病院を経営している経営者や開業医の人の中には、病院の経営改善を検討している人もいますよね。しかし、なかには経営が悪化してしまっている原因がわからずに経営改善の施策を計画できずにいる人もいるでしょう。
病院の経営が悪化してしまう原因は「内的要因」と「外的要因」に分けることができます。内的要因と外的要因は、経営に与える影響で共通している場合もあり、1つの施策で複数の課題を解決できる場合もあります。
当記事では、病院の経営が悪化する原因と経営を改善するための施策を解説します。病院の経営者や開業医で経営の改善を検討している人は参考にしてみてください。
病院の経営悪化の原因は内的要因と外的要因に分けられる
病院の経営が悪化する原因は内的要因と外的要因に分けられます。病院の経営が悪化する要因は多岐に渡り一概には言えないため、病院が抱えている課題ごとに経営改善の施策を打たなければなりません。
厚生労働省が公開している「令和3年度医療施設動態調査・病院報告の概況」によると、令和2年10月から令和3年9月の病院の開設や再開された件数は64件でしたが、一方で廃止や休止となった件数も97件あり、全体的に減少傾向となっています。加えて、一般診療所では9,775件が開設や再開がされていますが、廃止や休止の件数は8,095件となっています。
病院や一般診療所は開設や再開される件数に対して、廃止や休止される件数も一定数に上っています。廃止や休止に至る原因は医師の高齢化や地域医療体制の変化なども考えられますが、経営状況の悪化も一因として挙げられるため、病院の経営改善を検討している人は経営が悪化する要因を確認しておきましょう。
病院の経営が悪化する内的要因
病院の経営改善を検討するときは、病院内の環境や仕組みに経営を悪化させている要因がないかどうか調査を行ってみましょう。内的要因は外的要因に比べて病院の経営者自身が制御しやすい要素になるため、経営改善を行う際に手を付けやすい傾向にあります。
【病院経営が悪化する内的要因の一例】
項目 | 概要 |
---|---|
人件費率の負担の増加 | 医療スタッフの給与やボーナスなどの負担が増えていたり、雇用人数が収益に見合っていなかったりするため、利益率が低下してしまっている。 |
集患力の低下 | 地域のニーズに応えられるサービスが提供できておらず、初診の集患ができていないことや再診率の低下によって来院患者が減少してしまっている。 |
人件費率の負担が増加する要因として挙げられるのは「1人あたりの人件費が増えている」「職員の雇用人数が増えている」などが挙げられます。人件費率が増えてしまうと、収益を上げられていたとしても利益が減少してしまい、病院経営の圧迫につながりやすくなります。
また、集患力が低下する要因として挙げられるのは「地域のニーズに対応していない」「再診率の低下」などがあげられます。集患力の低下を改善できないと、病院の収益悪化が進み、結果として医療サービスの質の維持が難しくなってしまう可能性があります。
なお、病院の経営が悪化する内的要因は、それぞれで相互的に関係している場合もあります。紹介した病院経営が悪化する内的要因はあくまで一例ですが、内的要因から病院経営を見直すときは、個別に改善策を模索するのではなく、網羅的な改善の必要性も検討してみましょう。
病院の経営が悪化する外的要因
病院の経営改善を検討するときは、病院外の要因によって経営が悪化していないかどうかも調査してみましょう。病院の経営は病院内の問題だけではなく、外部環境によっても悪化する可能性があります。
【病院経営が悪化する外的要因の一例】
項目 | 概要 |
---|---|
医療費抑制による診療報酬の引き下げ | 医療制度改革や診療報酬の引き下げなどで収益が、人件費、医薬品や医療機器の購入・リース費など病院の運営費用を下回ってしまっている。 |
新型コロナウイルスに関するコストの増加 | 感染対策や患者受け入れによってコストが増えていたり、受診控えによる収入減で病院の財政が圧迫されていたりしている。 |
水道光熱費の高騰 | 電気やガスなどのエネルギー価格が上昇していることで、病院の経営費用が増加してしまっている。 |
外的要因によって経営が悪化している場合、病院の努力だけでは根本的な経営改善につなげることが難しい場合があります。とくに「医療費抑制による診療報酬の引き下げ」「新型コロナウイルスに関するコストの増加」「水道光熱費の高騰」などは、病院がコントロールできない要素も含まれています。
一方で、病院側の対策によって外的要因によって悪化する経営状況の軽減を図ることができます。水道光熱費のうち、たとえば電力の節約を考える場合は契約先の電力会社を新電力会社へ変更することで、電力費用を抑えられる可能性があります。
なお、外的要因は予測困難な場合もあります。病院の経営改善において、外的要因に対処する場合は、経営戦略を柔軟に変更できるよう情報共有の円滑化や意思決定プロセスの改善なども含めて検討してみてください。
病院の経営改善で検討すべき施策
病院が経営の改善を行うときは、病院で実施可能な経営改善施策を検討しましょう。経営改善施策の中には、内的要因と外的要因の双方に効果的な施策もあります。
【病院の経営改善で検討すべき施策の一例】
- コストを削減する
- 初診患者の集患力を向上させる
- 再診率を向上させる
- 診療報酬に依存しない収益原を開拓する
病院の経営を改善するときに検討するべき施策の一例として挙げられるのは「コストを削減する」「初診患者の集患力を向上させる」「再診率を向上させる」「診療報酬に依存しない収益原を開拓する」などが挙げられます。これらの施策は内的要因や外的要因が原因となって悪化した経営の改善につながる可能性があるため、病院の経営改善を検討している人は参考にしてみてください。
コストを削減する
病院の経営を改善するときは、コストの削減を検討しましょう。コストの削減を行うことで利益率に変化はなくとも収益を増やせる場合があり、病院の経営を安定化させられる可能性があります。
病院を経営する上で発生するコストは様々ありますが、全日本病院協会が公開している2022年度の病院経営定期調査によると、人件費がコスト全体の49.3%を占めているとされています。そのため、病院の経営改善においてコスト削減を検討する際は、人件費の削減を1つの指針とできます。
一方で、医療スタッフの給与やボーナスなど削減してしまうと、職員のモチベーションの低下につながり、医療提供の質が落ちてしまうおそれがあります。電子カルテやオンライン診療などのITツールを導入して業務の効率化を行うことで、結果として人件費の削減につなげられます。
なお、人件費はあくまで、病院が経営改善のために削減を検討すべきコストの1つに過ぎません。病院経営で発生するコストは人件費のほかに医療材料費や医療設備関係費などもあるため、人件費だけでなくそのほかにかかっている費用も削減できないか考慮するようにしましょう。
初診患者の集患力を向上させる
病院の経営を改善するときは、初診患者の集患力の向上を検討しましょう。初診患者の集患力を向上させることで、病院の収益の増加を見込むことができるため、病院の経営悪化による利益の低下を補える可能性があります。
初診患者の集患力を向上させる方法の1つとして挙げられるのは、病院の公式サイトを開設することです。公式サイトを開設することで、その病院で行える治療や得意としている治療を公開することで、患者に病院を選んでもらうための判断材料を提供しやすくなります。
一方で、すでに公式を開設していて、なおも初診患者の集患力が向上しない場合は、公式サイトをスマートフォンでも閲覧しやすくするレスポンシブ対応やSEO対策などの施策で改善する場合があります。とくに、SEO対策を行うと病院が集患したい悩みを抱えている患者に対して、広く宣伝を行うことも可能です。
なお、公式サイトの開設や改善を自身で行うのは業務の負担や技術的に難しい場合もあります。病院の経営を改善するために公式サイトの開設や改善を行いたい人は、外部へ公式サイトの開設や改善を委託することも検討してみてください。
再診率を向上させる
病院の経営を改善するときは、再診率の向上を検討しましょう。再診率の向上を行うことで収益の向上につながるほか、患者と安定した関係を築け、医療サービスを向上させられる可能性もあります。
再診率を向上させるには、初診時に次回も利用したいという来院意欲を高めてもらわなければなりません。予約システムを導入し待ち時間の短縮を図ったり、治療後のアフターフォローを充実させたりするなどといった施策を打つことで、患者の来院意欲の向上が期待できます。
また、再診率が向上することで、継続的な診察が可能になり提供医療の質の向上も期待できます。提供医療の質が向上すれば、さらに患者に来院意欲を持ってもらい、再診率を伸ばせる好循環を生み出せます。
なお、再診率を向上させるための施策には、初期投資が必要な場合があります。とくに、経営が悪化している病院が予約システムのような設備に初期投資を行って導入するのは難しい場合もありますが、その際は補助金や助成金とった助成制度の利用も検討してみてください。
診療報酬に依存しない収益原を開拓する
病院の経営を改善するときは、診療報酬に依存しない収益源の開拓を検討しましょう。診療報酬に依存しない収益源を得ることで、診療報酬の引き下げによる収益の低下を補うことが可能です。
政府は2022年度の診療報酬改定において、0.94%の診療報酬の引き下げを決定しました。患者の自己負担額である診療費用の原則3割負担は現時点では変動していないため、診療報酬の引き下げは病院の収益の低下につながり、人件費や医薬品・医療材料の購入費、機材設備の維持費などの面で病院経営に影響を及ぼす可能性があります。
診療報酬に依存しない収益源として挙げられるのは「健康診断」「予防接種」「健康コンサルティング」などがあります。これらはあくまで一例ですが、診療報酬の対象外となっている医療サービスの提供を行うことで、診療報酬に依存しない収益源の開拓が可能です。
ただし、医師が診療報酬に依存しない収益源の開拓を行う際は、医師法に準拠する必要があります。医師法で認められていない業務を行うと、3年以下の懲役または100万円以下の罰金、あるいは200万円以下の罰金に処される場合があるため注意してください。
厚生労働省の発信情報も参考にしてみる
病院の経営改善を検討するときは、厚生労働省が発信している情報も参考にしてみましょう。厚生労働省では、全国の中小病院の経営改善の成功例や施策の情報を公開しています。
厚生労働省では「医療法人・医業経営のホームページ」を設けていて、過去の厚生労働省における研究事業等で収集された全国における中小病院の経営改善の成功事例を取りまとめています。記載されている成功例や事例は病院の経営改善策を検討する際の参考に出来ます。
ただし、過去の調査結果であるため、現在の社会的情勢や経済状況を反映したものではありません。調査結果で成果を上げていた施策でも、現在の情勢では成果を出せない場合もあるので、成功している施策をそのまま利用するのではなく、自身の病院が置かれている経営状況や社会的情勢を考慮するようにしましょう。
まとめ
病院の経営が悪化する原因は内的要因と外的要因に分けられます。病院の経営が悪化する要因は多岐に渡り一概には言えないため、病院が抱えている課題ごとに経営改善の施策を打つ必要があります。
病院の経営を改善するための施策としては「コストを削減する」「再診率を向上させる」「診療報酬に依存しない収益原を開拓する」などがあります。内的要因と外的要因の双方に効果的な施策を打つことで、経営の悪化を防ぐことも可能です。
なお、厚生労働省では「医療法人・医業経営のホームページ」で公開されている中小病院の経営改善の成功事例を参考にすることもできます。病院の経営改善を検討している人は参考にしてみて下さい。