ファクタリングサービスを取り扱う業者の中には、ファクタリングと偽って貸付や融資にあたる違法契約を行う悪徳業者が存在します。正しいファクタリング契約を行うためには、誰と何について合意を交わすものかを事前に把握しておく必要があります。
当記事では、ファクタリング契約について解説します。契約内容で重点的に確認すべき項目についても紹介しているので、ファクタリングを利用する際の参考にしてみてください。
ファクタリング契約とは
資金調達を目的としたファクタリングは、債権譲渡契約または債権売買契約が執り行われます。契約は、民法の第466条にある債権譲渡に基づいて行われ、契約に関わる当事者間の合意によって成立します。
ファクタリング契約の合意先は契約形態によって異なります。
2社間ファクタリングはファクタリング会社とファクタリング利用会社の2社、3社間ファクタリングの場合は、債権の債務者である売掛先も加えた3社の合意が必要です。
ファクタリングの契約方法は、大きく分けて以下の2通りです。
・対面や郵送による契約
・インターネットを利用したクラウド契約
契約方法によって契約書の媒体や契約時に必要なものが異なるため、それぞれの契約方法についておさえておきましょう。
なお、2社間ファクタリング・3社間ファクタリングについて詳しく知りたい方は、「2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの特徴と違いを解説」
https://support.so-labo.co.jp/articles/article-Inter-company-factoring.html
こちらの記事も併せてご確認ください。
対面や郵送による契約
対面や郵送による契約とは、ファクタリング会社へ直接出向き、担当者と面談を行いながら書類の提出や契約を交わす方法のことです。
一方、郵送によるファクタリング契約の方法は、申込書類や契約書類のやりとりを郵送で行い、非対面で契約を交わすことができる方法のことをいいます。
対面や郵送での契約は紙の契約書が用いられます。
交付された契約書への合意には署名と印鑑の押印が必要となるため、利用者自身の実印と法人の場合は法人印の準備が必要です。また、使用する印鑑の印鑑証明書も求められます。
印鑑証明書は、契約書に押印した印鑑が本人のものであることを証明する書類であるため、利用者の実印のものと、法人の場合は法人印の印鑑証明書を事前に用意しましょう。
インターネットを利用したクラウド契約
インターネットを利用したクラウド契約とは、オンライン上で契約の締結を交わすことができる方法のことです。オンライン上での契約となるため利用申込から資金調達までを完全非対面で行うことが可能となります。
クラウド契約は、電子文書で作成された電子契約書を交わします。電子契約書への合意には、署名と印鑑の押印に代わる電子署名やタイムスタンプが必要です。
電子署名とは、紙の文書における署名と同様の役割を果たす電子的な記録のことです。電子署名によって、電子文書の作成が本人の意思によって行われたことや改ざんのないことを証明することが可能になります。
タイムスタンプとは、電子データに対して時刻情報を付与するために使用する技術のことです。タイムスタンプによって、打刻した時刻にその電子データが存在していたことや、打刻時刻以降に改ざんされていないことを証明することが可能になります。
なお、電子署名やタイムスタンプは、原則として利用者自身が用意する必要はありません。ファクタリング会社が提携している電子契約サービスのものを利用することが多いため、利用方法については契約の締結を行う前に確認を行うようにしましょう。
ファクタリングの契約書の種類
ファクタリング契約では、売掛債権譲渡契約書や売掛債権売買契約書と呼ばれる契約書が交付されます。また、2社間ファクタリングの場合、利用者が売掛金を回収する仕組みとなることから、業務委託契約書が交付されます。
売掛債権譲渡(売買)契約書
売掛債権譲渡(売買)契約書とは、債権譲渡契約の成立を証明する文書のことです。印紙税法第15号文書の債権譲渡に関する契約書に該当し、債権をその同一性を失わせないで旧債権者から新債権者へ移転させる契約を行う際に交付するものです。
売掛債権譲渡(売買)契約書には、以下のような項目が記載されています。
<ファクタリングの契約書 おもな記載内容>
項目 |
項目の概要 |
---|---|
譲渡対象の債権 |
譲渡対象となる売掛債権の詳細が記載されている |
債権譲渡通知の有無 |
契約において債権を譲渡することを売掛先に通知するか否かが記載されている 3社間ファクタリングは、売掛先の合意をもって契約成立となるため、項目の記載がある 2社間ファクタリングの場合は原則として項目が設けられることはない |
債権譲渡登記の有無 |
契約において債権譲渡登記を行うか否かが記載されている 2社間ファクタリングは、回収リスクに備えた対抗要件の具備のため、債権譲渡登記が行われる傾向にある 3社間ファクタリングの場合は、原則として債権譲渡登記が行われることはない |
償還請求権の有無 |
譲渡対象債権の回収不能時に、利用者への弁済請求があるか否かが記載されている |
手数料 |
譲渡対象債権買取への対価として徴収する手数料やその他に発生した諸経費などが記載されている |
契約の解除 |
契約解除に該当する行為の詳細が記載されている |
損害賠償や違約金 |
契約違反や損害賠償の請求に該当する行為の詳細が記載されている |
契約の有効期間 |
継続的な利用の場合における契約期間や契約終了となる条件などが記載されている |
なお、契約書の書式はファクタリング会社によって異なるため、ここに挙げた項目はあくまで参考となります。2社間ファクタリングの契約にもかかわらず債権譲渡通知が行われるような記載がある場合などには、記載されている意図や真意を必ず確認するようにしましょう。
業務委託契約書
業務委託契約書とは、業務委託契約の成立を証明する文書のことです。業務の委託者が特定の業務あるいは全業務を受託者に依頼する際に作成する文書で、双方の合意がされると業務委託契約の締結となります。
2社間ファクタリング契約は業務委託契約も併せて交わします。
2社間ファクタリングで業務委託契約書が必要となる理由は売掛先が契約に関与しないため、利用者が売掛金を回収しファクタリング会社へ送金する必要があるためです。
業務委託契約書には、委託する業務内容や条件などが記載されています。業務委託契約を締結する際には、受託者の責任の範囲やどんな場合に損害賠償金や違約金の請求が行われるかなどを確認するようにしましょう。
契約書で確認すべき項目
ファクタリングの契約書には法的な専門用語を多く使用しています。理解が難しい箇所については目を通す作業が煩雑になりがちですが、十分な確認を怠ってしまうと利用者側が不利になる契約や違法契約を行ってしまう可能性があります。
正しいファクタリング契約を行うためにも、契約書では以下の項目の内容を重点的に確認してみてください。
償還請求権について
ファクタリングは債権譲渡(売買)であるため、原則として償還請求権のない契約を交わします。ファクタリング契約後、倒産や破産等によって売掛先から売掛金の支払いが行われなかったとしても、ファクタリング利用者が弁済をする必要はありません。
しかし、表向きは債権譲渡(売買)契約書であっても、償還請求権のある契約とされている場合があります。貸倒れの発生時は利用者が買戻しを行うことという記載や、利用者に償還請求を行えるなどの記載のことを指します。
償還請求権のある契約を締結してしまうと、万が一の際に不利益を被ることとなってしまいます。ファクタリングの契約書では、償還請求権の有無や買戻しの記載の有無を確認し、不審な記載については説明を求めるようにしましょう。
なお、ファクタリング契約における償還請求権は、利用状況を考慮した上で付与される場合もあります。ただし、付与できるのは貸金業登録をしているファクタリング会社のみであるため、賃金業登録の有無と経緯を確認した上で契約に同意をしましょう。
手数料について
ファクタリングの契約時には、売掛債権を買い取ることへの対価としてファクタリング会社に利用手数料を支払います。ファクタリング事業推進協会によると、ファクタリング契約時の手数料の相場は売掛債権額の2〜15%としています。
手数料は契約時の利用状況が考慮され決定しますが、相場をはるかに上回る手数料が設定された場合には注意が必要です。売掛債権額の30%など高手数料である場合には、実質的に担保を目的とした請求である可能性が高いため、他のファクタリング会社と比較検討の上で契約に応じるようにしましょう。
また、利用手数料に加え、利用状況に応じた手数料が発生します。あくまでも一例ですが、発生する手数料は以下の通りです。
・債権譲渡登記のための登記費用
・審査や契約時に生じた事務手数料
・契約書に貼付する収入印紙の印紙代
・出張を依頼した場合には交通費
万が一に手数料の詳細な内訳がない場合には、内訳の説明を求めるようにしましょう。使途不明金の請求を防ぐことが可能になります。
損害賠償や違約金について
ファクタリング契約において、利用者が利用規約や契約に反した行為を行った場合には、損害賠償や違約金の請求が行われます。ファクタリング会社によって違反となる行為の定めが異なりますが、どのような行為が該当するかを把握するようにしましょう。
違反とする範囲が広く条件が厳しい場合や、損害賠償金や違約金が高額な場合は利用者にとって不利な契約を強いている可能性が高いため注意が必要です。条件をよく考慮し、契約を見送る対応も検討するとよいでしょう。
担保や保証人について
ファクタリングは売掛債権の売買(譲渡)契約であり、売掛債権を担保にして融資を受ける契約ではありません。ファクタリング会社から金銭の借り入れを受けるものではないため、契約時に担保や保証人を設ける必要はありません。
ファクタリング契約であるのに、契約書に担保や保証人の項目が設けられており、担保や保証人を要求するような記載がある場合には違法取引を疑いましょう。ファクタリングと偽って貸付契約を行う闇金融業者の可能性が高いため、安易に契約を行わないように注意してください。
違法なファクタリング取引の特徴については、ファクタリングは違法?違法取引になる場合と安全に利用するためのポイントを解説で紹介しているので、参考にしてみてください。
まとめ
資金調達を目的としたファクタリング契約は、債権譲渡契約または債権売買契約です。契約は2社間あるいは3社間で執り行われ、契約方法に応じて書面か電子による契約書を交わし当事者間の合意が得られれば契約成立となります。
ファクタリング契約では、債権譲渡契約の成立を証明する売掛債権譲渡(売買)契約書が交付されます。加えて、2社間ファクタリングの場合は、利用者が売掛金を回収する業務を受託することから、業務委託契約の成立を証明する業務委託契約書が交付されます。
契約書の書式はファクタリング会社によって異なりますが、記載内容の確認を怠ってしまうと利用者側が不利になる契約や違法契約を行ってしまう可能性があります。正しいファクタリング契約を行うためにも、契約書では償還請求権の有無や手数料の妥当性や透明性、損害賠償の範囲などを重点的に確認すると良いでしょう。