「借金をしたくない」という気持ちになるのは、当たり前のことです。
私たちは子どものころから「人からお金を借りてはいけません」「借りたお金はすぐに返しなさい」と言われながら成長してきたため、
「お金を借りること」=「悪いこと」
という価値観が根付いています。
しっかりと働いてお金を稼ぎ、毎日の生活に困らないよう収入と支出を管理することが社会人としての最低条件です。
生活費が足りなくなって親や他人からお金を借りると、周囲から「あいつはだらしない人間だ」と思われてしまいます。
しかし、会社と個人は、違います。
会社が借金できるのは銀行から信用されている証拠
「他人にお金を借りてばかりいる個人」は社会的に信用されませんが、「金融機関から常に借入をしている会社」は、社会的に信用力が高くなります。
なぜ借金している会社が信用されるのでしょうか。
それは、確実にお金を返してくれる会社にしか、銀行がお金を貸さないためです。
では「確実にお金を返してくれる会社」とは、どのような会社でしょうか。
決算書が黒字で、潤沢な資金があり、これからも利益を出し続けると期待されている会社です。
考えてみてください。
あなたが他人に10万円のお金を貸すとき、次のAさんとBさん、どちらに貸しますか。
Aさん「今日財布を家に忘れて、手持ちの現金がないんだ。銀行口座には定期預金の100万円があるけど、利率が良いから解約したくない。財布を回収したら少し色をつけて返すから、10万円ほど貸してくれないか」
Bさん「仕事をクビになって、今一文無しなんだ。今夜の夕飯を買うお金もなくて困ってる。頼むから、10万円貸してくれないか。新しい仕事を探して、1週間後にはきっと返すから」
Aさんには100万円の預金があるので、あなたが貸さなくても問題はありません。
今すぐに必要な分がないだけと分かっていますし、色をつけてくれると言うのなら、安心して貸すことができます。
また、きちんと返してくれて、本当に色をつけてくれたなら「困ったときはいつでも貸すから、相談してね」と、Aさんに貸すことにメリットもあると考えるでしょう。
一方Bさんは、深刻な状態です。
あなたがお金を貸さなければ、路頭に迷ってしまうかもしれません。
しかし現在一文無しで、再就職できるという保証はありません。
貸した10万円が返済される可能性は低いでしょう。
すると、家族や親戚、または特に仲が良い友人でもない限り「ほかを当たって」と言いたくなります。
仕方なく貸すことになっても、2度目のお願いがあったときは、ハッキリ断るでしょう。
確実に返済してくれそうな金銭的余裕がある人になら、自分のお金を貸しても良い。
金銭的余裕がなくて、返済してくれる見込みが低い人には、自分のお金を貸したくない。
これは一般人の感覚です。
銀行など金融機関の心理も同じです。
たとえば税理士は社会的信頼度が高い国家資格であるため、税理士が自分の事務所を開業するために銀行に融資を申し込んだ場合は、ほぼ問題なく融資が決まります。
さらに県庁等に勤めている公務員なら、個人でも多くのお金を借りることができます。
公的機関に勤務するサラリーマンの収入は、特に安定しているからです。
相手が企業であっても、この感覚は変わりません。
実に返済してくれる優良な企業にのみ、融資を行う。
返済が滞りそうな経営不振の企業には、融資を行わない。
つまり、
「私の会社は、1度も金融機関からお金を借りたことがありません」と言う会社は、
「私の会社は、1度も金融機関に信用されたことがありません」と言っているようなものなのです。
「無借金」は、会社としては自慢になりません。
これは絶対に覚えておきましょう。
借金力は、信用力です。
どれだけ安い金利で、どれだけ多額の借入をしているか。
それは会社の信用度を測るバロメーターの1つです。
もしも「私の会社はA銀行から1億円の借入をしています」と言えば、B銀行の営業マンは「1億円もの大金を安心して貸せるほど、信用度が高い会社なんだな」と考え「ぜひうちの銀行融資もご利用ください」と営業をかけてくるかもしれません。
利益を出していれば借金なんてしなくていい?
「でも、がんばって利益を出して黒字にしていれば、わざわざお金を借りる必要はないのでは?」
そう思った人は、まだまだ会社経営を甘く考えています。
今は黒字でも、1年後や5年後に黒字であるという保証がありますか?
海外マーケットは常に激動していて、原材料を輸入品に頼っている製造業は円の相場が1円下がっただけで打撃を受けています。
また、どれだけうまくビジネスを進めても、突然起こる自然災害を回避することはできません。
未来がどうなるか、100%予測はできません。
だからこそ「銀行から借入をして、問題なく返済した」という実績を作り、金融機関との信頼関係を構築して、万が一のとき必要な資金が調達できるよう、備えておかなければならないのです。
社長なら「自力で100万円の売上を上げる」よりも「金融機関から1,000万円借りる」努力をしましょう。
どれだけ高い信用度を構築して、お金を借りられるか。
それが経営者としての腕の見せ所なのです。