独立起業したばかりの社長はやるべきことが沢山あります。事業全体の業務成績を管理することは当然のことですが、会社員の頃とは違い、自分の仕事だけやっていれば良いというわけにもいきません。
会計や税の数字に強くなることも重要な仕事の一つです。
なぜなら、会計や税にある程度詳しくなければ、会社に最大限のキャッシュフローを確保することができないからです。そして、キャッシュが滞ると、経営はどんどん苦しくなっていきます。本日お伝えする、交際費も節税やキャッシュフローの面で、新人の社長に必ず抑えておいて頂きたい知識の一つです。
安定した経営のために参考にして頂ければと思います。
目次
1.はじめに:交際費とは
1−1.年間800万円までの交際費は課税されない
1−2.交際費は得意先や仕入先だけでなく役員や従業員にも使える
1−3.注意!こんな領収書だと交際費として認められない
2.覚えておきたい交際費と間違えやすい経費
2−1.交際費とならない経費①:一人当たりの飲食費が5000円以下の場合は会議費にできる
2−2.交際費とならない経費②:渡切交際費には所得税と住民税がかかる
2−3.交際費とならない経費③:販売促進を目的とした割戻(リベート)
2−4.交際費とならない経費④:景品費
3.交際費に関してよくあるご質問
3−1.仕事を紹介して貰った際の謝礼は交際費になるか?
3−2.球場の年間ボックスシートや相撲のます席などは交際費になるか?
3−3.ゴルフ場の会員権は交際費になるか?
3−4.ゴルフや観劇の際の送迎タクシー代などは交際費か交通費か?
3−5.得意先のお祝い事に関する贈答品は交際費になるのか?
4.まとめ:大切なのは交際費を使うことではなくキャッシュフロー!
1.はじめに:交際費とは
1−1.年間800万円までの交際費は課税されない
税法改正により、2013年の4月より年間800万円までの交際費は100%費用として計上(=損金算入)できるようになりました。つまり、今までと比べて交際費として経費計上できる幅が広がったのです。
※ただし、これは中小企業だけで、大企業は原則交際費は経費とはなりません(=損金不算入)。中小企業の定義は、中小企業庁の『FAQ 中小企業の定義について』で分かりやすく解説されています。
今までは、限度額を600万円として、使った額の90%(=最大540万円)までしか経費にできなかったことと比べると、中小企業にとって大幅に自由度が上がったと言えるでしょう。また、現在は800万円まで全額を経費にできますが、交際費に関しては非常に頻繁に変わるので、随時チェックするように心がけてください。
それでは、交際費とは厳密には、どのような費用のことかをご説明します。
1−2.交際費は得意先や仕入先だけでなく役員や従業員にも使える
交際費とは一言で表すと、「会社の事業をスムーズに運ぶために必要な見返りを求めて得意先や仕入先のご機嫌を取るための費用」です。このように、ビジネスにおいて接待や贈答を重視する商習慣は日本独特のものと言えるでしょう。そのため、交際費のことを接待交際費と言う方も少なくありません。
そのような背景があり、「交際費=接待」という認識が強く社会的にも議論はありますが、特に日本の経営者にとっては、税金やキャッシュフローのことを考える上で、必ず抑えておきたい知識の一つと言えるでしょう。
また、このように接待の認識が強い交際費ですが、実は、得意先や取引先に対してだけでなく会社の役員や従業員、株主など「事業に関係のある者」に対する支出もこれに該当します。厳密には以下のような費用です。
もし、何でもかんでも交際費として計上して、その中にこれらに該当しないものが入っていると、後になって交際費と認められずに、余計に税金を払わなければいけないことになってしまいますので、しっかりと覚えておきましょう。
また、これらと似た支出で交際費にならないものもありますので詳しくは後述します。
1ー3.注意!こんな領収書だと交際費として認められない
最初にお伝えしたような議論があるため、交際費に関しては、税務署も非常に厳格で厳しくチェックします。そのため、何らかの支出を交際費として計上するためには、後で税務調査が入った時などに、その支出が交際費として妥当であることを証明するために領収書をしっかりと保管しておくことが必要です。
そして領収書には、以下の5つの項目が入っていなければ交際費として認められません。
-
相手先名が入っていること:
「上様」では経費として認められません。時には領収書に相手先の会社名を記載したくない場合もあるかもしれません。残念ですが、その場合は、そのときの支出は交際費とはなりません。 - 金額が正しく入っていること:
- 日付が明記されていること:
- 領収書を発行した会社の名前、住所、社判が押されていること:
-
使い道が書かれていること:
何に使ったかはっきりと分かるように商品名等が入っていなければいけません。
大切なのは、交際費を、「どこで」「誰に」「いつ」「何に」使ったのかが明確に分かるようにしておくことです。※もちろん、交際費だけでなく全ての経費で領収書を貰う場合はこの5つの項目を満たすようにしてください。
2.覚えておきたい交際費と間違えやすい経費
以下の経費は、交際費とはなりませんが間違えやすいものです。交際費としなくとも、別の勘定項目で100%経費として落とせるものもありますし、逆に経費とはならないものもありますのでしっかりとチェックしておきましょう。
2−1.交際費とならない経費①:一人当たりの飲食費が5000円以下の場合は会議費にできる
飲食の場合で、一人当たりの飲食費が5000円以下の場合は交際費にしなくても、「会議費」や「雑費」「少額飲食費」などとして全額を経費(=損金算入)にすることが可能です。この場合、誰が参加していたかなどの記録を必ず残すようにしましょう。※領収書の裏に参加者の人数と名前をメモしておく程度でも構いません。
また会議費として計上するためには、社外の者が1名以上加わっている必要があります。そして、一人当たりの金額が少額で会議費として計上したくも、飲酒を含むものの場合は交際費とみなされることがありますので注意しましょう。
2−2.交際費とならない経費②:渡切交際費には所得税と住民税がかかる
渡切交際費とは、役員や従業員に、前渡ししておく交際費のことです。交際費という名前がついているので紛らわしいのですが、税法上では、渡切交際費はその役員や従業員に対する給与と見なされます。つまり、渡切交際費を受け取っている者には所得税と住民税がかかりますので注意しましょう。
2−3.交際費とならない経費③:販売促進を目的とした割戻(リベート)
売上割戻(リベート)とは、商品を大量に購入してくれた相手に対して、一定の金銭を渡すことを言います。これは、税法では経費として売上から引くのではなく、その部分を売上そのものから控除することになります。リベート部分を経費として扱ってしまうと売上額の操作になってしまいますので厳禁です。
しかし、リベートをもので渡した場合は、謝礼として見なされるので交際費として費用計上(=損金算入)することができます。
2−4.交際費とならない経費④:景品費
例えば、得意客や卸売業者に、販売促進の一環として景品を支給する場合、その景品が数千円程度の少額で、社名が入っており、領収書などで、その金額や商品名が後から確認できるようなものであれば、景品費として処理(=損金算入)することができます。ただし、前述の交際費の定義上、商品券や旅行券、観劇券などは、たとえ少額でも交際費となります。
3.交際費に関してよくあるご質問
交際費の中でも特に、ややこしくご質問が多いものに関してご説明します。
3−1.仕事を紹介して貰った際の謝礼は交際費になるか?
クライアントから知り合いの会社を紹介して貰って受注が決まった場合は、お礼と感謝の気持ちを贈りたいもの。そのために支払う謝礼や金品等は交際費として処理することができます。ただし、交際費として計上する以上、相手の会社名や氏名等を明らかにする必要があります。もし、何か事情があって、相手の会社名や氏名を開かせない場合は、使途不明金となり交際費とすることはできません。もし使途不明金を交際費に入れてしまったら税務調査の時に税務官から厳しくチェックされることになりますので注意しましょう。
3−2.球場の年間ボックスシートや相撲のます席などは交際費になるか?
球場や相撲の年間予約席は、それを接待を目的としたものの場合は交際費として処理する必要があります。しかし、その年間予約席を特定の役員や従業員のみで使っている場合は、それらの者に対する給与(現物支給)とみなされ個人の所得税の対象となります。また、接待を目的として購入した場合で、空いているときに役員や従業員が利用するという場合は、現物支給とならずに、全額を交際費とすることができます。
3−3.ゴルフ場の会員権は交際費になるか?
前述の年間予約席と違って、ゴルフ場の会員権は株式のように時価で取引されているもので非償却資産という扱いになるので、少々勝手が違います。簡潔にご説明すると、まず法人で会員権を購入し、資産に計上します。そして、法人の資産として計上すると、その「年会費」や「ロッカー代」などの費用部分を交際費として計上することができます。
※注:ゴルフ場の会員権を資産として計上するためには、その会員権が業務の遂行上必要であることを具体的かつ客観的に説明できる必要があり
また、会員権を会社で購入しても、特定の役員や従業員のみが使っている場合は、その者への給与(現物支給)とみなされ、個人に対して所得税がかかります。
3−4.ゴルフや観劇の際の送迎タクシー代などは交際費か交通費か?
得意先や仕入先を接待するための送迎のタクシー代は交通費ではなく交際費としての扱いになります。また、実費ではなく御車代として出して場合でも、それが妥当な額であれば交際費となります。
3−5.得意先のお祝い事に関する贈答品は交際費になるのか?
得意先の担当者が、結婚するなどで、花や贈答品、金品を贈る時は、その費用を交際費として計上することができます。
4.まとめ:大切なのは交際費を使うことではなくキャッシュフロー!
会社が軌道に乗ってきて、売上が上がるようになると節税に熱心になる経営者の方はとても多いことでしょう。しかし、意識が節税に対して向きすぎると、会社にとって本当に大切なキャッシュフローの最大化という目的とは離れていってしまうことがあります。
極端な例ですが、年間の利益が2000万円出るとして、急いで節税のために交際費を使い800万円を計上するとします。すると税引前当期純利益が1200万円になるので、法人税を40%としたら、納税額は480万円になります。一方、交際費を一切使わないと、納税額は800万円になります。
しかし、前者の場合は会社のキャッシュフローとして720万円になるのに対して、後者の場合は、納税額は多いのですが、1200万円のキャッシュフローを確保することができます。一見、納税額が320万円も減って節税できているように見えるので喜んでしまいがちですが、キャッシュフローという点で考えると、逆に480万円も減少しているという点にご注目下さい。
このように節税に熱心になり過ぎて、本当に大切な会社のキャッシュフローに対する意識が下がるようだと良い経営者とは言えません。
くれぐれも節税の本当の意義を見失わないようにしましょう。