との差別化につなげられる場合があります。
デイサービス事業における地域資源は、行政や自治体が提供しているフォーマルサービスと家族や近隣住民、ボランティアなどが行うインフォーマルサービスがあります。具体的には、地域包括支援センターやソーシャルワーカー、地域ボランティア団体などが地域資源として挙げられます。
地域資源の活用の例としては、地域のボランティア団体や地域包括支援センター、ソーシャルワーカーなどと最新の業務情報を共有したり、業務協力体制を組んだりといったことが挙げられます。地域資源を活用することで、自施設だけでは行えないサービスの提供が可能になり、競合他社との差別化につなげられる可能性があります。
なお、デイサービス事業で地域資源を活用するには、フォーマルサービスとインフォーマルサービスを適切に組み合わせることが必要です。経営改善時に地域資源の活用を検討しているデイサービス事業者は、自施設でどのようなサービスを提供したいかを明確にしてから、連携する先を検討してみてください。
デイサービスの経営改善で利用できる行政支援
デイサービス事業者が経営改善を行うときは、国や地方自治体が行っている行政支援を利用できます。自施設の経営改善を検討しているデイサービス事業者は、それぞれの項目を参考にしてみてください。
【経営改善で利用できる行政支援】
- 介護事業経営実態調査による先行事例の公開
- 厚生労働省による生産性向上の支援
- 地域包括ケアシステムの取り組み事例の公開
これらはあくまで一例ですが、デイサービス事業者が自施設の経営改善のために利用できる行政支援です。自施設の経営改善を検討しているデイサービス事業者は、それぞれの項目を押さえておきましょう。
介護事業経営実態調査による先行事例の公開
デイサービス事業者が経営改善で利用できる行政支援には、介護事業経営実態調査による先行事例の公開があります。介護事業経営実態調査にまとめられている先行事例を参考にすることで、自施設の経営改善の方向性を決めやすくなる場合があります。
介護事業経営実態調査は厚生労働省が毎年実施している調査です。この調査では、介護事業所の経営状況や収支状況、人材確保や離職率などについて、全国の介護サービス提供事業所を対象に集計し、分析を行っています。
介護事業経営実態調査では、介護事業所の経営状況や課題とそれに伴う改善策の事例が公開されています。先行事例を参考にすることで、自施設の経営改善に活かすこともできます。
なお、介護事業経営実態調査は2023年6月時点で、令和4年度の調査結果まで公開されています。介護事業所が行っている経営改善方法が知りたいデイサービス事業者は、介護事業経営実態調査を参考にしてみてください。
厚生労働省による生産性向上の支援
デイサービス事業者が経営改善で利用できる行政支援には、厚生労働省による生産性向上の支援があります。ICT化を目指すデイサービス事業者が参考にできるツールやガイドラインが公開されています。
厚生労働省では、介護分野における生産性向上のために、デイサービス事業者がICT化を進めるために活用できる「業務時間見える化ツール」「課題把握ツール」「効果測定ツール」などのツールが紹介されています。これらのICT化を進めた結果によるデイサービス事業者の業務改善の実例も公開されています。
また、デイサービス事業者がICT化を進める際のガイドラインやマニュアルなども併せて公開されています。厚生労働省の公式サイトでは現在、平成30年度に実施した生産性向上のモデル事業の動画が閲覧可能です。
なお、ガイドラインではICT化以外にも、ロボットや先進技術を用いた業務効率化の実例も紹介されています。職場環境の整備や情報共有の工夫など、ICT化以外の施策についても紹介されているため、デイサービス事業者は一読してみてください。
地域包括ケアシステムの取り組み事例の公開
デイサービス事業者が経営改善で利用できる行政支援には、地域包括ケアシステムの取り組み事例の公開があります。厚生労働省は、高齢者の自立した生活を維持するために必要な取り組みやモデル事例を公開しており、地域資源を活用したいデイサービス事業者は参考にできます。
デイサービス経営における地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるように「医療」「介護」「予防」「住まい」「生活支援」が一体的に提供される体制のことです。
厚生労働省では地域包括ケアシステム構築に向けた取組事例集やモデル例、在宅医療連携拠点事業や在宅医療の推進に関する方針や情報が提供されています。これらはデイサービス事業者が地域資源を活用して経営改善を行う際にも活用できます。
なお、地域包括ケアシステムは地域の特色に合わせて、実施される施策が異なる場合があります。地域資源を活用したいデイサービス事業者は、厚生労働省の「地域包括ケアシステムの構築に関する事例集」で全国の事例を検索することもできるので参考にしてみてください。
まとめ
デイサービス事業の廃業率は増加傾向にあります。デイサービス事業で廃業に陥ってしまう要因としては職員の人手不足や介護報酬の改定に伴った収益の低下、業界として競合他社との差別化が行いにくいといった点が挙げられます。
デイサービス事業で、廃業に陥らないために検討すべき経営改善方法はいくつかあります。業務効率化のためにICT化を図ったり、職員のモチベーションの向上につながる評価制度に改定したり、あるいは専門的なサービスの提供や地域資源を活用するなどです。
なお、厚生労働省では、実際に経営改善を行ったデイサービス事業者の先行事例やモデル事例を公開しています。これから自施設の経営改善を検討しているデイサービス事業者は、他施設で行われた経営改善のための取り組みを調べることができるので、参考にしてみてください。