株式会社の設立を検討している人の中には、どのような流れで設立準備や手続きを行うのか知りたいと思っている人もいますよね。また、出来れば自分で設立手続きを行い、株式会社を設立したいと思っている人もいるでしょう。
株式会社の設立は、会社法に基づいた「6つの手順」に沿って申請書類の準備や設立手続きを行います。また、自分で設立手続きを行う際は「2つのポイント」を抑えることで、設立手続きなどをスムーズに行うことが可能になるでしょう。
当記事では、株式会社設立の流れと自分で手続きを行う際のポイントを解説します。株式会社の設立に掛かる費用も把握し、会社設立準備を進めたいと思っている人は参考にしてみてください。
株式会社の設立は6つの手順に沿って行う
株式会社の設立は、会社法に基づいた「6つの手順」に沿って申請書類の準備や設立手続きを行います。株主会社を設立する方法には2通りあり、6つの手順のみで設立可能な「発起設立」とさらに手順を加えて設立する「募集設立」という方法です。
【株式会社を設立する際の6つの手順】
- 発起人の決定と会社の基本事項を決める
- 会社印を作成する
- 定款を作成する
- 定款の認証を受ける
- 出資金を振り込む
- 法人登記申請書類を作成して登記申請を行う
株式会社の「発起設立」とは、会社設立時に発行する株式をすべて発起人が引受け出資を行う設立方法のことです。発起人以外から株式を募集しないため、会社設立の際の意思決定や出資が行いやすく、6つの手順のみで株式会社を設立することが出来ます。
また、もう1つの設立方法に「募集設立」という方法があります。会社設立時の株式を「発起人以外」からも募集する方法のため、「株主募集」や意思決定のための「創立総会」など設立手続きが増え複雑になりますが、多くの資金を調達することが可能になります。
なお、「発起設立」と「募集設立」のいずれの方法においても、6つの手順は必ず行う共通手順です。株式会社の設立を検討している人は、それぞれの手順で何を行うことで株式会社を設立することが出来るのか、6つの手順を一つずつ押さえておきましょう。
発起人と会社の基本事項を決める
株式会社の設立手順として、まず発起人と会社の基本事項を決めます。発起人は会社を設立するために必要な手続きを行う人物のことであり、会社の基本事項の策定は発起人の責任において行われます。
【株式会社の基本事項 一例】
- 商号
- 事業目的
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名および住所
- 1株あたりの金額
- 発行可能株式総数
- 機関設計
- 会社設立日
- 事業年度
- 公告の方法
会社を設立するにあたり「発起人」は、設立手続きや出資などの「役割」を担い、設立に関する「責任」を負うこととされています。そのため、会社の設立が成立出来るよう、設立するために必要な基本事項の策定を行わなくてはなりません。
会社の基本事項は、会社の経営方針や運営に影響を与える重要事項です。基本事項の策定を十分に行うことによって、設立する会社の事業目的や組織構造を明確にすることができるとともに、設立手続きをスムーズに行うことが可能になります。
なお、発起人になるための資格や人数の制限などはありませんが、設立手続きには発起人の印鑑証明が必要となるため、印鑑登録が可能な15歳以上の人もしくは法人が対象となります。未成年の場合には、法定代理人である親権者の同意を得る必要がある点に留意して下さい。
会社印を作成する
株式会社の設立手順として、発起人と基本事項を決定したら会社印の作成を行います。会社印は、設立手続きや設立後の事業運営に必要不可欠であるため、商号が決定し既存企業に類似商号がないか確認を終えたら作成をします。
「会社印」は登記申請時、書類への捺印と印鑑登録を行うために必要です。設立後の事業運営時にも契約や取引を行う際に利用するので、用途に合わせた印鑑を揃えて作成します。用意する会社印は実印と銀行印に加え、必要に応じて角印やゴム印などです。
また、「実印」については法務局の定める「規定サイズ内」であり「照合に適するもの」である必要があります。会社の実印は「辺の長さが1センチから3センチメートルの正方形に収まるもの」かつ、シャチハタやゴム印など素材が変形しやすいハンコを避けて作成します。
なお、会社印の作成に掛かる費用は、素材や用意する印鑑の数によって異なります。また、作成時の彫り方によって完成までの日数も変わるため、会社印の作成は、商号が決定したら早めに作成するようにしましょう。
定款を作成する
株式会社の設立手順として、会社印の作成を行ったら定款を作成します。定款とは、会社の根本となる重要な規則を記したもので、会社設立時に必ず作成することが会社法で義務付けられています。
【3種類の記載事項 内容の一例】
記載事項の名称 | 概要 | 記載内容 |
---|---|---|
絶対的記載事項 | 会社法上必ず記載しなければならない事項 |
|
相対的記載事項 | 会社法の規定により定款に定めがなければその効力を生じない事項 |
|
任意的記載事項 | 絶対的記載事項及び相対的記載事項以外の事項で会社法の規定に違反しないもの |
|
定款に記載する事項には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3種類の記載事項があります。3種類の記載事項のうち「絶対的記載事項」とされている事項は、記載がないと会社法上認められず、定款が無効となってしまうため必ず記載をします。
「相対的記載事項」と「任意的記載事項」は定款に記載がなくても無効とはなりませんが、記載しないと効力が生じません。たとえば、相対的記載事項の「株式の譲渡制限」を規定することで、経営に不都合な人物からの株式取得を制限でき、会社の経営権を守ることができます。
なお、定款、紙を綴じて作成した「紙定款」もしくはPDFデータにして作成した「電子定款」のいずれかの形で作成します。電子定款の作成に必要な専用機材やソフトが揃っている環境の場合には、電子定款にすることで設立手続きの手間とコストの削減が可能になります。
定款の認証手続きを行う
株式会社の設立手順として、定款の作成後は「定款の認証」を受けます。定款の認証とは、公証役場の公証人によって「正当な手続きにより定款が作成されたこと」を証明する手続きのことをいい、認証を受けた定款でないと会社の設立は認められません。
定款の認証手続きは定款の作成方法によって異なり、紙定款の場合は発起人が公証役場に直接赴き、電子定款の場合はオンライン上で定款の認証手続きを行います。電子定款のオンライン申請は、法務局の「登記・供託オンライン申請システム」への登録が必要です。
また、定款の認証は、設立会社の「本店所在地」を管轄する公証役場でしか行うことができません。会社の本店所在地が東京の場合には、東京都内の公証役場であれば認証を行うことができ、管轄外である都外の公証役場では認証を行う事は出来ないので注意をしましょう。
なお、公証役場では「作成した定款に不備がないか」事前確認をすることが出来ます。事前確認によって再提出の手間を防ぎ、認証手続き当日の時間短縮が可能となるため、定款の認証を受ける際は、事前に確認を受けてから認証手続きを行いましょう
出資金を振り込む
株式会社の設立手順として、定款の認証手続きを終えたら出資金を振り込みます。出資金として振り込む金額は、定款の「絶対的記載事項」に定めた「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」です。
会社設立前は、出資金の振り込みを行える法人口座の作成ができないため、発起人の個人口座を用意し振り込みます。発起人が複数の場合は代表者1名の口座を決定し、それぞれに出資する金額を「預入」ではなく「振込」を行い、発起人氏名が確認できるようにします。
発起人によってすべての出資金の振り込みが完了したら、振り込みが確かに行われたことを証明するため、振り込みを行った口座の通帳コピーを取ります。コピーを取る箇所は「表紙」「表紙裏」「振り込みが確認できる明細ページ」の3箇所です。
なお、定款の認証日より前に出資の振り込みを行うと、後の登記申請手続きの際に受理されない可能性があります。必ず定款の認証を終えてから振り込みを行うと共に、会社設立後の大事な運営資金となるため、法人口座を作成するまでは管理に気を付けましょう。
法人登記申請書類を作成して登記申請手続きを行う
株式会社の設立手順として、最後に法人登記申請書類を作成し、法務局で登記申請手続きを行います。登記申請手続きの際に提出する書類は、発起人によって決定し定款に定めた設立状況に応じて準備し作成しますが、共通して提出する書類は以下の通りです。
【登記申請手続き提出書類 一例】
- 設立登記申請書
- 認証済みの定款
- 登記すべき事項をまとめた別紙またはCD-Rなど
- 設立時取締役の就任承諾書
- 設立時取締役の印鑑証明書
- 法人印の印鑑届書
- 出資金の払込証明書
- 登録免許税額の収入印紙を貼付した台紙
登記申請手続きでは、共通して提出する書類に加えて「機関設計」や「定款の内容」に応じて書類を用意し提出する必要があります。提出する申請書類の詳細については「株式会社の設立に必要な書類とは?手続きや届出先ごとに解説」を確認してみてください。
また、登記申請手続きの方法は「法務局の窓口で行う」「法務局へ郵送する」「オンライン申請で行う」の3通りです。状況に応じた手続き方法で申請を行いますが、東京法務局の「登記完了日」によると、申請書類の審査を終え登記完了となるまでには10日ほどの期間を要します。
なお、登記申請手続きには申請期限があります。会社法では設立時取締役が「出資金の払込の有無」や「現物出資の場合の価額が相当であるか」などの調査を終えてから2週間以内に登記を行うことしているため、事前に申請書類を取得するなどの対策を行い期限内に対応するようにしましょう。
株式会社の設立には約24万円の費用が掛かる
株式会社の設立には約24万円の費用が掛かります。この費用は、設立手続きである「定款の認証」と「登記申請」手続きで発生する「法定費用」のことです。
【株式会社設立時に発生する法定費用 資本金300万円以上の会社の場合】
名称 | 概要 | 費用 | |
---|---|---|---|
定款認証手続きにかかる費用 | 定款認証手数料 | 資本金額に応じて定められている。 100万円未満…3万円 100万円以上300万円未満…4万円 300万円以上…5万円 |
50,000円 |
定款謄本手数料 | 法人登記申請用の定款謄本の取得費用 | 2,000円 | |
定款印紙代(印紙税) | 認証を受けた定款に貼付する収入印紙の印紙税 | 40,000円 | |
法人登記手続きにかかる費用 | 登録免許税 | 15万円もしくは、資本金額×0.7%をした際の金額が高い方 | 150,000円 |
その他設立に必要な必要 | 会社の印鑑代 | 会社の実印、法人口座印、角印など | 素材により変動 |
印鑑証明書代 | 発起人および取締役の印鑑証明書 | 600円 | |
合計 | 242,600円 |
「法定費用」とは、設立手続きを行う行政機関に必ず支払う手数料や税金のことをいいます。法定費用は、設立する会社の資本金額に応じて金額が定められており、定款の認証手続きを行う「公証役場」や登記申請手続きを行う「法務局」に該当費用を支払います。
定款を「電子定款」で作成した場合には、定款の認証手続きで発生する「定款印紙代」は不要です。電子定款は印紙税法上文書に該当しないため、電子定款を作成した場合には設立費用を4万円抑えることが可能になります。
なお、法定費用や設立手続きに関する費用は、会社設立後に「創立費」として会社の経費とすることができます。会社設立後の設立費用の経費化について把握しておきたい人は、「会社設立費用を経費にするには?経費対象費用と方法を解説」を参考にしてみてください
設立手続きを自分で行う際の2つのポイント
株式会社の設立手続きを自分で行う際には、2つのポイントを抑えると良いでしょう。ポイントを抑えることで、設立準備や手続きがスムーズに行えるようになり、申請期限を超過することを防ぎ、設立希望日に間に合わせることが可能になります。
【2つのポイントと実施後の効果】
ポイント | 実施後の効果 |
---|---|
希望通りに登記は可能か調査を行う | 定款や登記申請書類の作成をスムーズに行うことができる。 |
公的機関を活用する | 書類の取得や作成が容易になり、手続きがスムーズになる |
たとえば、希望する「商号」や「本店所在地」で登記が可能であるかを確実に調査することによって、申請書類をスムーズに作成することが可能になります。商号については、国税庁の「法人番号公表サイト」を活用し、類似商号の調査を行うと良いでしょう。
また、公的機関を上手く活用することで、書類の取得や作成が容易になりスムーズに設立手続きを行うことが可能になります。法務局窓口では無料相談も行っており、専門的なアドバイスを受けることが出来るため、定款や申請書類の作成が容易になるでしょう。
なお、申請書類は事前に取得しておくことで、作成すべき書類を把握しやすくなり申請期限の超過を防げるようになります。会社の設立手続きを自分で行いたいと思っている人は、この2つのポイントを参考にしてみてください。
まとめ
株式会社の設立は、会社法に基づいた「6つの手順」に沿って申請書類の準備や設立手続きを行います。「定款」や「登記申請書」などの必要書類などを作成し、「公証役場」や「法務局」など定められた申請先での審査が完了することで、会社を設立することが出来ます。
また、株式会社を設立する際は、出資金に加えて約24万円の「法定費用」が掛かります。法定費用は、設立する会社の資本金額に応じて変動しますが、定款を「電子定款」で作成した場合には「定款印紙代」が不要となるため、設立費用を抑えることが可能になります。
なお、「会社の基本事項の調査や決定をしっかり行う」「公的機関を上手く活用する」の2つのポイントを抑えることで、設立準備や手続きをスムーズに行うことが可能となるため、自分で設立手続きを行う際は参考にしてみてください。