資金調達
法人が利用できる資金調達方法を解説
資金調達

法人を設立するときや事業を拡大するときなど、事業者には資金調達が必要となる場面があります。法人が利用できる資金調達方法はさまざまであり「株式会社」「NPO法人」「一般社団法人」など、法人形態によって利用できる資金調達方法も異なります。
当記事では、法人が利用できる資金調達方法を解説します。法人化せずに事業を営む「個人事業主」が利用できる資金調達方法との比較や、法人のみが利用できる資金調達方法についても解説しているので、法人として資金調達を検討している人は参考にしてみてください。
法人の資金調達には複数の選択肢がある
法人の資金調達には、複数の選択肢があります。事業者向けの資金調達方法の中には法人のみが利用できるものもあるため、法人は個人事業主よりも資金調達方法の選択肢が多い傾向にあります。
<法人と個人事業主が利用できる資金調達方法の比較>
資金調達方法 |
法人 |
個人事業主 |
社債発行 |
〇 |
× |
株式発行 |
〇 ※1 |
× |
融資 |
〇 |
〇 |
補助金/助成金 |
〇 |
〇 |
固定資産売却 |
〇 |
〇 |
クラウドファンディング |
〇 |
〇 ※2 |
ファクタリング |
〇 |
〇 |
M&A |
〇 |
〇 |
※1:株式会社のみ ※2:株式投資型のクラウドファンディングは不可 |
「融資」「補助金/助成金」「クラウドファンディング」などは、法人と個人事業主のいずれも利用できる可能性がある資金調達方法です。制度ごとに対象となる利用者の条件を定めている場合があるものの、資金調達方法の性質としては法人も個人事業主も利用できます。
一方で「社債発行」「株式発行」は、法人のみが利用できる資金調達方法です。資金調達のために用いる社債や株式は個人事業主には発行できない有価証券であり、法人のみが利用できる資金調達方法に該当するため、法人の方が個人事業主よりも資金調達方法の選択肢が広がります。
さらに、事業者が利用できる資金調達方法の中には個人事業主の利用に制限が設けられている制度もあるため、個人事業主よりも法人の方が利用できる資金調達方法の選択肢が多い傾向にあります。法人として資金調達を行う場合は、さまざまな資金調達方法を比較して自社に適した手段を選択しましょう。
法人のみが利用できる資金調達方法
まずは、法人のみが利用できる資金調達方法を押さえておきましょう。法人のみが利用できる資金調達方法は「社債発行」と「株式発行」であり、いずれも企業が発行する有価証券を利用して資金調達をする方法です。
<法人のみが利用できる資金調達方法>
資金調達方法 |
概要 |
社債発行 |
|
株式発行 |
|
社債発行と株式発行は、投資家からの借入や出資により資金調達を行う方法です。いずれも不特定多数の投資家からまとまった資金を集めることができる方法であり、他の資金調達方法よりも大規模な資金調達を実現できる可能性があります。
また、社債発行と株式発行は、企業の信用力向上が期待できます。社債発行や株式発行を行うためには企業の経営状況や事業計画などに基づく厳格な審査を通過する必要があるため、投資家や金融機関などから成長性と健全性の高い企業として評価される可能性があります。
ただし、企業へ投資する価値を投資家から認められなければ、社債発行と株式発行による資金調達を成功させることは困難です。投資家が企業に対して投資をすることにメリットを感じられるよう、事業の将来性や信用力をアピールする必要があります。
社債発行
法人のみが利用できる資金調達方法として「社債発行」が挙げられます。社債発行は、資金調達を目的とする有価証券である「社債」を発行して投資家から資金を借り入れる方法であり、株式会社をはじめ合同会社、合資会社などの営利法人が利用できます。
社債発行による資金調達では、社債と引き換えに投資家から資金を受け取ることができます。社債によって得た資金は「借入」であるため、社債を発行した法人は投資家に対して元本を返済する義務があるほか、定期的な利息の支払いを行う必要があります。
ただし、社債発行では原則として投資家が企業の経営に参入することはありません。資金調達方法の中には、資金調達先が経営に関与することになるものもありますが、社債発行であれば経営の自由度を維持したままでの資金調達が可能です。
なお、NPO法人や医療法人などの非営利法人は「疑似私募債」を利用できる可能性があります。疑似私募債では社債と同様の仕組みで投資家から資金調達が可能ですが、有価証券ではないことから社債とは法的な定義や規制が異なるため、利用を検討する際は弁護士や資金調達コンサルタントなど専門家に相談してみましょう。
株式発行
法人のみが利用できる資金調達方法として「株式発行」が挙げられます。株式発行は、企業のオーナーとしての権利である「株式」を発行して投資家から出資を受ける方法であり、さまざまな法人形態の中でも株式会社として事業を営む法人のみが利用できます。
株式発行による資金調達では、株式と引き換えに投資家から資金を受け取ることができます。株式発行によって得た資金は出資金として企業の資本となるため、株式を発行した法人には投資家に対する資金の返済義務はありません。
ただし、株式発行は出資者である投資家が企業の株主として経営に関与することとなります。株主には株主総会における議決権が与えられるほか、利益の一部を株主へ還元する配当金が求められる場合があるため、企業の経営方針や資金繰りに影響を及ぼす恐れがあります。
なお、証券取引所において不特定多数の一般投資家と株式の取引を行うには、株式上場(IPO)を実施する必要があります。非上場企業の場合、株式発行をできるのは企業の関係者や、スタートアップ企業を専門に出資を行う「エンジェル投資家」「ベンチャーキャピタル」に限られることに留意しておきましょう。
法人と個人事業主がいずれも利用できる資金調達方法
法人のみが利用できる資金調達方法を押さえた人は、法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法を確認してみましょう。これらは法人のみが利用できる資金調達方法ではありませんが、法人の資金調達における有効な選択肢です。
<法人も個人事業主も利用できる資金調達方法>
資金調達方法 |
概要 |
融資 |
|
補助金/助成金 |
|
固定資産売却 |
|
ファクタリング |
|
クラウドファンディング |
※株式投資型クラウドファンディングは法人(株式会社)のみ利用可 |
なお、法人が利用できる資金調達方法であっても、制度によっては法人を対象外としている場合や利用できる法人の形態に制限が設けられている場合もあります。利用を検討する際は、各制度の募集要項から自社が利用対象となるかどうかを確認しておきましょう。
融資
法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法として「融資」が挙げられます。融資は金融機関から資金を借り入れることにより資金調達を行う方法であり、元本の返済と利息の支払い義務がありますが、法人が利用対象となるさまざまな融資制度があります。
融資の種類には、銀行から直接資金を借り入れる「プロパー融資」や自治体との連携により利用者の負担が軽減される「制度融資」などがあります。信用力があり低金利で資金調達したい企業はプロパー融資、信用力に不安があり融資の受けやすさを重視したい企業は制度融資など、利用者の状況に合わせて選択が可能です。
また、銀行やノンバンクが提供する融資制度のひとつとして「ビジネスローン」もあります。ビジネスローンは法人向けのローン商品であり、プロパー融資や制度融資よりも金利は高く設定されている傾向にありますが、審査基準は比較的甘く制度によっては即日入金が可能なものもあります。
融資は、法人の資金調達として有効な手段のひとつです。資金の借入であるため元本の返済と利息の支払い義務はありますが、金融機関や自治体などがさまざまな利用者向けの制度を提供しているため、企業の状況や資金調達の目的に合った制度を選ぶことが可能です。
ただし、業績が赤字である場合や信用情報に問題がある場合は、対象条件を満たす法人であっても融資の利用を断られる可能性があります。融資を申し込む前に自社の財務状況を改めて確認し、改善できる点がないか検討してみましょう。
補助金/助成金
法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法として「補助金」および「助成金」が挙げられます。補助金や助成金は制度の目的に沿った取組に対して、かかった費用の一部を補助する国や自治体の支援金制度であり、法人が利用対象となるさまざまな制度があります。
たとえば、事業の業務効率化やDX化の取り組みを支援する補助金制度があります。この補助金制度では営利法人だけでなくNPO法人や一般社団法人など非営利法人も申請対象となり、事業の生産性向上につながる取り組みに使用するソフトウェアやハードウェアなどの導入費用の一部が補助されます。
また、従業員の雇用を維持するための取り組みを支援する助成金制度もあります。この助成金制度も要件を満たせば営利法人、非営利法人を問わずに申請対象となり、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図るために実施する取り組みにかかる費用の一部が助成されます。
ただし、事業者向けの補助金や助成金は、中小企業や小規模事業など比較的小規模の法人と個人事業主を対象とする傾向にあります。従業員数や資本金額が一定以上の法人は申請対象者の条件から外れる可能性があるため、申請を検討する人は各制度の募集要項から自社の事業規模が申請対象かどうかを確認しておきましょう。
固定資産売却
法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法として「固定資産売却」が挙げられます。固定資産売却は不動産や機械装置などの固定資産を売却して資金化する方法であり、保有する資産があれば法人形態や事業規模を問わずに利用が可能です。
固定資産売却により、事業の状況にかかわらずまとまった資金を得られる可能性があります。利用者が保有している資産を活用することから信用情報や事業状況が利用可否に影響しにくいため、融資や補助金を利用できなかった場合でも資金調達が可能となる場合があります。
また、不要な資産を整理する目的でも資産売却が行われる場合があります。不動産の所有による固定資産税や機械装置のメンテナンスなどの維持費が企業の負担となっている場合、固定資産売却によって資産を整理しつつ資金調達を実現できます。
ただし、固定資産売却によって調達できる金額には資産の価値が直接反映されます。売却金額は市場価値によって大幅に変動する可能性があるため、資産の状態や売却時期によっては購入時の価格を下回り、希望の金額を調達できない場合があることにも留意しておきましょう
ファクタリング
法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法として「ファクタリング」が挙げられます。ファクタリングは、利用者が保有する売掛債権を売却することにより支払い期日を待たずに資金化する方法であり、ファクタリング会社が指定する条件を満たしていれば法人も個人事業主も利用が可能です。
ファクタリングの契約形態には、利用者とファクタリング会社のみで契約を行う「2社間ファクタリング」と、利用者とファクタリング会社に加え売掛先が契約に関与する「3社間ファクタリング」があります。契約における売掛先の関与の有無により、手続きや手数料などさまざまな違いがあります。
2社間ファクタリングは、売掛先に知られることなくファクタリングを利用できます。売掛先からの同意が必要ないため、3社間ファクタリングよりも手続きが少なく最短即日で資金調達ができる場合がありますが、ファクタリング会社にとっては売掛債権の未回収リスクがあることから手数料が高く設定される傾向にあります。
3社間ファクタリングは、売掛先の同意のうえでファクタリングを利用することになります。売掛先に対して債権の譲渡を知らせる郵送での手続きが発生するため原則として即日の資金化はできませんが、売掛債権の未回収リスクが低いことから手数料が低く設定される傾向にあります。
なお、ファクタリングはすぐに資金が必要な場合の対処法として有効ですが、売掛金から手数料が差し引かれることから、受け取れる金額は売掛金の金額よりも少なくなります。利用を繰り返すことによって、手数料の負担が資金繰りを圧迫する恐れがあることに留意しておきましょう。
クラウドファンディング
法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法として「クラウドファンディング」が挙げられます。クラウドファンディングはインターネットを通じて不特定多数の人から資金提供を募る方法であり、原則として法人形態や事業規模に関わらず利用できる方法です。
クラウドファンディングでは、プラットフォーム上に利用者が取り組むプロジェクトを公開し、賛同者から少額ずつの資金提供を募ります。クラウドファンディングには複数の種類があるため、プロジェクト内容や資金調達の目的に応じた方法を選択しましょう。
たとえば、「寄付型」のクラウドファンディングは、社会貢献や特定の活動を支援するために寄付を募る場合に向いています。支援者は金銭的なリターンを求めないため、NPO法人や一般社団法人など非営利法人が実施する公益性の高いプロジェクトには寄付型のクラウドファンディングが適しています。
また、「株式投資型」のクラウドファンディングは、企業が発行する株式と引き換えに資金提供を募ります。リターンとして株式を発行することから、法人の中でも株式会社のみに限られる方法ですが、通常の株式発行とは異なり非上場企業であっても一般の投資家から資金提供を受けることが可能です。
なお、目標金額が未達となった場合の対応は利用するプラットフォームによって異なります。プロジェクトが失敗となり資金を受け取れない場合や、集まった資金は受け取れるものの金額にかかわらずプロジェクトの遂行が求められる場合があるため、トラブルを避けるためにも各プラットフォームの利用条件を確認しておきましょう。
法人の資金調達におけるポイントを確認しておく
法人の資金調達には、いくつかのポイントがあります。資金調達にはさまざまな準備や手続きが必要となるほか、必ずしも資金調達に成功できるとは限らないため、事前にポイントを確認した上で計画的に準備を進めていきましょう。
<法人の資金調達におけるポイント>
ポイント |
詳細 |
資金調達の目的を明確にする |
目的を明確にすることにより、根拠のある資金調達計画の策定や適切な資金調達方法の選択につながる |
自社の法人形態が利用対象かどうかを確認する |
資金調達方法によっては「株式会社のみ」「営利法人のみ」など利用できる法人形態が限られている場合がある |
自社の事業規模が利用対象かどうかを確認する |
資金調達方法によっては資本金や従業員数に基づく事業規模での利用制限が設けられている場合がある ※業種によって事業規模の定義が異なる |
自社の財務状況を確認しておく |
資金調達方法によっては財務状況や返済能力に問題があると判断されると利用できない場合がある |
専門家へサポートを依頼する |
適切な資金調達方法の提案や申請時の助言を受けることにより資金調達をスムーズに進められる |
法人の資金調達におけるポイントのひとつとして「資金調達の目的を明確にすること」が挙げられます。法人設立や運転資金の確保、販路開拓など、目的を明確にすることによって適切な資金調達方法を選ぶことができるほか、明確な資金調達計画の作成により投資家や金融機関からの理解を得やすくなります。
また、法人の資金調達におけるポイントのひとつとして「自社の財務状況を把握しておくこと」が挙げられます。法人の資金調達では事業者の信用情報や将来性などが利用の可否に影響する場合があるため、事前に財務状況を把握したうえで対策を講じることや利用可能な資金調達方法を選択することが必要です。
法人は個人事業主よりも資金調達の選択肢が多い分、さまざまな条件を比較して自社に合う資金調達方法を選ぶことになります。資金調達方法の選び方や申請方法などに不安がある人は、金融機関や士業など専門家へ相談することも検討してみましょう。
まとめ
事業者向けの資金調達方法の中には、法人のみが利用できるものがあります。また、法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法であっても、個人事業主の利用に制限が設けられている場合もあるため、法人は個人事業主よりも資金調達方法の選択肢が多い傾向にあります。
法人のみが利用できる資金調達方法には「社債発行」と「株式発行」が挙げられます。それぞれ利用できる法人形態は限られており、社債発行は原則として株式会社や合同会社などの営利法人が利用でき、株式発行は株式会社のみが利用できる資金調達方法です。
また、法人と個人事業主のいずれも利用できる資金調達方法には「融資」「補助金/助成金」「クラウドファンディング」などさまざまな方法があります。これらは事業形態にかかわらず利用できる可能性があり、法人の資金調達における有効な選択肢となります。
ただし、法人が利用できる資金調達方法であっても、制度によっては利用に制限が設けられている場合があります。「株式会社」「NPO法人」「一般社団法人」などの法人形態や、従業員数等に基づく事業規模によっては利用対象外となる可能性があるため、各制度の対象者であることを確認した上で利用を検討しましょう。
この記事を書いたライター

ソラボ編集部
資金調達の可能性を無料で診断
8,000件の資金調達実績を持つSolaboの専門家が、融資や補助金など、事業課題に合わせた資金調達方法を提案します。
8,000件の資金調達実績を持つSolaboの専門家が、融資や補助金など、事業課題に合わせた資金調達方法を提案します。