歯科医師として、歯科クリニックを経営している人の中には、経営の改善を検討している人もいますよね。その際、経営改善に当たって改善するべき経営課題を把握できていない人もいるでしょう。
歯科クリニックの経営課題としては、競合医療機関が増加していることが挙げられます。競合する歯科クリニックが増加すると、集患力の低下やスタッフの人手不足といった経営上の問題が引き起こされる要因となってしまいます。
当記事では、歯科クリニックの経営課題を解説します。歯科医師が行える経営改善方法も紹介しているため、自院の経営改善を検討している歯科医師は参考にしてみてください。
歯科クリニックの経営課題は競合医療機関が増加していること
歯科クリニックの経営課題として挙げられるのは、競合医療機関が増加していることです。競合医療機関が増加していることで、歯科クリニックは集患力やスタッフの雇用が難しくなっています。
厚生労働省の「医療施設調査」によると、2022年2月末時点での歯科診療所の施設数は約6万8,000件とされています。「コンビニエンスストア統計調査月報」によると2022年3月末時点でのコンビニ店舗数は約5万7,000件とされており、歯科クリニックの施設数はコンビニを超えています。
歯科クリニックの増加は、集患力やスタッフの雇用を難しくする要因となります。集患力の低下やスタッフの人手不足は、歯科クリニック経営の収益力が低下したり、歯科診療の質が悪化したりといった問題を引き起こしてしまうおそれがあります。
歯科クリニックの経営を改善するには、競合医療機関が増加に対応する施策を打つ必要があります。歯科クリニックの経営改善を検討している歯科医師は、競合医療機関が増加することで引き起こされる経営悪化の要因を押さえておきましょう。
集患力が低下する
競合医療機関が増加することによって、歯科クリニックで起こる経営課題は集患力が低下することです。集患力が低下することで、収益力の低下や経営の安定性の悪化につながりやすくなってしまいます。
現在、歯科クリニック数が増加している中で、日本国内の人口は近年の少子高齢化によって減少傾向にあります。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば2045年時点で約16%、2065年時点で約30%の人口減少が見込まれています。
歯科クリニックの来患者数は人口動態の影響を受けやすいため、人口の減少によって歯科クリニックの来患者数も減少する可能性があります。今後さらに歯科クリニックの施設数が増加していくと、人口に対して歯科クリニックが供給過多となるおそれもあります。
人口に対して歯科クリニックが増えすぎてしまうと、歯科クリニック同士での患者の取り合いが現在よりも激しくなることが予想されます。そのため、自院の経営改善を検討している歯科医師は、集患力を向上させる施策を行うことで経営の安定性を改善することを検討してみてください。
スタッフの人手不足に陥りやすくなる
競合医療機関が増加することによって、歯科クリニックで起こる経営課題はスタッフの人手不足に陥りやすくなってしまうことです。競合医療機関とスタッフの取り合いになったり、集患力の向上を行う施策の結果として労働環境が悪化してしまったりする場合があるからです。
歯科クリニックの業務の中には、歯科医師のほかに歯科衛生士や歯科技工士のような国家資格がなければ従事できない業務があります。これらの資格を有している人は、歯科クリニックの施設数に対して人数が少ないため、国家資格を持っているスタッフが競合医療機関と取り合いになって雇用がしにくくなってしまいます。
また、競合医療機関の増加は国家資格を有していないスタッフの雇用も難しくなる場合があります。集患力を向上させるために、土日診療や診療時間を延ばすといった施策をスタッフの人数が不足している状態で行うと、労働環境が過酷化してしまい就職者の低下を引き起こしてしまうおそれもあります。
歯科クリニックの人手不足は、歯科診療の質の低下をもたらす可能性があります。歯科診療の質の低下は歯科クリニックの評判にも影響を与え、集患力の低下にもつながるため、歯科クリニックの経営改善を検討している歯科医師は、スタッフの人手不足の解消を検討してみてください。
歯科クリニックの経営を改善する方法
歯科クリニックの経営を改善するには、いくつかの方法があります。自院の経営改善を検討している歯科医師はそれぞれの方法を確認しておきましょう。
【歯科クリニックの経営改善方法】
- 診療メニューを見直す
- 公式サイトを作成する
- 診察のDX化を行う
- 歯科衛生士学校と連携する
これらの方法はあくまで一例ですが、歯科医師が歯科クリニックの経営改善を図る際に参考にできます。なかにはすぐに効果が出なかったり、自院だけでは取り組めなかったりする経営改善方法もあるため、経営改善を検討している歯科医師は自院に合った方法を押さえておきましょう。
診療メニューを見直す
歯科クリニックが競合医療機関の増加に対して行える経営改善方法には、診療メニューの見直しが挙げられます。より地域の特性に合った診療を行うことで、地域住民の集患率の向上を図れます。
診療メニューの見直しを行う際は、診療圏調査を行いましょう。診療圏調査を行うと、診療圏内の患者のニーズや傾向を把握して、より地域の患者の需要にあった診療内容を検討できます。
診療圏調査には、定性調査と定量調査の2種類があります。定性調査は競合の病院や周辺の状況を現地に足を運んで調査する方法で、定量調査は様々なデータから機械的に推計患者数や医療ニーズを算出できます。
診療圏調査は調査に手間や時間がかかりますが、クリニックのある場所の患者数やニーズに適した診療メニューを設けられるようになります。診療圏調査は専門の業者に依頼することもできるため、診療メニューの見直しを行いたい歯科医師は診療圏調査の実施を検討してみてください。
公式サイトを作成する
歯科クリニックが競合医療機関の増加に対して行える経営改善方法には、公式サイトの作成が挙げられます。自院の専門分野や特色がわかりやすい公式サイトを作ることで、集患力の向上につなげられます。
公式サイトは、初診の患者が歯科クリニックを選ぶ際の基準の1つです。公式サイトで医院長の情報や得意とする治療内容などを公開しておくことで、患者の来院意欲を向上させて集患力を改善させられます。
また、公式サイト内で診療予約や問い合わせを行えるようにすることも可能です。電話予約を行う必要がなくなるため、電話対応に割かれるスタッフの受付業務の負担の軽減し、人手不足の改善につなげることもできます。
ただし、効果的に集患力を向上させる公式サイトを作るには、サイト設計や配色のバランス、ユーザー導線などを考慮する必要があります。自身で効果的な公式サイトを作成するのが難しい場合は、webページの制作を行う専門業者に依頼することも検討してみてください。
診察のDX化を行う
歯科クリニックが競合医療機関の増加に対して行える経営改善方法には、診察のDX化を行うことが挙げられます。DX化を行うことで、受診患者の満足度を向上させて再診率の改善を行えるようになります。
たとえば、患者に自身の口腔内の状態を視覚化して見せる技術の活用が挙げられます。口腔内の形状や色彩を3Dでデジタル化することで、患者に自分の口腔内の状態や治療シミュレーションを想像しやすくし、治療方針について相互にコミュニケーションを取りやすくすることができます。
また、患者自身の口腔内の将来的なシミュレーションを行う技術もあります。患者さんに自分の口腔内の将来像や歯の健康維持の必要性を知ってもらうことができるため、予防意識や治療、検診のモチベーションの向上を図ることもできます。
診察のDX化を行うことで、歯科医師師と患者の間で治療方針をズレなく共有できるようになります。自身の歯の状態を患者自身も納得感を持って理解できると、受診患者の満足度を向上させやすくなるため、再診率の改善を検討している歯科医師は診察のDX化を検討してみてください。
歯科衛生士学校や歯科医師師会と連携する
歯科クリニックが競合医療機関の増加に対して行える経営改善方法には、歯科衛生士学校や歯科医師師会との連携が挙げられます。歯科衛生士学校や歯科医師会と連携することで、新卒者や転職者のスタッフを雇用する機会を増やすことが可能です。
歯科クリニックで働くスタッフの中には、歯科衛生士や歯科技工士といった国家資格が必要な職種があります。歯科衛生士学校や歯科医師師会と連携することで、国家資格を有する新卒者や転職者の情報を得やすくなり、雇用機会の創出につながります。
歯科衛生士学校や歯科医師師会との連携の一例としては、実習や研修の機会の提供が挙げられます。積極的に実習生や研修生を受け入れることで、優秀な学生と密接な関係を築け、将来的な雇用につなげることができます。
なお、歯科衛生士学校や歯科医師師会との連携する方法は1つではありません。歯科衛生士学校の教育プログラムに参画したり、歯科医師師会のネットワークを活用したりするといった方法もあるため、人手不足を解消したい歯科医師師は自院に合った方法で歯科衛生士学校や歯科医師師会と連携を図ってみてください。
歯科クリニックの経営改善で利用できる公的支援
歯科クリニックの経営を改善するときは、国や地方自治体が提供している公的支援を利用できます。自院の経営改善を検討している歯科医師師は、公的支援も確認しておきましょう。
【歯科クリニックで利用できる支援】
- よろず支援拠点
- 早期経営改善計画策定支援事業
これらは歯科クリニックが経営改善の際に利用できる公的支援の一例です。経営改善を検討している歯科医師師はそれぞれの公的支援で行えることを押さえておきましょう。
よろず支援拠点
歯科クリニックの経営改善で利用できる公的支援には、よろず支援拠点があります。歯科医師が抱えている経営課題について、専門家から分析や助言を受けられます。
よろず支援拠点は「中小企業・小規模事業者」「NPO法人」「一般社団法人」「社会福祉法人」など、経営上のあらゆる相談を無料で受け付けている国の支援制度です。全国に約50の拠点があり、各拠点では経営コーディネーターと呼ばれる専門家に相談が可能です。
よろず支援拠点では、売上拡大や人材確保など様々な経営課題に対して支援が行われています。各拠点が実施した支援事例も公開されているため、歯科クリニックの経営を改善したい歯科医師も先行事例を参考にすることもできます。
なお、よろず支援拠点への相談は電話やメール、FAXなどで相談予約の申し込みが必要です。よろず支援拠点の利用を検討している歯科医師師は「支援拠点一覧」から地域を管轄しているよろず支援拠点を確認しておきましょう。
早期経営改善計画策定支援事業
歯科クリニックの経営改善で利用できる公的支援には、早期経営改善計画策定支援事業があります。国が認定した税理士や公認会計士などの専門家の支援を受けて資金繰り計画やビジネスモデルの策定を行えます。
早期経営改善計画策定支援事業は、中小企業庁が実施している支援事業です。資金繰りや収益力の改善に取り組む中小企業者に対して、税理士や公認会計士などの専門家が経営改善計画の策定を支援し、かかった費用のうち50万円を上限として2/3まで補助してもらうことができます。
早期経営改善計画策定支援事業の補助金を利用できるのは、国から認定経営革新支援機関と認定を受けている専門家である必要があります。認定経営革新支援機関以外の税理士や公認会計士を利用してしまうと、補助の対象外となります。
なお、歯科クリニックが早期経営改善計画策定支援事業を利用する際には、満たしておかなくてはならない要件があります。早期経営改善計画策定支援事業の利用を目指している歯科医師師は、自院が要件を満たしているか中小企業庁の「早期経営改善計画策定支援」で確認してみましょう。
まとめ
歯科クリニックの経営課題として挙げられるのは、競合医療機関が増加していることです。競合医療機関が増えることで、集患力が低下したりスタッフの人手不足が深刻化したりする要因となり、歯科クリニックの収益力の低下や歯科診療の質の低下をもたらしてしまいます。
歯科クリニックの経営を改善する方法の一例としては「診療メニューの見直し」「公式サイトの作成」「診察のDX化」「歯科衛生士学校との連携」などが挙げられます。実施には時間や手間、外部の協力が必要になる場合もあるため、自院で実施できる方法から実施するようにしましょう。
なお、歯科クリニックの経営改善では公的支援を利用することもできます。歯科クリニックの経営改善を検討している歯科医師師は公的支援の利用も検討してみてください。