株式会社の設立を検討している人の中には、会社の設立手続きを行う際にどのような書類が必要か知りたい人もいますよね。さらに、会社を設立した後の手続きと必要書類も把握したいという人もいるでしょう。
株式会社の設立手続きに必要な書類は、公証役場と法務局で行う手続きに応じて用意をします。また、会社を設立した後には、税務関係や労働者の保険に関する届出などを行うため、各種手続きに応じた書類の用意が必要です。
当記事では、株式会社の設立に必要な書類とはなにかを手続きに沿って解説します。設立後に必要な手続きや書類などもあわせて把握し、株式会社の設立準備を進めたいと思っている人は参考にしてみてください。
必要書類は設立手続きに沿って用意をする
株式会社の設立に必要な書類は、設立手続きに沿って用意をします。株式会社の設立は、手順に沿って公証役場と法務局で申請手続きを行うため、それぞれの手続きに応じた申請書類の用意と作成が必要です。
【株式会社の設立に必要な書類】
- 定款の認証手続きに関する書類
- 登記申請手続きに関する書類
株式会社を設立するには「定款の認証手続きに関する書類」が必要です。会社を設立する際に必ず作成する「定款」は、公証役場で認証を受けることが会社法で義務付けられているため、まず定款の認証手続きに必要な申請書類などの用意をします。
また、会社の設立には法務局への法人登記申請が必要であるため「登記申請手続きに関する書類」を用意します。認証を受けた定款と、設立状況に応じた数種類の申請書類を提出することで株式会社を設立することができます。
株式会社の設立に必要な書類について知りたい人は「定款の認証手続き」と「登記申請手続き」に必要な書類とは何かを押さえておきましょう。必要書類を把握する前に「設立手続きの手順」について知りたい人は「株式会社設立の流れを手順に沿って解説」を参考にしてみてください。
定款の認証手続きに必要な書類
定款の認証手続きに必要な書類は3種類あります。すべての書類を揃えて公証役場に提出することで、作成した定款は正当な手続きによって作成されたことが証明されます。
【定款の認証手続きに必要な3種類の書類】
書類の名称 | 書類の概要 |
---|---|
定款 | 会社の根本となる重要な規則を記した書面もしくは電磁的記録に記載又は記録したもの。定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3種類の記載事項を記載する。 |
発起人の印鑑登録証明書 | 発起人が使用する「実印」の印鑑登録証明書のことで、定款に記載された発起人の住所、氏名及び押印の証明を行うために使用。提出できるのは発行後3か月以内の「印鑑登録証明書」に限る。 |
実質的支配者となるべき者の申告書 | 「法人の実質的支配者となるべき者」を申告するための書類。法人の実質的支配者となるべき者を明確にし、暴力団員等による法人の不正使用を抑止するための措置として、定款の認証を行う際に提出が必要となった。 |
定款は、会社設立時に必ず作成することが会社法で義務付けられています。作成は発起人が行い、署名又は記名押印をし、原本3通を公証役場へ提出します。認証後は公証役場に1通保存され、会社保存用と登記申請手続き用に1通ずつ還付されます。
また、発起人の印鑑登録証明書は発起人が複数人の場合、全員分の証明書を用意します。加えて、公証人法の改正にともない定款の認証手続きの際に「法人の実質的支配者となるべき者」の申告が必要となったため、一定の規則に従って記載し提出をします。
なお、定款の認証手続きは記載内容の確認などがあるため、原則として発起人全員で手続きを行います。欠席者がいる場合や代理人に依頼する場合には、欠席者分の「委任状」が必要になるため、3種類の提出書類とともに忘れずに提出をしましょう。
登記申請手続きに必要な書類
登記申請手続きに必要な書類は、認証済みの定款に加え数種類の申請書類を用意します。法務局へ登記申請手続きを行わない場合、法的に会社を設立したとは認められません。
【登記申請手続きで提出する書類 一例】
書類の名称 | 書類の概要 |
---|---|
設立登記申請書 | 会社の基本事項や添付する書類の種類などをまとめた書類のこと。基本事項は、会社名、本店所在地、登記すべき事項、資本金額、登録免許税の金額などを記載する。 |
認証済みの定款 | 公証役場で認証を受けた定款のこと |
登記すべき事項をまとめた別紙またはCD-R | 会社法第911条第3項に掲げている登記すべき事項を別紙またはCD-Rにまとめたもの。事項の詳細は法務省の「登記事項の作成例一覧 株式会社関係 設立」を参照。 |
発起人決定書 | 登記すべき事項を定める際に、発起人全員の同意又はある発起人の一致があったことを証明する書類のこと。 |
設立時取締役の就任承諾書 | 設立時に会社の「取締役」に選任された者が、就任に同意、承諾したことを証明する書類。選任した人数分の承諾書が必要。 |
設立時代表取締役の就任承諾書 | 設立時に会社の「代表取締役」に選定された者が、就任に同意、承諾したことを証明する書類のこと。代表取締役の選定を行った場合に必要。 |
設立時取締役と代表取締役の印鑑証明書 | 設立時に「取締役」と「代表取締役」に選任、選定された者が使用する「実印」の印鑑登録証明書のこと。設立状況によって要不要が異なる。 |
法人印の印鑑届出書 | 会社で使用する「法人印」の登録を行うための書類。 |
法人印の印鑑カード交付申請書 | 法人印の「印鑑証明書」を取得する際に必要な「印鑑カード」の交付申請書類のこと。 |
出資金の払込証明書 | 出資金の払い込みを行ったことを証明する書類のこと。振込を行った通帳のコピーを添付する。 |
登録免許税額の収入印紙を貼付した台紙 | 登記申請手続き時に納付が義務付けられている「登録免許税」の金額分の収入印紙が貼付された書類のこと。 |
登記申請手続きでは「登記すべき事項」として商号や本店所在地、公告する方法や目的などを記載し提出しなければなりません。提出方法として「登記申請書」に直接記載し提出するか、別紙またはCD―Rにまとめたものを提出する方法のいずれか3通りです。
また、取締役会を設置しない会社で発起人が会社の取締役となる場合には、定款に記名押印がされているため「設立時取締役の就任承諾書」は不要です。ただし「設立時取締役の印鑑証明書」は全員分必要となるため注意をしましょう。
なお、登記申請手続きに提出する必要書類は、会社の設立状況や定款の内容によっても異なります。登記申請手続きに必要な書類を知りたい人は、どのような設立状況や定款の内容の場合に異なるのかを押さえておきましょう。
登記申請に必要な書類は設立状況や定款の内容によって異なる
登記申請手続きに必要な書類は、設立状況や定款の内容によって異なります。おもに「取締役会の設置の有無」や「定款への記載の有無」によって、用意すべき書類が変わります。
たとえば、設立する会社が取締役会を設置する場合には、取締役の中から代表取締役と監査役の選定、選任をする必要があります。その際は、取締役に加えて代表取締役と監査役の「就任承諾書」が必要となります。
また、発起人によって会社の基本事項が決定したということを「定款に記載」した場合には「発起人決定書」の作成は不要になります。その際、本店所在地や割当てを受ける株式数および払込金額、発行可能株式総数なども記載しておく必要があるので留意しましょう。
なお、「取締役会の設置の有無」に応じた必要書類は、法務局HPの「株式会社設立登記申請書(取締役会を設置しない会社の発起設立)」と「株式会社設立登記申請書(取締役会設置会社の発起設立)」からそれぞれ確認することができるので参考にしてみてください。
設立後は届出先ごとに必要書類を用意する
株式会社の設立後は届出先ごとに必要書類を用意します。会社設立後は、運営環境を整えるための手続きや届出を複数の行政機関へ行う必要があり、手続きの内容や指定される提出書類は届出先によって異なるためです。
【届出を行う必要がある行政機関】
- 税務署
- 都道府県や市区町村
- 年金事務所
- 労働基準監督署
- ハローワーク
会社を設立した後は、運営環境を整えるために税務関係や労働者の保険に関する届出などの手続きを行います。申請内容に応じた申請書の用意と作成を行いますが、届出先によっては添付書類として会社の基本事項などを確認できる書類の提出が求められます。
また、設立後に行う届出には一定の申請期限を設けているものもあります。提出を怠った場合には正しい申告ができなくなる他、罰則や追徴金の支払いが発生する場合があるため、事前に申請書類を取得しておくなどの対策を行う必要があるでしょう。
なお、設立後に行う届出の数は会社の設立状況によるため、用意し作成する申請書類も会社によって異なります。株式会社の設立に必要な書類を知りたい人は、設立後の届出において自身の提出が必要な書類とは何か確認してみましょう。
税務署で行う手続き
会社を設立後、届出を行う行政機関として税務署への手続きがあります。手続きは、設立後の法人税や所得税を正しく申告し納めるために必要です。
【税務署へ届出る書類】
届出の名称や内容 | 必要書類 | 申請期限 | |
---|---|---|---|
必ず行う届出 | 内国普通法人等の設立の届出 | 法人設立届出書、定款、寄付行為、規則または規約の写し | 設立日から2か月以内 |
給与支払事務所等の開設届 | 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 設立日から1か月以内 | |
適用者、適用希望者のみが行う届出 | 青色申告の承認申請 | 青色申告の承認申請書 | 青色申告によって申告書を提出しようとする事業年度開始日の前日まで、もしくは、法人税法で定める事項に該当する日まで |
源泉所得税の納期の特例承認に関する申請 | 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | とくに定めなし | |
消費税の新設法人に該当する旨の届出手続き | 消費税の新設法人に該当する旨の届出書 | 事由が生じた場合、速やかに |
税務署での手続きは、必ず行う届出と税金制度の適用者や適用希望者が行う届出があり、それぞれに申請期限が設けられています。手続きを行うことで、法人としての税務上の義務を果たすことができると共に税制上の優遇措置を受けられます。
たとえば、所得税の申告を青色申告で行い、青色申告特別控除を適用したい場合には「青色申告の承認申請書」の届出を行う必要があります。控除を適用するには、確定申告書を提出する事業年度開始日の前日までに申請しなければ適用されません。
なお、各種届出に関する詳細や必要な申請書類は、国税庁HPで確認ができダウンロードも可能です。期限内に提出できるよう事前に取得を行い、申請手続きは「本店所在地を管轄する税務署」で行いましょう。
都道府県や市区町村へ行う手続き
会社を設立後、届出を行う行政機関として、税務署の他に都道府県や市区町村への手続きがあります。手続きは、新たに会社を設立したことを報告するための「法人設立の届出」です。
【都道府県や市区町村へ行う届出の概要 東京都の場合】
届出先 | 届出の名称や内容 | 必要書類 | 申請期限 |
---|---|---|---|
都道府県税事務所 | 法人設立の届出 | 法人設立・設置届出書、定款・寄附行為・規約等の写し、履歴事項全部証明書 | それぞれ都道府県によって異なる。東京都の場合は設立日から15日以内 |
市区町村役場 | 法人設立の届出 | 法人設立届出書、定款の写し、履歴事項全部証明書 | それぞれの市区町村役場によって異なる。23区の場合届出は不要 |
法人設立の届出は、税金の申告と納付をするために行います。税務署にも同様の届出を行いますが、税務署へは国税を、都道府県や市区町村へは地方税を管轄しているため、それぞれに届出を行わなくてはなりません。
届出は、本店所在地を所管する都道府県税事務所と市区町村役場へ行います。提出する申請書類や添付書類は所在地ごとに異なりますが、おもに「法人設立届出書」と添付書類として「定款の写し」や「履歴事項全部証明書」を提出します。
なお、東京都の23区のように、都税事務所に届出を行うことで区役所への届出は不要という場合もあります。本店所在地を所管する都道府県や市区町村によって対応や必要書類などが異なるため、税事務所や市区町村のHPや窓口を確認するようにしましょう。
年金事務所へ行う手続き
会社を設立後、届出を行う行政機関として年金事務所への手続きがあります。年金事務所では、厚生年金保険や健康保険に関する届出を行います。
【年金事務所へ届出る書類】
届出の名称や内容 | 必要書類 | 申請期限 | |
---|---|---|---|
必ず行う届出 | 厚生年金保険および健康保険の新規適用の手続き | 健康保険・厚生年金保険新規適用届、履行事項全部証明書 | 設立日から5日以内 |
該当事由が発生した場合に行う届出 | 被保険者資格取得の届出 | 被保険者資格取得届 | 事実発生から 5 日以内 |
健康保険被扶養者の届出 | 健康保険被扶養者(異動)届、被扶養者の戸籍謄本または住民票の写し、収入要件を確認できる書類など | 事実発生から 5 日以内 |
「新規適用の手続き」は、設立した会社が厚生年金保険および健康保険に加入すべき要件を満たした場合に必ず行います。従業員が常時5人以上働いている場合には、手続きが必要です。
また、新規適用の手続きに加え、該当事由が発生した場合に行う手続きもあります。従業員を採用した場合には「被保険者資格取得の届出」を、家族を被扶養者にする場合には「健康保険被扶養者の届出」を必要に応じて行います。
なお、年金事務所へ行う届出の申請期限は、設立日から5日となっているため早めの対応が求められます。従業員や家族の加入については状況によって添付書類などが異なるので、日本年金機構の「従業員を採用したとき」や「家族を被扶養者にするとき」を参考にしてみてください。
労働基準監督署やハローワークへ行う手続き
会社を設立後、届出を行う行政機関として労働基準監督署やハローワークへの手続きがあります。設立後に労働者を雇用した場合、労働者の権利保護と適正な労働環境の確保のために必ず行うことが労働関係法令によって義務付けられているからです。
【労働基準監督署やハローワークへ届出る書類】
届出先 | 届出の名称や内容 | 必要書類 | 申請期限 |
---|---|---|---|
労働基準監督署 | 労働保険 保険関係成立届 | 保険関係成立届、履歴事項全部証明書 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
労働保険 概算保険料申告 | 概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日から50日以内 | |
適用事業報告 | 適用事業報告書 | 保険関係が成立した日から遅滞なくすみやかに | |
ハローワーク | 雇用保険 適用事業所設置届 | 雇用保険適用事業所設置届、労働基準監督署から返却された「保険関係成立届」のコピー、履歴事項全部証明書 | 適用事業に該当した日から10日以内かつ、労災保険の届出が完了してから |
雇用保険 被保険者資格取得届 | 雇用保険被保険者資格取得届、 労働者の雇用実態や賃金の支払いの状況等を証明できる書類 | 雇用した翌月の10日まで |
会社を設立した後、従業員を1人でも雇用した場合には、労働保険と雇用保険に関する届出を行う必要があります。労働保険は労働基準監督署へ、雇用保険はハローワークへ上記の届出に加え、労働環境に応じた届出を行います。
申請期限については、労働保険と「雇用保険ともに10日以内という届出があります。そのため、それぞれの加入要件を満たす従業員を採用しようとする段階で、早めに申請書類の取得と添付書類の準備を行うとよいでしょう。
なお、雇用保険の「適用事業所設置届」を行うには「労働保険番号を付与された保険関係成立届のコピー」が必要です。労働基準監督署に労働保険の「保険関係成立届」を行うと事業所控えが取得できるので、会社を設立後はまず「労働保険」の届出を先に行いましょう。
まとめ
株式会社の設立手続きに必要な書類は「定款の認証手続きに関する書類」と「登記申請手続きに関する書類」です。それぞれの手続きに関する申請書類を作成し、申請先となる2つの行政機関へ提出することで会社を設立できます。
用意すべき書類は手続きによって異なり、定款の認証手続きでは3種類、登記申請手続きでは認証を受けた定款に加え数種類の申請書類や添付書類が必要です。登記申請手続きに必要な書類については、設立する会社の設立状況や定款の内容に応じて用意をします。
なお、会社設立後には、運営環境を整えるために税務関係や労働者の保険に関する届出などを指定された申請期限内に行う必要があります。届出に必要な書類は、届出先や届出内容によって異なるため、本店所在地を管轄する届出先のHPなどを参考に準備を進めましょう。
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まとめ
個人事業主が会社を設立するときは、法人化の手続きとして商業・法人登記を行う必要があります。商業・法人登記を行わずに株式会社や合同会社を名乗ることはできないため、個人事業主の人が会社を設立する際は、商業・法人登記から始めるようにしましょう。
また、商業・法人登記を行った後にも税務署や年金事務所へ必要書類を提出します。個人事業主が会社を設立したときは、個人事業主としての事業を廃業するための書類の提出も併せて必要です。
なお、会社設立に当たっては、司法書士に相談することで商業・法人登記の手続きを代行してもらうことが可能です。商工会議所や商工会では、司法書士や行政書士などの専門家に無料で相談を行うこともできるので、会社の設立を検討している個人事業主の人は参考にしてみてください。