農業の資金調達で押さえておきたいポイントを解説

カテゴリー 資金調達

近年、農家の倒産数は増加傾向にあり、農業経営の厳しさが改めて浮き彫りとなっています。生産コストの上昇や天候不良、人材不足など、さまざまな悩みや課題を解消するために、資金調達を検討する農業者も増えています。

また、近年では、スマート農業や6次産業の導入による農業の自動化や販路拡大を目指し、さまざまな資金調達方法を利用する事例も増えています。

当記事では、農業の資金調達で押さえておきたいポイントや、農業で利用できる複数の資金調達方法を解説します。また、文末には農業に特化した融資や補助金制度の一覧も用意しているので、農業の資金調達について調べている人は参考にしてみてください。

農業の資金調達におけるポイント

農業の資金到達を成功させるためにはいくつかのポイントがあります。農業者の設備投資や運転資金は高額となる傾向にあり、資金調達が経営の安定や成長に直結するため、まずはポイントを押さえてから計画的に進めるこが必要です。

<農業の資金調達におけるポイント>

ポイント 内容
資金調達の目的を明確にする 設備投資、運転資金、販路開拓などの用途に合った資金調達方法の選択
資金調達に必要な条件を確認する 事前に取得すべき資格や満たすべき条件を確認
事業計画を作成しておく 自身の事業計画を具体化し、説得力のある内容を作成
資金繰りと返済の計画を立てる ROI(投資対効果)を意識し、無理のない返済計画を設計する

資金調達を行う際は、まず資金の用途を明確にすることが必要です。たとえば、農業機械の購入には設備投資向けの融資、販路開拓にはEC制作に活用できる補助金など、目的に応じた適切な資金調達方法があります。

また、資金調達を行う際は必要な条件を満たしておく必要があります。たとえば、農業融資を利用する際には「認定農業者」や「認定新規就農者」として認定を受けていることが条件となる場合があります。

農業の資金調達は、単に資金を確保するだけでなく、目的に応じた適切な方法を選択し、計画的に活用することがポイントです。目的に応じて利用する資金調達方法が決まったら、定められた条件を確認し、準備を整えておきましょう。

資金調達の目的を明確にする

農業の資金調達におけるポイントのひとつに資金調達の「目的を明確にする」ことが挙げられます。目的が曖昧なままでは適切な手段を選ぶことができず、事業計画の達成に必要な資金を調達できなくなる可能性があるためです。

たとえば、新しい農業機械を導入し、生産性を向上させたい場合は「設備投資費」、季節ごとの仕入れ費や人件費を確保したい場合は「運転資金」の調達が目的となります。目的が明確になると事業計画や調達すべき金額が具体化され、利用できる資金調達方法を効率的に探しやすくなります。

資金調達を成功させるためには、まず「何のために資金が必要なのか」を明確にすることが大切です。資金の使途を明確にして目的に合った調達方法を見つけられたら、次はそれぞれの概要や条件を確認し、利用できるかどうかを確認しましょう。

資金調達に必要な条件を確認する

農業の資金調達におけるポイントのひとつに「必要な条件を確認する」ことが挙げられます。利用する資金調達の制度によっては、一定の資格や要件を満たしていなければ申請できない場合があるため、事前に確認しておく必要があります。

たとえば、農業融資には複数のサービスがありますが、申請時に「認定農業者」や「認定新規就農者」の資格がなければ利用できない場合があります。

「認定農業者」とは、自らの農業経営における改善や発展計画を市町村から認められた農業者のことです。認定農業者になるには、農地のある市町村に「農業経営改善計画書」を提出し、認定される必要があります。

「認定新規農業者」とは、新たに農業経営を始める際に、自らの農業経営の目標や計画を記した計画を市町村から認められた農業者のことです。認定新規農業者になるには「青年等収納計画」を提出する必要があり、原則として18歳以上45歳未満かつ就農から5年以内の人が対象となりますが、一定の農業技術や知識を身につけている場合は65歳未満まで申請可能です。

各資金調達方法には、事業形態や必要な資格、担保の有無など、さまざまな条件が設定されているため、事前の確認が不可欠です。満たせない条件がある場合はその手段を利用できないため、手続きや事前準備によって満たせる条件があれば、早めに対応しておきましょう。

事業計画を作成しておく

農業の資金調達におけるポイントのひとつに「事業計画を作成しておく」ことが挙げられます。資金調達の際には、事業の収益性や資金の使い道を明確に示す必要があり、計画が不十分だと審査に通らない可能性があります。

<事業計画に記載する内容の例>

項目 内容
事業の概要 農作物の種類、販売方法、ターゲット市場
資金の使い道 設備投資、人件費、販路開拓など
売上と利益の見込み 収支計画、回収見込み、投資対効果(ROI)
リスク管理 自然災害や市場変動への対応策

農業融資や補助金に申請する際には、事業の収益モデルや資金の活用計画が具体的に説明されていなければ、審査の対象外となることがあります。

たとえば、融資を受ける場合は、売り上げや利益の見込みを明確にし、返済計画を示すことが求められます。また、補助金を申請する場合は、資金の使途が補助金制度の目的と一致しているかどうかを明確に示す必要があります。

事業計画を作成する際は、事業の概要や資金の使途、売上見込みなどいくつかの必要項目を具体的に記載することが求められます。資金調達方法によって事業計画に求められる内容や審査基準が異なるため、調達手段に適した事業計画を作成しましょう。

資金繰りと返済の計画を立てる

農業の資金調達におけるポイントのひとつに「資金繰りと返済の計画を立てる」ことが挙げられます。資金を調達できたとしても、計画的に管理しなければ返済負担が大きくなり、経営を圧迫するリスクがあります。

<資金繰りと返済計画の管理項目の例>

項目 内容
収支のバランスを可視化する 月ごとの収入を管理し、資金の過不足を把握
返済スケジュールを作成する 借入れの返済額と支払期日を整理
資金の流れを最適化する 売掛金の回収や支払いタイミングを調整
予期せぬ支出に備える 資金繰りの悪化に備え、一定の運転資金を確保

資金を借り入れる場合、事業の売り上げサイクルに合わせた返済計画を立てなければ、資金不足に陥る可能性があります。農業は、作物の生育に数ヶ月の期間が必要であり、収益化までの時間がかかるため、資金の流れを長期的に考慮しなければなりません。

設備投資のための借入れでは、導入した機械や設備による生産効率の向上が、どの程度の期間で投資回収できるかを示す投資対効果(ROI)を計算し、適切な返済期間を設定する必要があります。ROIの計算式は、ROI=利益/投資額×100です。

たとえば、農業用ドローンに100万円を投資して作業効率の向上や人件費の削減に成功し、年間の利益が30万円増える場合の計算式はROI=30万円​/100万円×100=30%となります。これは、投資額に対して30%のリターンを得られるという計算です。

この計算から、ドローンの設備投資を行った例では約3年で投資額を回収でき、それ以降は利益が積み上がることが期待できます。ROIを事前に計算することで回収期間を可視化できるようになり、3年間でどのように返済を進めるかの計画を立てやすくなります。

資金繰りや返済計画のポイントを押さえることで、資金不足による経営リスクを軽減し、安定した事業運営を目指せます。農業収入は季節変動が大きい傾向にあるため、長期的な資金計画を立てましょう。

農業者が利用できる資金調達方法

農業者が利用できる資金調達には複数の方法があります。自身の状況や目的に適した方法を選ぶことで、設備投資や運転資金の確保、販路拡大などがスムーズに進み、事業の成長に繋がります。

<農業に利用できる資金調達方法>

資金調達方法 概要 活用例
融資 金融機関から資金を借りる方法 設備投資や運転資金の確保
ファクタリング 売掛金を早期に現金化する方法 資金繰りの改善や短期的な運転資金の確保
補助金や助成金 国や自治体から返済不要の支援金を受け取れる方法 事業転換、業務効率化、人材雇用など
クラウドファンディング インターネット上で支援者を募り、資金を集める方法 新規事業の立ち上げや販路拡大
リース 設備をレンタル契約し、月々の支払いで利用する方法 初期費用の軽減、設備導入のコスト分散
出資 投資家から資金を受け取り、事業を拡大する方法 事業の成長、研究開発、事業拡大

たとえば、農業機械を導入する場合、設備投資のための融資やリースなどを利用できます。融資はまとまった資金を確保できるため、一括購入が可能で、リースの場合は月々の支払いで利用できるため、初期コストを抑えられます。

また、新規事業の立ち上げや販路拡大を検討している場合は、クラウドファンディングや補助金の活用が有効です。クラウドファンディングは事前に顧客の反応を確認しながら資金を集められ、補助金や助成金は返済不要の資金を経費の一部に充てることが可能です。

資金調達にはさまざまな方法があり、長期の借入や短期間の資金確保など、目的やニーズに応じた使い方が可能です。また、一部の資金調達手段は併用ができるため、自身の目的に適した方法をいくつか組み合わせて活用することも検討してみてください。

融資を受ける

融資とは、金融機関から資金を借り入れ、契約期間内に元金と利子を返済する資金調達方法です。その中でも「農業融資」という農業経営者が設備投資や運転資金を確保するために利用できる融資サービスが用意されており、農業の特性に応じた長期返済や低金利の制度が整えられています。

<農業融資の概要>

項目 内容 
特徴
  • 無利子や低金利で長期返済が可能な制度が用意されている
  • 設備投資や運転資金など幅広い用途に利用できる
適した用途
  • 農業機械や設備の導入
  • 温室や貯蔵施設の整備
  • 種苗、肥料、飼料の購入
  • 販路拡大 
資金調達額の目安
  • 数百万円~数億円(個人や法人などの事業形態や金融機関によって異なる)
注意点
  • 申請要件として認定農業者や認定新規就農者であることが求められる傾向にある
  • 自己資金や担保の有無、信用情報が審査に影響する傾向にある

農業融資のサービスは、日本政策金融公庫やJAバンク、その他の銀行や信用金庫にて提供されています。

日本政策金融公庫は国が100%出資を行う金融機関であり、日本の産業や中小企業の持続可能な発展を支える政策的な役割があります。そのため、まだ経営実績のない新規就農者や小規農家など、民間銀行の審査に通りにくい事業者に対しても、低金利や長期返済の条件で利用できる制度を取り揃えています。

JAバンクは、全国のJA(農業協同組合)を中心に農林中央金庫、JA信用組合などが連携し、農業経営に必要な資金を支援しています。さらに、組合員向けには資金相談や経営サポートを行い、事業の安定と発展を支える仕組みを整えています。

金融機関の提供する農業融資を活用することで、農業者は事業の成長に必要な資金を確保し、長期的な経営計画を立てることが可能になります。農業融資を申請する際には、認定農業者や認定新規就農者などの資格が求められる傾向にあため、事前に認定を受けておきましょう。

なお「スーパーL資金」や「農業近代化資金」など、いくつかの融資制度を文末の見出しにて紹介しています。農業融資の種類や概要を知りたい人は参考にしてみてください。

ファクタリングを行う

ファクタリングとは、未回収の売上である「売掛金」をファクタリング会社に売却し、現金化する資金調達方法です。直売所やスーパー、飲食店などの取引先に売掛で農産物を納品している農業者にとって資金繰りを改善する有効な手段となります。

<ファクタリングの概要>

項目 内容

特徴

  • 売掛金をファクタリング会社に売却し、現金化する手段
  • 短期間での調達が可能
  • 取引先の信用力が審査の対象となる

適した用途

  • 仕入費の確保
  • 運転資金の調達
  • 短期間での資金繰り改善

資金調達額の目安

  • 数十万円~数百万円

注意点

  • 売掛金額の数%~20%程度の手数料が発生する
  • 取引先の信用力によって買い取り額や条件が変動する
  • 個人事業主や少額の売掛金でも対応可能なファクタリング会社か確認する必要がある

たとえば、スーパーや食品加工会社などの取引先に農産物を納品し、月末締め翌日払いで売掛金が発生した場合、入金までには30日〜60日かかることが想定されます。その際、ファクタリングを利用することにより、売掛金の支払期日を待たず即日または数日以内に資金を受け取ることができます。

また、農業者がファクタリングを利用する際は、個人事業主や少額の売掛金でも対応可能なファクタリング会社を探すことがポイントです。ファクタリング会社では、取引額に下限を設けている場合がありますが、個人の営農者は取引額が少額となる傾向にあり、売掛債権が下限に満たない場合があるためです。

支払いサイトが長い企業との取引先でも、ファクタリングを活用することで売掛金を早期に資金化できるため、資金繰りの改善に繋がります。ただし、ファクタリングには一定の手数料がかかり、長期的な利用は利益を圧迫する可能性があるため、利用する際は手数料のコストを考慮しつつ計画的に進めましょう。

なお、ファクタリングには利用者とファクタリング会社のみで行う「2社間取引」と、売掛先企業を含む「3社間取引」の2つの形態があります。それぞれ手数料や資金調達の仕組みが異なるため、詳しく知りたい人は「ファクタリングとは?図解を用いながらわかりやすく解説」の記事も参考にしてみてください。

補助金や助成金を申請する

補助金や助成金は、国や地方自治体などの公的機関が特定の事業活動を支援する目的で交付する支援金です。返済義務がないため企業の資金負担を軽減できますが、交付を受けるためには申請要件を満たして審査に通過する必要があります。

<補助金や助成金の概要>

項目 内容

特徴

  • 国や自治体が特定の事業活動を支援するために交付する資金
  • 原則として返済不要
  • 申請から交付までには数ヶ月~1年以上を要する傾向にある

適した用途

  • 農業機械、ハウス、貯蔵施設などの導入や改修
  • スマート農業やECサイト制作
  • 6次産業の推進、農業商談会への出展
  • 雇用、人材育成

資金調達額の目安

  • 数万円~数千万円(補助金の種類や事業規模によって異なる)

注意点

  • 要件を満たすことや審査に通過することが求められる
  • 原則として後払いのため、一時的な自己資金の確保が必要
  • 交付決定前に事業を開始すると対象外となる場合がある

補助金や助成金には販路開拓や業務効率化、雇用改善など、さまざまな目的を支援する制度があります。申請する際は、各制度の要件を満たし、事業計画書を含む複数の必要書類の提出を求められる傾向にあるため、事前に漏れなく準備しておくことがポイントです。

たとえば、農業で利用できる補助金の中には、生産者団体が行う共同出荷である「系統出荷」による収入のみの農業者は補助対象外となる制度があります。その場合、系統出荷以外にも道の駅や飲食店などに農産物を卸していることや、系統出荷以外の事業も行っていることなどが求められます。

また、事業計画書には具体的な事業内容や資金計画、期待される効果などを明確に記載する必要があります。たとえば「売上30%向上、コスト600万円削減を目指し、3年以内に投資回収を達成する」といった目標と達成までの道筋を根拠とともに明示することにより、説得力のある事業計画となります。

補助金や助成金は、就農準備やスマート農業など多岐にわたる取り組みに対し返済不要で利用できる資金調達方法です。ただし、補助金や助成金は原則として後払いであるため、融資と併用するなど、資金調達の計画を事前に立てておきましょう。

クラウドファンディングを行う

クラウドファンディングは、インターネット上で不特定多数の支援者から資金を募る資金調達方法です。農業分野では、新規事業の立ち上げや販路拡大、スマート農業の導入など、さまざまな目的で活用されています。

<クラウドファンディングの概要>

項目 内容

特徴

  • インターネット上で支援者から資金を募る資金調達方法
  • 「購入型」「寄付型」「投資型」など複数の型式がある
  • 支援者へのお礼として「リターン」の品物や配当金などを送る(寄付型の場合はリターン不要、お礼状を送る)
  • 市場の需要確認や認知度向上の手段としても有効

適した用途

  • 新規事業の立ち上げ
  • 新商品の開発やテスト販売
  • 設備投資
  • 販路拡大

資金調達額の目安

  • 数万円~数千万円(プロジェクト内容や支援者の規模による)

注意点

  • 購入型では支援者にとって魅力的なリターンの設定や準備が必要
  • 目標額を達しない場合は資金を受け取れない可能性がある
  • SNSやメディアを活用し、プロジェクトの認知度を高める工夫が必要

たとえば、クラウドファンディングは農園の規模拡大や新たな事業開始などに向けた設備投資を目的としたプロジェクトに活用できます。支援を受けてスマート温室を設置し、通年で高品質なトマトの栽培を成功させた事例や、地元産フルーツを活かした観光農園をオープンさせた事例などがあります。

また、希少品種の栽培や加工品の製造資金を調達する際、クラウドファンディングを活用することで支援者から資金を募ると同時に、市場のニーズを確認することができます。支援者に試作品をリターンとして提供すれば、消費者の反応を直接得られ、商品の改良や販売戦略を立てるための貴重なデータとなります。

クラウドファンディングを成功させるためには、SNSやメディアを活用して広く認知を拡大し、多くの人にプロジェクトの価値を伝えましょう。「なぜこの農業をやりたいのか」を明確にしたストーリーを示し、共感を得ることがポイントです。

なお、クラウドファンディングには「購入型」「寄付型」「ふるさと納税型」などの型式があり、資金調達の目的に適した型式を選ぶことになります。クラウドファンディングの種類を詳しく知りたい人は、「クラウドファンディングによる資金調達の仕組みと事例を解説」の記事も参考にしてみてください。

リースを利用する

リースとは、高額な農業機械や設備を購入せずに、一定期間レンタルで使用する資金調達方法です。初期費用を抑えられるため、資金繰りの負担を軽減しながら最新の機械を導入できます。

<リースの概要>

項目 内容
特徴
  • 機械や設備をリース会社から借りて使用する
  • 保守、修理が含まれる契約が多く、故障時の負担が軽減される
  • 契約満了時に最新機種へ更新できる

適した用途

  • 最新の機械を利用したい場合
  • 初期費用を抑えたい場合

資金調達額の目安

  • まとまった費用は不要
  • 毎月のリース料を支払う

注意点

  • 総支払額が購入費用より高くなる場合がある
  • 契約途中で解約すると違約金が発生する場合がある
  • 資産として残らない

リースを利用するメリットのひとつは、初期費用や維持管理コストを抑えられることです。トラクターやコンバインなどの高額な機械を初期投資ゼロで導入できる上、契約内容によっては修理、保守費用も含まれるため、故障時のリスクを軽減できます。

また、リースを利用するもうひとつのメリットは、契約終了時に更新や新たな契約をする際に最新の機械へと乗り換えられることです。技術の進化が早い農業機械を、リースを活用して定期的に最新機種を利用できるため、効率的な農業経営を実現できます。

一方で、リースには総支払額が購入費を上回る可能性があるというデメリットもあります。長期間使用するのであれば、ローンを組んで購入する方が費用を抑えられる場合もあるため、リースと購入のコストを比較した上で判断することが重要です。

短期間のリースを活用すれば、資金負担を抑えながら最新技術を導入することができます。ただし、長期利用を検討している場合はかえって支払総額が高くなる場合もあるため、購入の選択肢も含めて慎重に検討することがポイントです。

なお、一部のリース契約では買取オプションが設定されており、リース期間終了後に機械を購入できる場合もあります。高額な農業機械を導入する際やスマート農業を始める際など、まずはリースを活用して実際の運用を試してみるのもひとつの方法です。

出資を受ける

法人化している農業経営や、スマート農業などの先進技術を活用した事業を展開する場合、投資家からの出資を受けることで資金を調達する方法があります。出資とは、株式の発行と引き換えに投資家から資金を提供してもらう仕組みの調達方法です。

<出資の概要>

項目 内容

特徴

  • 法人や個人の投資家に株式を発行し、出資を受ける方法
  • 投資家からの経営アドバイスや人脈の紹介などの支援を受けられる可能性がある
  • 返済義務がないが、経営への影響を受ける場合がある

適した用途

  • スマート農業の導入や大規模な設備投資
  • 6次産業化
  • 海外展開や上場に向けた資金確保

資金調達額の目安

  • 数千万円∼数億円(事業内容や投資家規模によって異なる)

注意点

  • 出資者の持株比率が大きくなると経営権を握られるリスクがある
  • 成長戦略や収益モデルを具体的に示した事業計画が必要
  • 投資家との関係構築や利益分配の調整が必要

近年、農業分野でもベンチャーキャピタル(VC)や事業会社からの出資を受ける例が増えています。特に、スマート農業や環境配慮型農業など、新しい技術やビジネスモデルを取り入れた事業は投資家からの関心を集めやすい傾向にある分野です。

出資を受けることで大規模な資金調達が可能になり、事業拡大やスマート農業を取り入れた農業の自動化などの成長戦略を実現しやすくなります。また、投資家によっては資金面の支援だけでなく、経営面でのアドバイスや専門分野に長けた人材の紹介などを受けられる可能性もあります。

新たな農業の取り組みや販路拡大を目指す際には、経営戦略のノウハウや人脈のネットワークを提供できる投資家との契約が理想的です。農業分野に理解のある投資家と出会うためには、農業商談会や農業特化型のイベントに参加することも方法のひとつです。

ただし、株式を発行しすぎると自社の持株比率が低くなり、経営の自由度が低下する恐れがあります。経営方針に関して株主である投資家からの影響を受ける可能性があるため、出資を受ける際には株式の発行数や投資契約の内容を慎重に検討しましょう。

出資を受けるために法人化を検討する際の注意点

出資を受けるためには、投資家に株式を提供することで資金を調達する仕組み上、個人営農者は株式会社として法人化する必要があります。しかし、法人化にはコストがかかることや税制の変化などいくつかの影響があるため、事前に注意点を把握しておきましょう。

<個人事業主が法人化する際の注意点>

注意点 注意点
法人化に伴う費用が掛かる 登記手数料や定款認証などの初期費用が発生し、資本金の準備も必要
税負担が増加する可能性がある 法人は赤字でも「法人住民税均等割」が発生し、利益が一定額を超えると法人税が課税される
売上規模によっては法人化が適さない場合もある 事業規模が小さいうちは、法人化による節税効果が得られにくい
社会保険の加入義務が発生する 代表者や従業員の社会保険料負担が発生し、個人事業主よりコストが増える
経理や税務処理が複雑になる 法人化すると決算書の作成や税務申告が必要になり、税理士のサポートが必要になることもある

法人化すると、取引先や金融機関からの信用を得やすくなり、法人向けの融資や補助金も利用できるようになります。また、個人事業主と比べ、役員報酬や事業用資産の減価償却費など経費として計上できる範囲が増えるため、売上規模や利益次第では節税効果を期待できる場合があります。

一方で、法人には赤字か黒字かに関わらず「法人住民税均等割」が課税されることになるため、事業の収益状況によっては負担が増える可能性があります。また、社会保険の加入義務が発生することも代表者や従業員の負担となるので、売上規模によっては法人化が適さない場合も考えられます。

法人化には複数のメリットがあるものの、事業規模や運営コストとのバランスを考慮し、慎重に判断する必要があります。出資を受けるために法人化を検討する場合は、具体的な資金計画や税務面の影響を事前に確認し、必要に応じて税理士や行政書士などの専門家に相談してみましょう。

農業に利用できる制度一覧

農業に利用できる制度をいくつか紹介します。農業向けの融資や補助金を探している人は参考にしてみてください。

<農業者向けの融資や補助金制度>

融資制度
融資制度 融資限度額 金利と返済期間 使途

農業改良資金

  • 個人:5,000万円
  • 法人:1億5,000万円
  • 無利子
  • 12年以内(据置期間3年)
  • 設備家畜、果樹等
  • 農地利用権の取
  • 品種転換

スーパーL資金

(農業経営基盤強化資金)

  • 個人:3億円
  • 法人:10億円
  • 0.95%~1.5%
  • 最長25年以内
    (据置期間10年)
  • 農地の取得、改良
  • 農業用施設や機械の導入
  • 農産物の加工・流通施設の整備
  • 債務整理

スーパーS資金

(農業経営改善促進資金)

  • 個人:500万円(畜産・施設園芸は2,000万円)
  • 法人:2,000万円(畜産・施設園芸は8,000万円)
  • 0.18%~0.45%(変動金利制)
  • 7~20年以内(据置期間2~7年)
  • 種苗、肥料
  • 家畜購入費、飼
  • 修繕費
  • 地代
  • 技術取得費市場開拓費

農業近代化資金

  • 個人:1,800万円(知事特認で2億円
  • 法人:2億円
  • 0.6%~1.2%
  • 15年以内(据置期間3年~7年)
  • 機械や施設の取得、改良
  • 果樹、家畜の導入
  • 小規模な土地改良
  • 省力化
  • 環境負荷低減技術の導入

青年等就農資金

3,700万円

  • 無利子
  • 17年以内(据置期間5年)
  • 農業機械や設備の購入
  • 農地の借入費用
  • 果樹や家畜の導入
  • 運転資金

アグリマイティー資金

  • 個人:5,000万円
  • 法人:1億円
  • 変動金利制
  • 10年以内(据置期間3年)
  • 農地取得
  • 農業施設の整備
  • トラクターやコンバインなどの大型機械の導入
  • 農産物の加工、販売に関する資金
補助金制度
制度名 補助上限額 補助率 対象経費
経営開始資金 年間150万円(最長3年間) 定額(100%) 就農初期の生活費や運転資金
就農準備資金 年間150万円(最長2年間) 定額(100%) 研修中の生活費
強い農業・担い手づくり総合支援交付金 事業内容に応じた上限設定 1/2~3/4 機械・施設整備、経営強化策など
環境保全型農業直接支払交付金 定額(対象活動により異なる) 定額(100%) 環境に配慮した農業実践にかかる費用

経営発展支援事業

上限1,000万円(経営開始資金受給者は上限500万円) 1/2 経営改善・規模拡大にかかる費用
6次産業化支援事業補助金 事業内容や自治体に応じて異なる 1/3~定額 農畜産物の加工、販売施設の整備などにかかる費用

農業融資のサービスは、主に日本政策金融公庫やJAバンク、信用金庫などの金融機関で提供しています。農地の取得や大規模な設備投資に必要な資金を調達したいのであれば「スーパーL資金」、運転資金や小規模な設備投資であれば「農業近代化資金」などのサービスが適しています。

農業向けの補助金は、主に農林水産省や地方自治体が実施しており、新規就農や設備導入、経営改善を支援する制度などが用意されています。就農初期に生活費や運転資金の支援を受けたい場合は「経営開始資金」、農業機械や施設の導入を検討している場合は「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」などの制度が適しています。

融資や補助金に申請する際は、各制度に定められた対象者の要件を満たしておく必要があります。また、審査に備えて事業計画や必要書類を準備することが資金調達を成功させるポイントです。

なお、補助金は公募期間が決められている傾向にあるため、申請スケジュールを確認した上で余裕を持って準備を進めましょう。

まとめ

農業の資金調達を成功させるためには、まず資金の目的を明確にすることが重要です。設備投資や運転資金の確保、販路拡大など、資金が必要な理由によって適した調達方法は異なるため、どの手段が利用できるのかを確認し、目的に合った資金調達方法を選びましょう。

適切な資金調達方法を選ぶ際には、それぞれの制度に定められた条件を満たしているかを確認する必要があります。特に農業融資や農業に特化した補助金などは「認定農業者」や「認定新規就農者」としての資格を求められる場合があるため、必要に応じて認定を受けておきましょう。

融資や補助金、出資を検討する際は、事業計画や資金計画の精度が審査における重要なポイントとなります。計画書には具体的かつ説得力のある内容を記載する必要があるため、作成が難しい場合は認定支援機関や専門家のアドバイスを受けながら準備を進めてください。

この記事を書いたライター

ソラボ編集部

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