銀行融資における資金使途とは?違反とみなされる事例と対策も解説

カテゴリー 資金調達

銀行から融資を受けるためには、審査の際に「借り入れた資金をどう使うか」を明確に伝える必要があります。銀行は、融資の可否を決定する際、申請者の返済能力とあわせて資金使途が事業目的に沿った適切な内容であるかどうかを重視するためです。

当記事では、銀行融資における資金使途の考え方や、申請内容と異なる使い方をした場合に発生する「資金使途違反」のリスクとその対策について解説します。資金の使い道に関する基本を押さえておきたい方は参考にしてみてください。

資金使途とは借り入れた資金の使い道のこと

資金使途とは、融資で借り入れた資金の使い道のことを指します。銀行の融資審査では、資金使途が事業の目的に沿った内容かどうかが重視され、適切な使い道が明確にされていない場合は審査の通過が難しくなります。

事業用融資における資金使途は「設備資金」と「運転資金」の2つに分けられます。融資を受けたい経費が設備資金と運転資金のどちらに該当するかを理解し、正しく申請する必要があります。

<資金使途の区分>

区分 特徴 使い道の例
設備資金
  • 長期的な事業基盤の強化に関わる投資
  • 金額が高額になりやすい
  • 機械装置の購入
  • 内装、外装工事
  • 車両や不動産の取得
運転資金
  • 継続的に発生する日常的な経費
  • 収益化までの資金を一時的に補う目的
  • 商品や原材料の仕入れ
  • 人件費
  • 広告宣伝費
  • 家賃

設備資金は、将来の収益を生むための先行投資であり、資産形成や事業拡大に関わる支出が中心です。使い道としては、機械装置や車両、不動産の取得などが該当し、高額で自己資金のみでは賄いにくい支出を設備資金として申請することができます。

運転資金は、日々の事業運営を支えるための経費で、資金繰りを安定させるために必要です。仕入費や広告宣伝費、人件費など、売上が入金される前に支出が発生することで資金繰りが一時的に厳しくなる場面では、運転資金の借入によって対応することが有効です。

資金の使い道が曖昧なまま融資を申請してしまうと銀行としては、何に使うかわからないお金は貸せないため、融資審査に通らない可能性が高まります。設備資金や運転資金として認められる使途をそれぞれ正しく理解しておきましょう。

設備資金として認められる使途 

設備資金とは、長期的に使用する設備や資産の導入や取得のための費用を指します。銀行は、設備投資によって得られる利益や減価償却費を返済原資とみなすため、資金使途の明確さと収益性が重視されます。

<設備資金として認められる主な使い道>

使途の種類 具体例
店舗、事務所の新設や改装 新店舗の内装工事、リフォーム、看板設置など
機械、設備の購入 生産設備、厨房機器、什器備品、パソコンなど
車両の購入 営業用車両、配送トラックなど
不動産の取得 土地や建物の購入費用
ソフトウェア導入 業務管理ソフト、会計ソフト、POSレジなど
ホームページ制作 自社サイトやECサイト制作、構築費用
権利の取得 特許権、商標権、ライセンス契約の初期費用など

たとえば、製造機械装置の買い替えや、POSレジの導入、営業車両の購入費といった費用はいずれも設備資金に該当します。機械設備や車両などは長期間にわたり使用される資産であり、将来的な利益創出に貢献することから、融資の対象となります。

また、設備資金には、目に見える機械設備だけでなく、業務システムやウェブサイト制作費、特許やライセンスの取得費用などの無形資産への投資も含まれます。支出が高額になりやすく、自己資金だけでは賄いにくい場合に銀行融資を活用することが有効です。

将来の利益に直結する投資であれば、設備資金としての融資対象になり得ます。申請予定の経費が設備資金に該当するか判断に迷う場合は、見積書と導入目的を整理し、金融機関に事前相談してみましょう。

なお、設備資金として認められない費用や、借入額の目安をあわせて確認しておきたい人は、別記事「銀行融資で設備資金を借り入れるときのポイントを解説」も参考にしてみてください。

運転資金として認められる使途 

運転資金とは、日々の事業活動を継続するために必要な費用をまかなうための資金を指します。銀行は、売上の回収サイクルや毎月のキャッシュフローをもとに、資金の必要性や返済可能性を判断します。

<運転資金として認められる主な使い道>

使途の種類 具体例
仕入費用 商品仕入れ、原材料仕入、製造委託費など
人件費 従業員給与、通勤手当など
家賃 店舗賃料、事務所賃料など
水道光熱費 電気代、水道代、ガス代、通信費など
広告宣伝費 チラシ作成、ウエブ広告、SNS運用費など
外注費、業務委託費 会計処理の委託費、発送業務の外注費、システム保守の委託費など
税金、保険料 消費税、法人税、社会保険料、労災保険など

たとえば、商品の仕入費、人件費、広告宣伝費などの支払いはいずれも運転資金として申請できる支出に該当します。売上の入金前に発生するこれらの支出に対し、一時的に資金が不足する場合は、運転資金の融資を活用することが有効です。

運転資金の融資は、日常的に発生する支出を安定的にまかなう目的で用いられます。申請時には、売上見込みや支出スケジュールなど、資金の流れを具体的に示す資料を準備すると、銀行からの理解を得やすくなります。

また、運転資金は、売上の入金よりも先に支払いが発生することが多く、資金調達の必要性が生じやすい資金項目です。資金不足が予想される場合は、必要な費用と入金までの期間を明確にし、資金繰り表や売上予測表などをもとに融資相談を行いましょう。

なお、運転資金における借入金額の目安や、希望額の融資を受けるための準備について詳しく知りたい人は「銀行融資で運転資金を借りられる?条件や借入可能額の目安を解説」の記事もあわせてご確認下さい。

申請内容と異なる使い方をした場合は資金使途違反と判断される

銀行に申請した資金使途と実際の資金の使い道が異なる場合は、資金使途違反と判断される可能性があります。資金使途違反は銀行との信頼関係を損なう行為とされ、今後の融資取引が停止されることや一括返済を求められるリスクがあります。

<資金使途違反の具体例>

違反となる項目 違反とみなされる理由
設備資金を運転資金に流用 人件費や仕入費など経常的支出への転用は区分が異なるため
融資実行前に設備を購入 資金需要が既に解消されているとみなされるため
見積額より実際の支払額が少ない 差額の使途が不明確な場合、目的外使用と疑われるため
私的な流用 経営者の私的支出や有価証券の購入など、事業と無関係な支出は違反となるため
他者への流用 関連会社や第三者への資金流用は融資の趣旨に反するため
既存の借入金の返済に充てる
※借り換えの場合を除く
資金使途が借入返済では目的に反するため
購入額変更の未申請 見積もりと実支出に差異がある場合、事前申請がなければ不適切とされるため
使い道が不明確 支出内容の記載が曖昧で確認できない場合、資金使途違反とみなされることがあるため

設備資金として申請していた資金を人件費の支払いに充てたり、運転資金を別会社への支出に使ったりする行為は資金使途違反とみなされます。たとえ悪意がなかった場合でも、資金の管理が不十分であれば、銀行から問題視されることがあります。

また、既存の借入金を返済する目的で資金を使用することは、原則として資金使途違反にあたります。ただし、より有利な条件で既存借入を整理する「借り換え」として事前に銀行側と合意している場合は例外として認められます。

申請内容との相違があった場合「知らなかった」「緊急だった」といった事情があっても、資金使途の逸脱は原則として容認されません。資金の使い方については、あらかじめ十分に把握し、銀行との認識のズレが生じないようにしておく必要があります。

資金使途違反を避けるには、申請書に記載した内容に従って資金を使用することが基本となります。誤解やトラブルを防ぐためにも、どのような行為が資金使途違反と判断されるかを事前に理解しておきましょう。

設備資金で違反とみなされる事例   

設備資金として融資を受けたにもかかわらず、実際の使い道が申請内容と異なっていた場合は、資金使途違反と判断される可能性があります。資金の使い道が不適切と判断されると、今後の取引停止や融資の一括返済を求められる恐れがあります。

たとえば、厨房設備の導入として申請した資金を人件費や広告費に充てた場合は、目的外使用として使途違反と判断されることがあります。長期の設備投資を目的とした融資を日常的な経費に流用したために、運転資金への目的外使用と判断された事例もあります。

また、設備にすでに自己資金を充てている場合、その補填を目的として設備資金を受け取ると資金使途違反と認められる可能性があります。融資は原則として、これから発生する予定の支出に対して行われるものであり、すでに購入が完了している場合は資金提供の前提が成立しなくなるためです。

設備資金として借りた資金は、申請書に記載した通りの使い道で使用することが原則です。支出内容に変更が生じた場合や使途に不安がある場合は、早めに銀行へ相談し、適切な手続きを行うようにしましょう。

運転資金で違反とみなされる事例

運転資金として融資を受けたにもかかわらず、実際の使い道が申請内容と異なる場合、資金使途違反と判断される可能性があります。資金の使い道が不適切と判断されると、今後の銀行取引に支障が生じたり、融資の一括返済を求められたりする恐れがあります。

たとえば、仕入資金として申請した資金を、実際には他社への貸付や株式などの有価証券購入に使っていた事例があります。こうした使い方は融資の趣旨から逸脱しており、資金の適正な運用とみなされず、銀行の融資判断基準に反するとして使途違反と判断されます。

また、業務と無関係の交際費や、経営者個人の生活費に充てたと疑われる支出も、融資目的から外れる行為です。特に、資金を寝かせたまま長期間使わなかった場合や、決算書の記載内容に不自然な点があると、金融機関の調査対象になることがあります。

運転資金の使い道は、決算書などの帳簿類にも反映されるため、申請内容と整合性のある支出管理が重要です。使途が曖昧な場合や判断に迷う場合は事前に銀行に相談し、誤解を招かないよう注意しましょう。

資金使途違反によるリスクを避けるための対策  

資金使途違反に該当する内容を押さえたら、次は資金使途違反によるリスクを避けるための対策を確認しておきましょう。銀行融資の審査では、資金の使い道を正確に伝え、その正当性を証明できるように準備しておくことがポイントになります。

<資金使途違反を未然に防ぐための対策>

対策の項目 内容
申告した通りの内容で借入金を使う 融資申請時に記載した目的に沿って資金を使用し、目的外の転用を避ける
資金使途の正当性を示すための書類を揃える 見積書、資金使途明細書、事業計画書などを用意し、資金の必要性や金額の妥当性を具体的に示す
変更が生じた場合は早めに銀行へ相談する 予定外の支出や市と変更が生じた場合は、自己判断せずに事前に銀行へ相談して承諾を得る

融資申請時には、資金使途明細書や事業計画書などの必要書類に使途を明確に記載し、見積書や領収書などの資料で裏付けることが基本です。こうした準備により、銀行との認識のズレを防ぎ、申請内容と実際の運用との整合性を保ちやすくなります。

資金使途の透明性を確保することは、審査通過にとどまらず、将来の追加融資や継続的な取引にもつながります。融資後も申請内容に沿った資金管理を徹底できるよう、適切な事前準備と記録の整備を意識しましょう。

申告した通りの内容で借入金を使う

融資を受ける際は、申告した通りの内容で借入金を使うことが大前提です。融資申請時の内容から外れた使い方をして資金使途違反となるリスクを避けるためには、申告内容に沿った運用を徹底させましょう。

資金使途は、融資審査の根拠となる重要な情報であり、単なる形式的な記載ではありません。「少し違うだけだから大丈夫だろう」といった自己判断が、結果的に違反とされる原因になることもあります。

たとえば、値引きで設備の購入額が申請時より下がったにもかかわらず、融資金額の変更を行わない場合、資金使途が申請内容と異なると判断される可能性があります。融資金額を実際の支出に合わせて調整し、銀行に報告しておくことで違反を避けることができます。

また、人件費として申請した場合でも、賞与や退職金に充てると通常の給与とは性質が異なるため、銀行によっては別扱いされ、使途のずれを疑われることがあります。あらかじめ「人件費(賞与等)」などと明記し、申請書や事業計画書に用途の詳細を記載しておくと、誤解を避けやすくなります。

申告内容通りに借入金を使用することで、資金使途違反のリスクを避けられます。透明性のある資金管理が信頼関係の維持につながるため、疑問や変更が生じた場合は銀行へ相談し、必要な手続きを適切に行いましょう。

資金使途の正当性を示すための書類を揃える

銀行融資の審査では、資金使途の正当性を客観的に説明できる書類の提出が欠かせません。銀行は「申請内容の使途で本当に資金が必要か」「返済できる見込みがあるか」といった点の裏付けを、提出された書類をもとに慎重に確認します。

<資金使途の正当性を説明する必要書類>

書類の種類 銀行が確認する項目

資金使途明細書

  • 借りた資金を何に使うかが明記されているか
  • 具体的な内訳と金額が記載されているか

事業計画書

  • その支出がどのように事業の成長や収益につながるのか
  • 返済を十分に見込める資金計画が立てられているか

資金繰り表

  • 今後の入出金の予定や資金不足が生じるタイミングが正確に示されているか
  • 必要資金額の妥当性が示されているか

見積書、カタログ

  • 支出予定の金額や内容が具体的で融資申請額と整合性があるか

契約書、発注書

  • 実際の契約条件と申請内容が一致しているか

 (例:工事請負、物件取得、外注契約など)

通帳のコピー

  • 自己資金はどれくらい用意できているか
  • 直近の資金の動きに不審な点はないか
  • 申請した経費の支払いがすでに済んでいないか

決算書(損益計算書、貸借対照表)

  • 「売上」「利益」「負債」などの推移に矛盾がないか
  • 過去の支出実績と今回の申請内容に不審な点がないか

たとえば、資金使途明細書は「何にいくら使うか」を一覧で示す書類です。使途と金額を具体的に記載することで、他の提出書類との整合性を取りやすくなります。

また、決算書は数字の客観性が高く、資金使途の正当性を裏づける根拠として活用される資料です。会計ルールに基づいて作成され、後から都合よく書き換えることはできないため、資金が適切に使われたことの確実性を示すことができます。

あわせて、見積書やカタログ、契約書を添付すれば、明細書に記載した支出内容の実在性が証明できます。通帳のコピーや領収書も、支出履歴の信憑性を補強する資料として役立ちます。

資金使途を裏づける書類は、単体ではなく一式として備えることで説得力が増します。申請前に必要な書類を整理し、審査の通過の可能性を高めましょう。

なお、審査に向けて必要書類の詳細を確認しておきたい人は、別記事「銀行融資を受けるための必要書類とは?事業者向けに解説」もあわせて確認してみてください。

変更が生じた場合は早めに銀行へ相談する

融資後にやむを得ず資金の使い道を変更する場合は、必ず事前に銀行へ相談しましょう。自己判断で用途を変えると、資金使途違反とみなされる可能性があります。

資金使途は、審査時に銀行が融資可否を判断する重要な基準です。その前提が変更されたにもかかわらず、連絡なしに支出が進めば「信用に欠ける」と判断されかねません。

たとえば、設備投資を予定していたが急きょ業者が変わり、費用や納期が変更になった場合は、銀行に報告することが求められます。内容が変わった場合でも、あらかじめ説明して承諾を得ていれば、トラブルを未然に防げます。

資金使途の変更は「報告すればよい」というものではなく、銀行に詳細を説明したうえで事前に承諾を得る必要があります。その際は、変更の理由や支出内容を明確に伝え、銀行が妥当と判断した場合にのみ認められることを留意しておきましょう。

まとめ

銀行融資における資金使途とは、借り入れた資金の具体的な使い道を指します。適切な資金使途の明示は審査通過に不可欠であり、設備資金と運転資金に分類して正確に申請することが求められます。

設備資金は将来的な収益につながる投資が対象であり、機械の購入や店舗の改装、ソフトウェア導入などが該当します。一方、運転資金は仕入費や人件費などの日常的な経費をまかなうために活用され、資金繰りの安定に役立ちます。

申請内容と異なる使い方をすると「資金使途違反」とされ、信用失墜や一括返済のリスクを招くことがあります。見積との差額や流用も使途違反の対象となるため、資金の使い道は常に明確に管理し、変更時は銀行に事前相談することが大切です。

この記事を書いたライター

ソラボ編集部

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