飲食店を経営している人の中には、店舗の収益や利益が伸び悩み経営の改善を検討している人もいますよね。その際、自店舗の経営課題がわからずに、経営改善に乗り出せないでいる人もいるでしょう。
飲食店を経営する中で発生する経営課題としては「必要経費の値上げ」「競合店との差別化ができていない」「人手不足」「リピート率の低下」などが挙げられます。飲食店の経営を改善するためには、経営課題に合わせて改善策を検討する必要があります。
当記事では、飲食店の経営課題を解説します。飲食店経営者が経営改善のために実施できる経営改善の手法も紹介しているため、自店舗の経営を改善したい人は参考にしてみてください。
飲食店が押さえておきたい経営課題
飲食店経営者が、自店舗の経営を改善するために押さえておきたい経営課題はいくつかあります。飲食店の経営を改善するときは、飲食店でとくに問題となりやすい要因を押さえておくことで自店舗の経営課題を探る際の手掛かりにできます。
【飲食店経営で挙げられる経営課題】
- 必要経費の値上げによるコスト増加
- 競合店との差別化ができていない
- 人手不足によるサービスの質の低下
- リピート率の低迷による収益の低下
総務省統計局が毎年6月1日に実施している個人企業経済調査によると、飲食店が含まれる「宿泊業、飲食サービス業」の令和4年度の平均売上高は1,693万円だったとされています。令和3年度の平均売上高は1,708万円だったため、前年に比べて0.9%との減少傾向にあります。
「宿泊業、飲食サービス業」は、個人企業経済調査の調査対象となっている産業の中で、2番目に平均売上高が低い産業となっています。そのため、飲食店経営では利益を上げにくい傾向にあり、経営が悪化する可能性があることが予想されます。
飲食店の経営を改善する際は、経営課題に合わせた経営改善計画を立て、その時々の社会情勢や経営状況に応じて、柔軟に経営方針を再設定するといった行動力が必要です。経営改善計画を立てるためにも、自店舗の経営を改善したい飲食店経営者はそれぞれの経営課題を確認しておきましょう。
必要経費の値上げによるコスト増加
飲食店経営者の経営課題の1つとして挙げられるのは、必要経費の値上げによるコストの増加です。必要経費の値上げによってコストが増加すると、店舗の運転資金を蓄えにくくなり、経営難に陥りやすくなる可能性があります。
飲食店経営において必要経費に掛かるコストには「地代・家賃」「食材費」「リース料」「光熱費の固定契約料」などが挙げられます。とくに、食材費や光熱費は原油価格の高騰やウクライナ情勢などの外的要因によって高騰傾向にあります。
一方で、飲食店の経営では値上げをするのが難しい場合もあります。とくに、飲食業界はメニューの値上げによって集客数が低下し、収益が落ち込んでしまうおそれがあります。
必要経費の値上がりに対してメニューの販売価格の値上げが行えないと、挙げられる収益に余裕がなくなり、店舗の運転資金の減少につながります。場合によっては赤字状態に陥る可能性もあるため、メニュー単価の値上げを行いたくない飲食店経営者は、削減できる経費がないかどうか見直してみましょう。
競合店との差別化ができていない
飲食店経営者の経営課題の1つとして挙げられるのは、競合店との差別化ができていないことです。競合店との差別化が図れていないと、集客率やリピート率の低下につながる可能性があります。
競合店との差別化は、自店舗への顧客の興味関心を左右します。競合店との差別化ができていないと、顧客にとってはいくつもある飲食店の中の1つという認識にとどまってしまい、顧客に自店舗への来店を選択してもらいにくくなってしまいます。
また、競合店との差別化は利用客のリピート率にも関係します。自店舗で扱っているメニューや価格帯が他店舗と差別化できていないと、顧客が満足感や希少性を感じられず、次も利用したいという意欲を持ってもらいにくくなってしまう場合もあります。
競合店との差別化をするためには、自店舗と他店舗の特徴を押さえておかなければいけません。競合店との差別化を行いたい飲食店経営者は、自店舗の特徴から整理しなおしてみましょう。
人手不足によるサービスの質の低下
飲食店経営者の経営課題の1つとして挙げられるのは、人手不足によるサービスの質の低下です。人手不足に陥ると料理提供のペースやさばける顧客の人数が低下してしまい、集客の低下や収益の減少につながるおそれがあります。
帝国データバンクが2023年4月に発表したデータによると、非正規社員の業種別では飲食店の人手不足割合は85.2%とされています。帝国データバンクによれば、飲食店の就業者の7割以上がパートやアルバイトといった非正社員であるとされており、飲食店の人手不足が深刻であることが推測できます。
現在の飲食店の人手不足の背景にあると考えられるのは、コロナ過で時短営業や休業を迫られた中で人件費を削減するために、パートやアルバイトを解雇したことが挙げられます。一度解雇したパートやアルバイトが、コロナ前ほど戻っていないことも、人手不足を引き起こしている要因の1つです。
飲食店経営者が自店舗の人手不足を解消するためには、労働者が働きやすい環境を整備する必要があります。人手不足を解消したい飲食店経営者は、労働環境や雇用条件などの見直しを検討してみてください。
飲食店の経営を改善する方法
飲食店経営者が経営を改善するための方法はいくつかあります。飲食店の経営を改善したいと考えている人は、それぞれの経営改善手法を押さえて自店舗で活用できるか検討しましょう。
【飲食店で挙げられる経営改善手法】
- IT技術を活用する
- 雇用条件を見直す
- SWOT分析を活用する
- 変動費を削減する
- リピート頻度の向上を図る
これらは飲食店の経営を改善するための手法の一例です。自店舗の経営改善を検討している飲食店経営者は、それぞれの項目を参考にして自店舗での取り組みに取り入れてみてください。
IT技術を活用する
飲食店経営者が自店舗の経営改善のために利用できる手法には、IT技術を活用することが挙げられます。IT技術を活用することで、従業員の業務の負担の軽減や集客力の向上といった効果を期待できます。
飲食店では、営業前の仕込み作業や営業終了後の片づけ、売上管理といった業務の影響で長時間労働になりやすい傾向があります。POSレジシステムやオンライン発注システムなどを導入すると、「会計」「レジ締めの作業」「仕入れ先への発注や支払い」といった従業員の業務負担の軽減につなげられます。
また、顧客台帳システムのようなIT技術を活用すれば集客力の向上も可能です。顧客の注文履歴をデータとして把握できるため、売れ筋商品の傾向を探れるようになり、顧客のニーズを把握しやすくなります。
ただし、IT技術の導入に当たっては、初期費用やランニングコストがかかります。IT導入補助金を活用することで、IT技術の導入にかかる費用の一部を行政に負担してもらうこともできるため、IT技術の導入を検討している飲食店経営者は参考にしてみてください。
雇用条件を見直す
飲食店経営者が自店舗の経営改善のために利用できる手法には、雇用条件の見直しが挙げられます。雇用条件を見直すことで、従業員の新規雇用を行いやすい環境を整えることが期待できます。
たとえば、雇用条件の見直しの例として挙げられるのは賃金の見直しです。賃金は従業員のモチベーションの向上に影響を与えるため、市場の水準や自店舗の業績に応じて定期的に見直しを行うことで、求人を行いやすくなる場合があります。
また、労働時間や業務量などの見直しも挙げられます。従業員がパートやアルバイトの傾向がある飲食店経営では、特定の時間内での勤務を強制するのではなく、柔軟なシフト制を導入したり、業務効率化を行ったりすることで、従業員の雇用条件の向上につなげやすくなります。
なお、業務効率化に当たっては、ECRSの原則といったフレームワークが活用できます。フレームワークを活用することで、業務効率化の基準を得ることができるため、雇用条件の向上を検討している飲食店経営者は参考にしてみてください。
SWOT分析を活用する
飲食店経営者が自店舗の経営改善のために利用できる手法には、SWOT分析の活用が挙げられます。SWOT分析を活用することで、自店舗や他店舗の特徴を調査できるようになり、競合店との差別化を図れます。
SWOT分析は、自店舗に内在している「強み(Strong)」「弱み(Weakness)」と自店舗外に存在する「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」に分けて、自店舗の経営を分析するフレームワークです。SWOT分析を行うことで、自店舗の特徴や外部環境を整理でき、競合店との差別化を目的とした施策を検討する際の判断材料となります。
飲食店でSWOT分析を利用する場合は「強みは評判のメニュー」「弱みは売れ行きが悪いメニュー」「機会は他店には無いメニューを取り扱っている」「脅威はジャンルとして似たような店が近くにできた」などとなります。それぞれの要素を考慮して、自店舗で注力するメニューやサービスを考えてみると、多店舗との差別化につなげられやすくなります。
なお、SWOT分析は定期的に実施してください。とくに、機会や脅威といった要素は、社会的要因によっても左右されるため、半年や1年などの感覚で自店舗の経営を見直してみましょう。
変動費を削減する
飲食店経営者が自店舗の経営改善のために利用できる手法には、変動費の削減が挙げられます。変動費は、飲食店経営でかかる経費の中で削減がしやすい傾向にあるからです。
飲食店の経費には、売上の増減に関係なく毎回発生する固定費と、売上や販売数などの増減によって変動する変動費があります。変動費には食材費や水道光熱費などが挙げられ、これらは固定費よりも自店舗での経費削減を行いやすい場合があります。
食材にかかる経費を削減する場合に挙げられる例としては、本来の量よりも食材や調味料を使ってしまうオーバーポーションの抑制や廃棄ロスの削減などがあります。水道光熱費の削減に当たっては、電力会社やガス会社との契約の見直しや切り替えなどで経費削減につなげられる可能性があります。
ただし、変動費を抑えるために食材の品質や提供するサービスの質を低下させてしまうと、収益が減少するおそれがあります。変動費の削減を行うときは、顧客の満足度を損なわないように留意しましょう。
リピート頻度の向上を図る
飲食店経営者が自店舗の経営改善のために利用できる手法には、リピート頻度の向上を図ることが挙げられます。顧客のリピート頻度を向上させると、新規顧客を獲得するよりもコストを抑えて集客を行えます。
飲食店の経営改善を検討する際は「1:5の法則」を考慮してください。1:5の法則とは、新規顧客の獲得には広告や宣伝に積極的に費用を掛けなければならず、リピート客を獲得するのに対して5倍のコストがかかるというもので、新規顧客よりもリピート客を積極的に集客した方が利益率の向上が期待できるとされています。
飲食店のリピート頻度の改善に当たっては「5:25の法則」を参考にできます。5:25の法則は、顧客離れを5%改善できれば利益が25%改善されるという法則で、1:5の法則と合わせて考慮すると、リピート頻度の向上で集客コストを抑えながら、利益率の改善につなげられる可能性があります。
なお、顧客離れを改善して、リピート客を獲得するにはリピート意欲を向上させる施策が必要です。ポイントカードやクーポン券の導入によってお得感をアピールしたり、定期的にメニューを入れ替え、飽きられないようにしたりといった施策を検討してみてください。
飲食店の経営改善では行政からの支援も受けられる
飲食店が経営改善を行う際は、行政からの支援も受けられます。飲食店の経営改善には初期投資としてコストがかかる場合がありますが、補助金を利用することで、経営改善にかかる費用の一部を負担してもらうことができます。
【経営改善で利用できる補助金の一例】
名称 | 概要 |
---|---|
事業再構築補助金 | 事業再構築補助金は「新商品・新サービスの開発」「新市場の開拓」「業態や業種の転換」などを行うときに対象となります。付加価値額の向上や賃金の引き上げなどの取り組みが必要です。 |
小規模事業者持続化補助金 | 小規模事業者持続化補助金は「新商品の開発費」「広告費」「店舗改装費」などが対象となります。飲食店で利用する場合は、常時使用する従業員の人数が5人以下でなければいけません。 |
IT導入補助金 | IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際の費用を補助する制度です。飲食店の場合は「在庫管理システム」「オーダーシステム」「デリバリーサービス」などのITツールの導入が該当します。 |
飲食店の経営改善に当たっては、経営改善の取り組みを行う際にコストがかかる場合があります。とくに、新しい販路の開拓やIT技術の導入などの施策は、経営が悪化している飲食店経営者にとっては負担となって、資金面で経営改善の施策が難しくなってしまう可能性もあります。
国や地方自治体など行政が実施している補助金の中には、飲食店経営者が自店舗の経営改善を行う際に利用できる制度もあります。補助金を利用することで、経営改善にかかるコストの一部を行政に負担してもらうことができます。
ただし、補助金は原則後払いです。補助金を利用する前には対象となる事業を一旦実費で実施し、その後に補助金の支払いを受けるため、資金の捻出が難しい飲食店経営者は一時的な資金を確保するために金融機関からの融資も検討してみてください。
飲食業・宿泊業支援専門窓口も設けられている
飲食店経営者が自店舗の経営を改善する際は、飲食業・宿泊業支援専門窓口も利用できます。収益力の改善や事業再生など、飲食店経営者が経営改善を行うに当たって必要な情報を得たり、相談したりできます。
飲食業・宿泊業支援専門窓口は、令和4年9月から各都道府県の中小企業活性化協議会に設置されているものです。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家に無料で経営上の悩みや課題点の相談が可能です。
また、資金繰り支援として、飲食店経営者が利用可能な伴走支援型特別保証やスーパー低利、無担保融資といった資金調達手段の提案を受けることもできます。ほかにも、収益力改善に向けた経営改善計画の作成や事業再生計画の作成などの支援も受けられます。
なお、飲食業・宿泊業支援専門窓口の連絡先は各都道府県によって異なります。飲食業・宿泊業支援専門窓口の利用を検討している飲食店経営者は、中小企業庁の公式サイトから確認できるため参考にしてみてください。
まとめ
飲食店を経営する中で発生する経営課題としては「必要経費の値上げ」「競合店との差別化ができていない」「人手不足」「リピート率の低下」などが挙げられます。飲食店の平均売上高は減少傾向にありますが、これらの経営課題を改善していくことで飲食店経営を改善できる可能性があります。
飲食店の経営を改善する手法としては「IT技術を活用する」「雇用条件を見直す」「SWOT分析を活用する」「変動費を削減する」「リピート頻度の向上を図る」などが挙げられます。自店舗の改善を行いたい課題点をもとに、経営改善手法を検討しましょう。
なお、補助金のような行政の支援を利用することで、自店舗の経営改善にかかるコストの一部を負担してもらうことができます。飲食業・宿泊業支援専門窓口もあり、資金調達や経営改善の相談などをすることもできるため、経営改善を検討している飲食店経営者は参考にしてみてください。